我が家は比較的寒い地方に位置し、故に冷えた外気が室内に入らないように窓、玄関等は二重になっていた。
磨りガラスの窓を開ければもう一枚覗く透明な窓。外気の冷たさに、花のように白い氷がガラスにまとわりついている。冬特有の景色であるそれが、私は好きだった。



そんな寒い夜のこと、窓からごん、という音が聞こえて私は思わず固まった。ここは二階である。どこぞの悪戯小僧が雪の塊をぶつけたのかもしれないが、それにしても今の音は鈍かった。
寒さだけではない震えが背に走る。怖いけれど、確認しなければ。何かあったら警察に連絡しないと。
なにもなければいい。なにもありませんように。


祈りながらカーテンを開ける。白っぽい影に、私の祈りは神様に通じなかったかと絶望した。ならば、せめて正体を確かめ警察に通報、または誰かに頼んでお祓い、してもらわなければ。

ごくり、息を飲んで磨りガラスに手をかける。いやだな、この空気。もうやだ逃げたい。
ぎゅっと目をつぶり思い切って窓を開けた。冷たくて白いなにかがごろん、と足元に落ちてくる。

「ギャアアア!!」
「しゃ、さむい……」
「……は?」

私の足元で震えるそれは、半分凍りかけた、銀髪の小さな子ども……子ども?だった。





「お加減はいかがでしょうか、坊ちゃん」
「……悪くねぇ」

丸くなったまま動かなくなった彼を慌ててお風呂に入れて、大きめのバスタオルにくるんで彼が目を覚ますのを待った。
やがて目を覚ました彼はきょろきょろして、私を見つけるとぴゃっと逃げ遠くから威嚇。これはモノでつるしかない、そう思った私はレンジで温めた牛乳を彼に出した。
くんくん、においを嗅ぐ彼に、ただの牛乳だよと告げる。おそるおそるそれを口にした彼は、やっと警戒心を解いてこちらに近寄ってきた。

曰く、彼は妖精さんらしい。今日からこの地域の担当になったそうだが(妖精さんにも担当地区ってのがあるのか)、あんまりにもさむいもんであの窓の中で行き倒れてしまったんだとか。意味がわからない。
俺は南育ちなんだよ!と彼は涙目でぼやいた。なるほどかわいそうに。

「ちくしょう、さむくて力もでねぇ。おかげでこんなに縮んじまった!」
「へぇー、坊ちゃん本当は大きいの」
「当たり前だろ!誰が好きこのんでこんなぷにっぷにの体でいるか!」

がおー、と怒鳴り散らした彼だったが、急にぴたりと動きを止めるとばふっとクッションの上に倒れ込んでしまった。

「坊ちゃんどうしたの?」
「……ねむい」
「あらあら」

ちっちゃいから体力も落ちたのかもね、と私は彼を抱き上げた。しきりに目をこする彼をベッドに寝かせて、自分ももぞもぞと潜り込む。
なに一緒に入ってんだよ、と眠たそうな声で彼は抗議したが、私にとってこの子ども体温は貴重であった。

つまり湯たんぽ代わりである。

弱々しい力で私を突っぱねようとする彼を強く抱き込みながら、私は深い眠りについた。

その日は、暖かい雪の中で、誰かと微笑み合っている夢を見た。





翌朝目が覚めたら、腕の中にあの子どもはいなかった。あれは夢だったのだろうか。
まあ、妖精なんてこの世界にいるわけないしね。しかしあの湯たんぽは惜しいことをしたな。

ところで、





私をきつく抱き締めて眠っている、この銀髪の男の人は一体誰なのだろうか。

title by 青木様



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