「つまり、あんたより長く部隊にいた私はあんたの先輩であって簡単に顎でこき使っていい存在じゃあないわけよわかる?いくら実力主義の組織でも年上の人間はちゃんと敬ってもらわなきゃただでさえあんたベルやレヴィに煙たがられていつ消されるかわかんないのにっていうか毎度毎度フォローしてやってる私の身にもなってくれない?あんたのお陰で毎日が死の縁よどうしてくれるの、あぁでも別にあんたのためじゃないんだからねそうだあんたの師匠に面倒見てやってんだからその分の報酬くれってねだってやろうか」
随分とよく回る口だなぁ、とぼんやり彼女を眺めた。彼女の話すすべてに答えを返すならば、先輩でも使えない人間はとことん使えないわけでああでも彼女は別に使えないわけじゃないちょっとドジなだけで。顎でこき使った覚えはないがもしかして、たまに書類作成を押し付けたりボスへの報告を押し付けたりしたあれを言ってるのだろうか。
年上と言っているがどうせ一つしか変わらないし、ぶっちゃけ駄王子とキモいオッサンを敬う気持ちなど無に等しい。そしてフォローを頼んだ記憶はない。彼女が勝手にやっていることである。人の好意を無駄にしてと言われるかもしれないが、事実だ。
死の縁だなんだ言ってもなんだかんだで生き残っているし、彼女はしぶとさに定評のある人間なのでそこのところは心配していない。
ところでなぜいきなり途中でツンデレを挟んだりしたのだろう、うっかりかわいいなーとか思ってしまった。実に不本意だ。師匠に面倒見てる分金をせびるそうだが、あの放任の師匠が自分の為に金を出すだろうか。どうせ「そのまま放っておいても死なないから」と言って突っ返すに違いない。
そこまで考えたのはいいものの、こんな長いセリフを口にするのは億劫だ。一言で済ませることにしよう。
「ミーはそんな、ゆめこ先輩が好きです」
「かわいくない後輩ね、そんな上っ面のセリフにほだされると思ってんの?」
間髪入れずにぴしゃりと返された。割と本気だっただけに少しショックだ。でもどうせいつものことだし。ここで口答えしたらまたお説教コースなんだろうなぁとため息をつく。彼女の地獄耳がそれを聞き漏らすはずもなく、結局また長いお説教が開始された。
内容に関してはコメントを控えるとして、こうして二人でいる時間はあまり嫌いではない。だってゆめこ先輩の声を聞いていられるから。こう考えられる自分は相当ポジティブだと思う。駄王子には「お前頭おかしんじゃね?」と言われた。幻覚のカエルに襲わせた。
「だからね、いい加減自分の立場っていうのをよく理解してもらわなきゃ……聞いてる?」
「聞いてますー」
「そう。それで、ええと、なんだったかな」
もう、何を言おうとしたか忘れちゃったでしょ!とゆめこ先輩は眉間に皺を寄せたがそれはこちらのせいではない。とりあえず口だけ、はあ、すみません、と謝っておく。しおらしい態度に満足したのか、素直でよろしい、と彼女は頷いた。
「いつもそう、素直でいれば危険もないのに」
「あいつらに払う敬意は持ち合わせてませんー」
「私には?」
「以下同文ー」
「このクソガエルが」
「だって、ミーがゆめこ先輩にもってるのは敬う気持ちじゃありませんからー」
さっきまでは素直でいい後輩だったのにと怒る先輩の顔を両手で挟むように掴む。驚きと警戒心を孕んだ手がそれを払うよりも早く
ちゅっ
「恋慕う気持ちですよ。さっきのミーの話、ちゃんと聞いてましたー?」
好きだって言ったでしょ。
ゆめこ先輩はぱくぱくと口を開いたり閉じたり。あんまりその様がおもしろいので、とりあえずもう一度その口を塞いでおいた。もちろん自分の口で。
title by なこ様