彼のスニーカーの底が、さく、と白い地面に足跡を残した。マフラーを口元までぐるぐる巻いて、手は上着のポケットの中。
振り向いた彼は鼻を赤くして笑っていた。ふわ、と白い息が立ち上る。
「積もったねー」
「そうだね」
さくさく、歩いていく彼の後に続く。相変わらず手はポケットに入ったままだったので、寂しくなった私はそこに自分の手も突っ込んだ。
ちょっぴり驚いた様子だったけれど、彼は何も言わないで私の手を握った。
つなは変わったと思う。
1年生の頃はほんとにだめだめで、情けなくて頼れない男の子だったのに。途中からなんだかすごく変わってきて、それが顕著になったのは2年生の秋ぐらいからで、一時期行方不明になったとか噂も流れたりもしたけれど。
ああ確か私がつなのこと好きになったのもそれくらいの時期だったかな。
今ではきっと、獄寺くんや山本くんにもひけを取らないくらいかっこいい男の子だ。……恋人の欲目かもしれないけどね。
「さむい?」
「へいき」
「うそ」
「どうして?」
「ほっぺた、真っ赤」
くすくす笑ったつなが、ポケットから出した両手で私の顔を挟んだ。ぬくぬくとしたその手にむくう、と変な声を出し、楽しそうな彼を睨み付ける。
悔しいので、ある思い付きのもと彼の手に自分のそれを重ねた。その余裕そうな表情、今に崩してやるから見ていろ。
「ね、つな」
「ん?」
「こうしてるとさ」
「うん」
「キス、したくなるね」
「うん。…………え!?」
か、とつなの顔が真っ赤に染まった。離れようとする手を押さえつけ、にやにやと笑う。ざまあみろ、人の顔で遊ぶからそうなるんだぞ。
今にも湯気を出しそうなつなは、私から顔をそらした。視線は足元の白。押さえつけた手も段々と熱くなってきている。そろそろ勘弁してやろうか、などと思ったとき。
つなが恥ずかしそうにちらりと私を見た。
「……その……、……しちゃう?」
「!」
予想してなかった言葉に、こちらもぽんっと赤くなる。なんで赤くなるの、とそろそろいちごだかりんごだかになりそうなくらい赤くなったつなにつっこまれた。泣きそうな顔で。
なんで、って言われても、そんなの予想外のせりふだったからに決まってる。お互い目を合わせることもできず、けれど私は小さくこくりと頷いた。び、とつなが震えて僅かに飛び上がったのがわかった。
「い、いいの」
「う……ん」
「ほんとに、するよ」
「ん」
はあっ、とつなの吐いた息が浮かんで消えた。ぎゅっと目を瞑りその時を待つ。
それは、一瞬だけ熱を灯してすぐに消えてしまった。
「…………」
「…………」
「……恥ずかしい……」
「私も、ちょっと恥ずかしい」
「うう……」
「でも、うれしい」
固まってるつなに正面から抱きついてみる。うあっ、とうめき声(?)を漏らしたっきり、そのまま彼は黙ってしまった。
いつになったら私たちは、こういった行為に慣れるのだろう。これだから花に、「まだまだ子どもね」なんて言われるんだ。
「あ、あつい、ね……」
「ふふ。うん」
「あの、そろそろ、」
「うん?」
「離れて……」
「やあだ」
「ゆめこ!」
雪が溶けて春が来るまでには、私たちも一歩前進できるのだろうか。
title by 尋名様