ふに、と頬に何かが触れる感触に脳が覚醒した。それでもまだ眠気は離れなくて、目を閉じたままもぞもぞと布団の中を動く。
首もとを動く誰かの手。それを取って指先にやわく口付けた。ぴく、と震えたその手は少しの間されるがままだったけれど、やがて頬に伸びてするりと撫でた。やさしい感触、これは一体誰のものだろう。
うっすらと目を開けたら見えたセーラーの襟。ああなんだ、私のかわいいボカロちゃんか。
理解すると同時安心して、その胸に擦り寄った。頭を撫でられる手の温もりに頬が緩む。
きっとこれは夢だ。夢なんだ。だってあの子がこんなにやさしいなんてありえないもの。そもそも私のベッドにいるはずがないんだもの。夢ならば。どうせ覚めるならば。
いっそこのまま甘えてしまおう
腕を伸ばして彼をきつく抱き締めた。すぐそばで息を飲む気配。大好きよ、大好きよ、わたしのかわいいレン。
薄い胸に顔を寄せる、リアルなあばらの感触に苦笑い。なんだってここまで現実じみた夢を見るのだろう。そのまま顔を上げて薄いピンクの唇にキスをした。
このままいっそ、覚めない夢の中にいられたらいい「……マスター」のに、え?
「…………?」
「いい加減、苦しい」
「……レン?」
「あと、お尻触るのやめてもらえる?」
「…………」
さわ……さわ……さわさわ……
どうせ夢ならとかわいこちゃんのおしり付近をさまよっていた手を払われた。エメラルドの目が呆れたように細められている。
あ、あれ……?
「ずいぶんとさ、積極的だよね」
「れ、レンくん?どうしてここに?」
「どうしてもこうしても、酔っ払ったマスターに昨日連れ込まれたんだよ。……覚えてないの?」
ええまったく。
たらりとこめかみを流れる汗。わたしったら夢だと思って相当好き勝手したんじゃないか?指チューしたり抱きついたりっていうか普通にチューしたりええもうテンションがキャッキャウフフだったよねどうしてくれよう。
青くなったり赤くなったりする私を眺め、レンはにこ、とかわいらしく笑った。嫌な予感しかしない。
「さ、さーて起き」
「だあめ」
「ひぎっ……」
布団から出ようとする私をレンはがっしり肩を掴んで引きずり戻した。ちゅ、と首にキスをしたりパジャマをまさぐったり、さっきの私に対して仕返しだと言わんばかりに触ってくる。
「ちょ、ちょっと待って、レン」
「待たない。こうされたかったんでしょ?」
「ちぎゃあああ」
ボタンを外しにかかるレンにいよいよ慌てて悲鳴をあげる。するとちょうどよく部屋の扉が開いて、彼の双子のお姉さんがひょいと顔を覗かせた。
「もー、マスターうるさ……あ」
「り、リンちゃっ……」
「ごめんね、ごゆっくり!!」
「あああああん!リンちゃん行かないでよおおおう!!」
「はいはいマスター観念してねー」
ボフッと再びベッドに転がされて少年は鮮やかな笑みをこぼした。反して私は涙目になりながらそれを見上げている。
自業自得とはいえこれは……これは、あんまりじゃないだろうか。と思いつつ正直、そこまで嫌がってはいなかったりしてね。
「……やさしくしてね」
「それはわかんない」
「ばかっ」
だって好きなんだもの。