「春花、あんたに家庭教師つけたから」
母親の言葉はまるで死刑宣告のように。この世で何が嫌いって、勉強、勉強、勉強に決まっている。成績はもちろん下の下だし、サボりだってアタリマエ。
教師さえもさじを投げたこの私に家庭教師をつけるとは、なんたる勇者だこの母親は。ふざけんじゃねー!と鞄を投げたら、まな板で打ち返された。
毎日のように思う。この親にしてこの子ありだ、と。
「とにかく、もうすぐ来るから部屋片付けなさいよ。若くてカッコイイ先生なんだから」
「ま、まじか」
「アタリマエでしょ、お母さんをなんだと思ってるの」
「世紀の面食い女」
「イエス!!」
さあ部屋に戻るのだ、勇者春花よ!母さんは私を部屋に向かわせた(久々にドラ●エやったな母)。
勉強は嫌だが、『若くてカッコイイ先生』とならやる気は出るかもしれない。ちなみにうちの学校にいる男性教師は『若いが顔がちょっと』な教師と『既に墓場に片足を突っ込んでいる』教師だ。
入学と同時に私は絶望した。
「女はいいの揃ってんのにさー……微妙だよなぁ……」
「色気のねえ部屋だな」
「っさいなーほっといてよ……、………!?」
突然背後から聞こえた声に、私は驚き振り向いた。部屋の入り口に立つ、黒いコートの長身の男。
顔には大きな傷跡、髪に付けられた羽根のエクステ、赤い瞳に眉間の皺!
「だ、だ、誰、」
「ああ?てめえ聞いてねえのかよ」
「き、聞い、ちょ、かあさあああん!?」
「なーにー?あら先生。来てたの?」
「返事なかったから上がらせてもらったぞ」
「ごめんごめん。ご飯できたら呼ぶから、それまで春花のことヨロシクね」
「わかった」
くるっと身を翻し部屋を出ていこうとする母のシャツの裾を掴む。不思議そうな顔をして振り返る母に、勢いよく捲くし立てた。
「誰コレ誰コレ誰コレ誰コレ」
「家庭教師のザンザスくん」
「くんって顔じゃねーよ!若くてカッコイイってコレ、人殺しの顔だよ!!」
「わかってんじゃねえか」
「本物か!」
「ちゃんと勉強しないと眉間に風穴開くかもよ!じゃあね春花がんばって〜」
「みち子(母名)コルァァァ!!」
追いかけようとした私の襟首を、ザンザス………先生が掴んだ。威圧感たっぷりの目で見下ろし、獣の唸り声のような低い声を出す。
「黙って教科書開け」
「きょ、教科書学校……」
「はあ?」
「ごごごごごごめんなさ」
「チッ……いい、じゃあこれをやれ」
ばさっと渡されたのはずらっと数式が並べられたプリントが数ま………数十枚……。
血の気を引かせながらザンザス先生の顔を見上げたら、思いっきり睨み返された。やれってか。わかんねえよ!
「どこがわからねえ」
「全部」
「てめえの頭には詰まってんだ?」
「一応……脳みそ、のはず」
「ミソッカスの間違いじゃねえか」
「(えええええ)」