もしも自分の恋人がこの世に二人存在して(ああ別に二股とかそんなんではなく同一人物として)、その二人から等しく愛情を注がれたのだとしたらそれは、幸福なことだと言えるのだろうか。



私は、否、と答える。





「ゆめこから離れなよ、おじさん」
「ゆめこは君みたいな子供じゃなくて、僕みたいな大人が好みなんだよ」

ねえ?と耳元で低く囁かれたが最早赤面することも叶わない。はいはいそうですねえと半ば投げやりに答えて迫ってくる顔を押し返す。じゃあ僕の方が好き?と左から迫る顔もはいはい好き好きと押し返して、とうとう私は盛大なため息をついてしまった。

そもそもこのわけのわからない状況を作り上げたのは、彼の後輩の居候という私にとって完全に赤の他人ともいえる子供だった。私の恋人に『うるさい』という理由でブン殴られ(実に大人げない)、不気味な色の重火器を取り出した少年はあろうことかその恋人に向けてぶっぱなした。
いくら並盛最強の人とてこんなバズーカには勝てまい。久しぶりに本気で慌てて駆け寄った私の前に現れたのは、平気なツラした私の恋人と、目をぱちくりさせたスーツ姿のこれまた私の恋人だった。

ただし後者は元の彼よりももっと年上だったわけだが。

「ねぇ、いい加減にして。ゆめこは僕のだよ」
「何を言ってるの。寝言は寝て言え」
「さっさと離れろ」
「こっちのセリフだ」
「すいません、私を挟んで肉弾戦に持ち込もうとするのやめていただけませんか」

両隣でトンファーを構える彼らに、私はうんざりしたように告げた。おまえら、この状況で思いのままに暴れてみろ。怪我するのは間違いなく私の方だぞ。

ああごめんね、とユニゾンした謝罪のセリフ。そして同時に懐にその武器をしまい込んだ。おまえらはどこの曲芸師かと。

マジでこれはどうにかならないのか、右は低い声でおまえ誰って言いたくなるくらい甘いセリフを吐いてくるし、左も同じくおまえ誰って言いたくなるくらい甘えて抱きついてくる。なんなんだこの状況。誰かどうにかしてくれ。非日常的すぎて脳内キャパシティ余裕で越えてるわ。
そもそも同じ人間がひとつの空間に二人存在してるって相当大変な事象なんじゃないのか。だからさあおまえらどさくさに紛れて太もも触ったりシャツまさぐったりしてんなよ噛むぞ。

「気持ちいいな、ゆめこの肌……」
「否定はしないけど触らないでったら」
「いいじゃないか、別に。どうせ後々僕のものにもなるんだから」
「……本当?」
「うん。10年後も僕はゆめこと一緒だよ」

右の彼が笑いを含んだ声で言えば、それを聞いた左の彼が目を輝かせる。ちょっと待て、10年後もこいつと一緒だと?つまり10年後の自分に胃痛頭痛ストレスフラグが立ったというわけだ。
徐々に脱がされていく洋服に目もくれず、私は頭を抱えた。どうにかその未来を回避する方法はないのだろうか。

「どうしたの、ゆめこ」
「考え事?僕以外のこと考えちゃ嫌だよ」
「…………」

ああ、だめだ。回避方法はない、まったくない。ゼロだ終わった。

私が彼(ら)のことを好きでいる限り、その未来を避ける方法などあるものか。恐らく私は生涯を彼と添い遂げることになるのだろう。そんな気がする。気がするだけだけど。



「大好きだよ」
「愛してるよ」
「「僕のゆめこ」」



左右から囁かれる愛の言葉に、私はうっとりと酔いしれた。(またの名を現実逃避とも言う)



title by 璃琉様



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