カーテンが開けっぱなしだ
眩しさに目が覚めた。携帯のアラームが鳴っている。起きなければ、手を伸ばす。
動けない。
何かが両脇にがっちりと絡み付いていて動けないのだ。私は重い瞼を叱咤し目を開けた。
後悔した。
「ぐう」
「すかー……」
鮮やかな黄色と青。朝から目に痛いわこの色合い。特に右。さりげなく胸に顔を寄せている黄色。
お前ら、与えてやった寝床はどうした。
「………」
「むにゃ」
「ますたぁのおっぱい」
「………起きんか!!この穀潰しども!!」
というわけで、頭にトリプルアイスクリームを作った二人は、私の目の前で正座中。青いの、カイトはめそめそべそべそと泣き、黄色いの、レンはむすっと膨れっ面。どちらも腹が立つったらない。
「あんたたち。ちゃんと寝床はあるでしょう?」
「マスター、さすがに俺は押し入れじゃ無理です……」
「俺でも無理だよ」
「ごちゃごちゃうっさいわ!」
だん、と床を叩くとカイトはびくっと震えてレンに縋った。兄貴のくせに情けないなこいつ早くなんとかしないと。
「俺は……カイトに言われてきたんだよ。マスターのところならあったかいよって」
「レン!?」
レンはうる、と瞳をうるませながら私の服の裾を握った。上目使いに私を見つめて、甘えたような声を出す。
「俺……マスターの側なら安心して眠れるかなって、思ったんだ……!」
「レン……」
「レンずっこい!こんなときばっかかわいこぶってぇ!」
ぎゅう、とレンは微かに震えながら抱きついてきた。マスター、か細い声が私を呼ぶ。
そう、ボーカロイドとてこの子もまだ子どもなのだ。甘えたい盛りなのだ。私は彼の柔らかい髪を撫でた。くすぐったそうに目を細める、バナナセーキのような香りが鼻をくすぐる。
猫のように擦り寄っては、キャ、キャ、と小さく声を上げて笑う。
かわいいレン、甘えん坊の私のうたひめ……
「なんて言うと思ったか、このバナーヌ!!」
「いっでぇぇぇ!!」
私はレンの頭についたしっぽのような髪を思いっきり引っ張り上げた。
そんな演技で私が騙されると思ったか。いつもいつもその無邪気な天使の笑顔で小悪魔のごときイタズラを働くのは誰だ?お前だろうが。
「しっかり人の胸に顔埋めてこの子はぁぁぁ」
「でもマスターそんな胸ないごめんなさいごめんなさい痛い痛い痛い痛い!!」
「マスターそれ以上やったらレンハゲる!!」
禁断の呪文を言ってのけたレンの髪を更に強い力で引っ張る。さすがに焦ったカイトが私を後ろから羽交い締めにして止めた。
チッ、もう少しだったのに……
「あんたの監督不行き届きよカイト。どうせ押し入れ抜け出したレンを止めにいったはいいものの、ミイラ取りがミイラになったんでしょ」
「う」
「バカイトがぁぁぁ」
ギリギリギリ、マフラーで首を締める。青い顔のカイトは蚊の鳴くような声で「すみませんごめんなさいでした」と繰り返した。まあ、一応止めようとしたんだから許してやるか。私はまた、ギロリとレンを睨む。
苦笑いしたカイトは、そんな私の肩をぽんと叩いた。
「マスター落ち着いてください。まずご飯にしましょうご飯」
「それもそうね。……玉子は目玉焼きにして」
「はい、マスター」
一礼したカイトは、レンを伴い部屋を出ていった。まったく、これが毎朝の出来事だってんだからこちらも疲れる。
がしがしと頭をかいてベッドに座った。部屋のドアをじっと見つめる。
まあ、
鍵をかけない私も私なんだけどね?
(マスターすみません、レンがスクランブルエッグにしちゃいました……)
(なァァァにィィィ)