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▼ 臆病者ハロウィン


「妙ちゃんすごい。すごく似合っている」

「うん。姉御しか着こなせないアル」

「流石です姉上」

「ふふっ。も〜みんなお上手なんだから」

いや、私は今心の底から思っている言葉を漏らした。

銀ちゃんがスナックすまいるに遊びに行くというので私たち子ども組も同行した。普段はついていくなんてことめったにしないのだが今日はハロウィン。神楽ちゃんがお菓子貰いたいアル!と言い、わたしと新八くんはお菓子をかっぱらいに行くのなら人数多い方がいいネ。歌舞伎町の女王に着いてくるがヨロシ!と神楽ちゃんの素晴らしいジャイアニズムが発揮され、わたし達三人は嫌がる銀ちゃんに無理やりくっついてきたのだ。わたしと新八くんは強制的にくっついていかせられた、と言った方が適切な表現だけど。

「マジすげえよお前。その女王姿。いや女王っつーか魔王?そりゃそうだわな、魔王なんだから似合わねえはずがゴファッ」

ああなんで言っちゃうのかな…。人のこと言える立場ではないのは百も承知だけど、銀ちゃんがモテない理由ってこういうところだと思う。
妙ちゃんの右ストレートが銀ちゃんのみぞおちに綺麗に入った。あらやだごめんなさい手がすべちゃった。と妙ちゃんはにこにこ笑いながら謝る。絶対悪いと思っていない。絶対事故じゃない。

視界に入ってくるのは小悪魔ルックの女の子や魔女の姿をした女の子。わたしははあっと恍惚の息を吐いた。

「可愛いなあ〜…」

そうです。わたしは、可愛いものが大好きなんです。

「あんたも着ればいいじゃん」
え、と振り返ると吸血鬼の恰好をしたおりょうさん。マントを羽織っているがスカートはひざ上二十センチなので美脚が存分に拝められる。付け八重歯がすごく色っぽい。年齢訊いたことはないけど、この子多分わたしとあまり年変わらないんだよね。泣けてくるよね。

「えっ」

突然の提案にわたしは身じろぐ。そこを妙ちゃんは言葉を重ねてきた。

「あら、いいじゃない」

「まだ衣装も残っているし」

「え、で、でも〜ぉ、わたしには似合わないんじゃ、」

「ああそういう『え〜そんなことないよ〜似合っているよ〜』って言ってほしいかまってちゃん発言うざいわよ?本当は着たいのバレバレよ?」

「すんまっせんでしたあああああああ」

さすがです。魔王にはわたしの薄汚い心はお見通しでした。



十五分後、わたしは真っ黒なミニドレスに身を包み、猫耳カチューシャを装着し、軽く化粧を施してもらった。髪の毛はおろし、わたしのくせっ毛をいかしたヘアスタイルしてもらった。アイラインというものを引かれたせいか、黒目が強調されている。目尻で少し跳ねさせたところがこあくまめいくというもののポイントなのだとか。おりょうさんに説明されたけどなんのこっちゃよくわからなかった。だってわたし田舎娘なんだもの。今まで畑を耕して生きてきたんだもの。

「わあ、小春さんすっごく可愛いですよ!」

「おー、お前もそういや十八の娘なんだったなあ」

「可愛いアル!いつもと違って全然もっさりしてないアル!」

あのォ、新八くん以外ろくに褒められてないんですけど。それどころか言葉のナイフでめっさ傷つけてくるんですけどォ。

でも。

全身鏡に映った自分を見る。そこにはいつもより垢抜けた自分が映っていた。
自然と、気分が上がる。一応わたしだって女の端くれなのだ。似合わないけどたまにはこうやって着飾って調子に乗りた「あら?クソゴリラだけじゃなく沖田さんも来られているわ」

ピシ。わたしの体は氷漬けにされた。調子に乗ってごめんなさい。

お妙さーん!と近藤さんの声に続き近づくんじゃねえ!と妙ちゃんのドスに効いた声、からの、殴打の音。わたしは振り返れないので耳ですべての出来事を想像している。だって、振り向いたら。

「珍しいですね。沖田さんがいらっしゃるだなんて」

「いい加減近藤さんの亡骸引っ張りにわざわざ来るの面倒くせーんでどうせなら最初っからいた方がいいと思いやして。…って、旦那とメガネと不法滞在者じゃねえか」

「おい誰が不法滞在者アルかァァァァ!」

沖田さんと神楽ちゃんがまた諍いを始めた。これはチャンスだ。この隙にわたしは逃げよう。
こんな姿、沖田さんが見たら…

『…ぷっ。似合わねえ…。そんな醜態を晒すとかお前生粋の変態ドM?』

と、心底蔑んでくるってばよ…!

「あら、どこ行くのかしら?」

がしっと笑顔の妙ちゃんに肩を掴まれた。ものすごい力です。そこら辺の男の人とは比べものにならない強さ。

「え、えっと、トイレに」

「沖田さーん」

言葉にならない叫びが出た。たぶんわたしは今ムンクそのものだ。

沖田さんがこちらを見る。目を見張らせる。ああ、もう、駄目だ。

「どう、可愛いでしょう?」

沖田さんは、黙ったまま。ただ、固まったかのようにわたしをじいっと見ている。

やばい、やばい、やばい。

引 か れ て い る。

わたしはその場で、

「すんまっせんでしたああああああああ!」

と頭を下げた。息もつかぬまま「すんませんこんな田舎娘が!こんな猫耳とかしちゃって!!すみません分不相応なことをして!すみませんすみませんすみません!」とひたすら謝り続け、じゃっそれでは!と踵を返し脱兎のごとく逃げ帰ったのだった。























「あら、沖田さん。お顔が赤くないですか?」

「実はオレ熱があるんでさァ」

「まあ、突然発症する熱ってあるんですね」

「(…クッソ性格悪ィなこのアマ…)」

「青春だねえ総一郎く〜ん」

「死ね」


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