赤いばらの花のような女だった。
勝気そうな榛色の瞳とつんと尖った赤い唇が印象的な女。仕事に行く途中の街中、男に絡まれているところを見かけた。

気まぐれで、助けてやろっかなーなんて思ったらその女、俺が手を出すより先に相手の男の顔を張り手で殴って吹っ飛ばした。更に吹っ飛んで倒れた男の頭を思いっきり靴で踏みつけて、何やら荒っぽく言葉を投げかけ。踵を返してさっさと帰っていってしまった。

「……スゲー」
「俺ぁもっと淑やかな女の方が好みだぁ」
「スクアーロの女の趣味って年寄りくさいよね」
「あ゛ぁ!?」

ぎゃんぎゃん騒ぐスクアーロはそのままに、ぴんと背筋を伸ばして去る彼女の後ろ姿を目で追う。もう行くぞ、と隣の同僚に引っ張られるまでずっと、その姿を見つめていた。





「ベルの奴、一体どうした」
「街で見かけた女に一目惚れだぁ」
「あらっ。ベルちゃんにもとうとう春が来たのねー」

屋敷に戻れば幹部のからかう声も、耳には入っても頭の中までは届かない。だって頭の中は、昼間見かけたあの子でいっぱいだったから。
気の強そうな奴だった。威勢がいいのは嫌いじゃない、むしろ結構好きなタイプ。おとなしい女はつまらない、俺と対等に渡り合える相手じゃなきゃ。

どうにかして、あの子をものにすることはできないだろうか。どうしてもほしい、あの子がいい。
綺麗で気が強くて、芯のしっかりした子。ああでも、あれだけ綺麗な子ならもう恋人はいるのかもしれない。

それなら奪うまでだけど。

「………ししっ………」
「……気持ち悪ぃぞぉ……」
「……笑ってるわね……」
「………」





いてもたってもいられなくなり、俺は窓から外にに飛び出した。屋根を渡り夜空を裂き、煌めく街を見下ろす。彼女の家はわからないけれど、なんとなくこうして待っていれば会えそうな気がするのだ。

眼下に見える路地裏、千鳥足で歩くチンピラ共。昂る気持ちを抑えきれずにナイフを投げた。赤いばらの花のように散る血にますます興奮する。
ああ、早くあの子に会いたい。あの子の血は、どんな味がするんだろう。やはり甘い味がするのだろうか。

早く、会って、キスしてやりたい。

目を閉じたら赤いあの子が笑っていた。
だから今夜は、








「………という俺の一目惚れ話。ど?春花、惚れ直したー?」
「随分熱烈ね。惚れ直すどころか、引くわ」
「引くなよ。殺しちゃうよ?」
「殺れるものなら殺ってみなさいな」
「んー無理っ!だって俺、春花のことスゲー愛しちゃってるからさぁ」



だから今夜も、眠れないの(寝かさないよ)





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