一度目。
隣には金色の髪の彼もいた。いつも三人で、楽しそうに笑っていたのを覚えている。それを壊したのは他でもない、自分だったのだけれど。

二度目。
やっぱり僕と彼と彼女は三人一緒だった。でもなんとなく、僕だけいつもひとりだった気がする。心の距離的な意味で。一度目で裏切った報いだろうか。悲しかった。

三度目。





「骸、ここわかんない」
「少しは自分で考えることを覚えなさい」

僕は彼の面倒を見ている。数式が並べられたノートを前にうんうん唸っている。かれこれ1時間はこの状態の繰り返しだ。いい加減飽きてきた。

「ごめんね骸くん。弟が面倒かけて」
「本当ですよ」

部屋の扉を開けた彼女が、ティーセットを乗せたトレイを持って入ってきた。骸くんは厳しいな、そう笑って僕の隣に座る。

そもそもどうして僕が沢田綱吉の宿題なんて見てやっているのだろう。あの赤ん坊の家庭教師はどうした。目で尋ねたら沢田綱吉ではなく、姉のゆめこの方が答えてくれた。
同居人たちと出掛けてしまったと。
それでなぜわざわざ僕が呼ばれたのだろう。

「偶然、骸くんが捕まったからって」
「お前もリボーンには勝てないんだな」
「笑ったな?そのノート、今すぐ鮮血で染め上げましょうか」
「骸くん怖い。どうしてそんなこと言うの」
「…………。……冗談です」

眉を下げたゆめこにそう訴えられては、引き下がらざるを得ない。しぶしぶ僕は右目にあてた手を下ろした。
まあ、どこの世界に好きな女性を怖がらせて喜ぶ男がいるのかと。そういう趣味の人間もいるかもしれないが僕はそれには属さない。残念ながら至って普通の感覚の持ち主だ。
そんな僕を見た彼は、教科書から顔を覗かせてにやにや笑っていた。超直感の持ち主故、彼は僕がゆめこに永いこと好意を寄せていたことを知っているらしい。
そう、ずっと、知っていた。
腹立たしいことだ。死ね。三回死ね。犬に食われて死ね。

「でも骸くん、やさしいよね。なんだかんだ言ってつなの面倒見てくれるんだもの。いつも、ありがとうね」
「…………まあ、腐れ縁ですから」
「?でも骸くん、つなと最近知り合ったんだよね?」
「…………」
「姉ちゃん、骸は電波なんだからこいつの言うこと真に受けちゃイダダダダ」
「……それにあなたも、いますし」
「え……」

沢田綱吉の頬をつねり上げながら、ぽつりと呟く。なかなか勇気のいる一言だったが、聞いたゆめこは頬を染めて僕から顔をそらした。
これは、僕の都合の良いように解釈しても構わないのだろうか。彼女も僕に気があると。

永い永い片想いも、やっと終わりを告げるのだろうか。



「そうだよね、骸がまともに女の子と話せる機会なんて、クロームと姉ちゃん以外にないもんねぇ」



いつの間にか僕の手から逃れていた彼が楽しそうに笑った。なんだそういうこと、もう骸くんったら、ゆめこも苦笑いしている。
誤解なきよう言っておくが別に、僕はそこまで『女』と接する機会を求めているわけではない。わかっているとは思うが念のため。

「沢田綱吉……」
「でも骸くん、女の子にモテそうなのに。不思議ね」
「ほらこいつ、電波だから」
「つな!」

弟をたしなめる彼女の声を聞きながら僕は震えた。
この男は。
懲りずに、何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も

「今日こそ決着つけましょうか」
「ん?骸ごめん、何の?」
「とぼけるな!」
「やだなあ、何怒ってるんだよ?」
「何故僕の邪魔をする!君という男は、あの頃からまったく変わらない……!」
「何故って……楽しいから?」
「つな、何の話?」
「ほらこいつ、電波だから」
「沢田綱吉!!」

がっしゃん、と振り下ろされる三叉槍。あっさりかわした沢田綱吉は、ゆめこに「おやつ取りにいってこようよ」と無邪気に笑いかける。戸惑ったように一瞬ちらりとこちらを振り向いたゆめこだったが、彼に促されて結局行ってしまった。

虚しい思いだけがここに残る。少しだけ、泣きたくなった。





三度目。
相変わらず僕らは三人一緒だった。但し彼は今までに輪をかけて意地悪く、彼女はぶっ飛ぶほどに鈍い。片想いが、実る気がしない。



title by 九条様




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