拍手小説


▼ ふりだしにもどる(東卍イヌピー)


 青宗君の目は節穴だ。

 ばっさばさの長いまつ毛。吸い込まれそうなほど強い力を湛えた大きな瞳。少し尖った顎先はシャープで中性的な印象を与えるけど、

 ……どこからどう見ても女の子……!!

『イヌピー君が男って言ってた子、女の子でした! やー吃驚っす!』

 ……いやいやいや。女の子じゃん……! 私は花垣君、そして自分の彼氏の目の節穴っぷりに脱力する。本人曰く髪短いし体の線隠してたしなによりもんのすっっっごく強いからしょうがないとのこと。花垣君も制服姿を見るまで気づかなかったらしい。いや女の子よ。女の子よ。超超超超可愛いじゃん……! 今すぐアイドルや女優として売り出されてもおかしくないほどの美少女のきらめきに圧倒されながら心の中で青宗君にツッコミを入れていると「オマエ大丈夫か?」と美少女――千咒ちゃんは首を傾げた。

「ずーっと固まってっけど、なに、腹でも壊した?」
「あ……お腹は大丈夫。ありがと。えと、私、中野陽子! 千咒ちゃん……でいいんだよね?」
「千咒でいいよ。ちゃん付けムズムズする」

 千咒ちゃんはボリボリ首筋を掻きながらそう言った。あ、喋り方とか所作は男子っぽいんだな。

「じゃあ千咒で……。ねぇ、千咒ってその、マスカラとか……」
「んだそれ」

 ああーーーー! でたぁーーーー!!

 天然で顔がいい人特有の! 無知! 顔を良くすることを知らない!! 何故なら!! 元から顔がいいから!!
 化粧で顔面偏差値を上げているすっぴん地味顔の私は羨望で胸を掻きむしりたくなった。

「やっぱそうか! 千咒も青宗君とかワカ君と同じ族だよね! 生まれた時から睫毛バサバサ族だよね!」
「んな族入ったことねーよ」
「えっじゃあ今もすっぴん……!? なんもしてない!?」
「化粧とか七五三以来してねえよ。塗り絵されてるみたいでだりぃ」
「ぎゃーー! 持てるものの発言ーー!」
「オマエさっきから何いってんだ」

 神様は私を作るときは鼻をほじりながら作ったんだろうけど千咒を作るときはピンセットで『ここに絶対鼻を……置く!』と数ミリのブレも許さない勢いで目を凝らして丹念に作り上げたのだろう。神様! 私にももうちょい労力割いて!

 千咒は内側から発光しているように輝いていた。ワカ君の『ウチのじゃじゃ馬姫』ってキザな紹介文があまりにも似合いすぎる……。
 
 自分の顔面偏差値を上げるために化粧をしているけど、私は単純に化粧をすることが好きだった。可愛いアイシャドウやリップは手に取るだけでテンション上がるし、色の載せ方やハイライトの入れ具合で大人っぽくなったり可愛くなったり(当社比)と化粧の施し方で顔が変わるのが楽しい。
 ……やりたい……。すっぴんでもこれだけ可愛い。化粧したらどれだけ化けるんだろう。好奇心がむくむくと首をもたげた。

「ねぇねぇ、化粧させてくんない?」
「やだよ。ジブンは塗り絵じゃねえ」
「そこをなんとかー!」

 しかめっ面の千咒の腕に腕を絡ませて「ちょっとだけ!」と食い下がる。

「今も可愛いけどもっと可愛くなるよ!」
「可愛いよりかっこよく、」
「可愛い姿見せたい子とかいないのー?」

 千咒の動きが一瞬不自然に止まった。

 ……お?

 私は空気が読める。だから今のでわかってしまった。
 にやぁっと笑みが顔に広がる。

「えー! いるんだ!」
「いねーしオマエの気のせいだし」
「ううん! 私こーゆーカン当たるんだよね! どんな人!?」
「いねーーし!」
「いいじゃんいいじゃん言えよ〜どんな人かってだけでいいからさ〜!」
「オマエしつけぇ!」
「ガールズトークしよーよ! 言わないと……こうしてやるーー!」
「あはははは! ちょっ、くすぐんの、あはははは!!」
「言え言え〜!」






「なんか和むなぁ……。死ぬとか殺すとかクソとかそういうのないっていいなぁ…………」
「イヌピー君! このTシャツクリーニングしろよ! あ〜〜〜せっかくのオレの最高傑作がどうしてくれんだよ!!」
「テメェは今すぐ眼科行け。これのどこが最高傑作だ」
「は? どっからどう見ても最高傑作だろ。つかイヌピー君なんだかんだ着てくれてんじゃん。ったく、素直じゃねえんだから……」
「…………カ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッペェ!!」
「あーーーーーーーーー! また!! テメェ……殺す!!! もう許せねぇ!!」
「かかってこいクソが五秒でのしてやる」
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜もうやだな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」




prev / next

[ back to top ]



- ナノ -