どうも姿が見えないな、と思ったら、彼女はどうやら寝室で昼寝をしていたようだ。真っ白なタオルケットを体に巻き付けて、マットレスの上に転がり寝息をたてている。
とたとたと短い足で駆け寄り、ひょいと軽い調子でベッドに飛び乗った。顔を覗き込めば、それは目覚める様子など少しもない寝顔。

「…………」

風は彼女の体に自らの身を預けて目を閉じた。こうしてくっついていれば同じ夢を見ることができる。そしてその夢の中ではきっと、元の姿に戻っている自分と、幸せに笑い合うことができる。
そう、期待した。

しかし夢に落ちる間もなく、にゅ、とタオルケットの間から伸びた手が自分の頭を押さえた。思わずその目を開けてぱっと振り返る。ぱっちりと目を覚ましたゆめこが、自分を見て微笑んでいた。

「……狸寝入りですか」
「今目が覚めたのー」
「そんな顔には見えませんよ」
「本当だもん」

起き上がったゆめこはタオルケットを広げて風を招き入れ、膝に乗せた彼を後ろから抱き締めた。すっぽりと包まれる自分の身、赤ん坊の姿であればこその体勢。元の姿であればこんなことできはしないだろうしさせもしない。風としては些か不満でもあった。

「どうしたの?」

まだ少し眠気を孕んだ声が振る。起き抜けで熱のこもる指先が頬を突く。黒い眼を上に向け、風はじっとゆめこを見つめた。

「本来ならば、逆なのでしょうね」
「なぁにが?」
「立場が」

彼の言わんとしていることを理解したのか、ゆめこは小さいその体をきゅっと抱き締めた。その表情がどことなくうれしそうで、風は何も言えなくなる。

「かわいいね、師匠」
「どこをどう取ればそこにいきつくのやら……」
「私はこーやってるの、好きなんだけどなー」

ぐりぐり風の頬に頬擦りしながら、喜びをにじませた声で彼女は答えた。が、彼としてはそうされるのは本意ではなかったし、そもそも顔には出さずともこの姿自体に問題があったのだ。
生活には……多少困りはすれどそこまで大きな不満はなかった。ただひとつ、彼女と接する際にのみ不都合は生じる。

普通の恋人がすることが、自分にはできない

それが彼にとって大きなネックとなっていた。自らの運命を受け入れる、自然に身を任せる、しかし彼の信条も彼女を前にすれば簡単に揺らぐ。

「私はね、」
「…………」
「師匠といられるだけで幸せよ」
「…………」
「師匠は?」
「……そうですね、私もです」

ゆめこが穏やかに笑った。風もそれに応えるように微笑んでみせる。





嘘だ。

嘘をついた。一緒にいられるだけで幸せなんて、そんなの嘘。
本当は触れたい、必要以上に近づいて、抱き締めて、もっともっと喜びを感じたかった。

それをゆめこが知らない訳がない。伸びた手は優しかった。温かかった。抱き締めて、首筋にかかる声はしっとりと濡れていた。

ああ、この短い腕では、君の背を包むことすらままならないではないか。



「幸せよ、それだけでいいじゃない」





人は欲張りだから望むんだよ、それ以上をね



title by 雲路様





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