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▼ ふりだしにもどる(東卍イヌピー)


 松野千冬は爆笑した。

「ギャハハハハハハハハ! ギャハハハハハハハハ! ひーーーっ、死ぬ、ギャハハハハハハハハ! ギャハハハハハハハハ!!!」

 柴八戒も爆笑した。

「ひーーーーーー無理無理マジで無理アハハハハハアハハハハアハハハ!!!」

 三ツ谷隆は声を出さずに爆笑していた。腹を抱えながら崩れ落ちている。笑いすぎて声が出ていない。「死ぬ、死ぬ、死ぬ………!」と呻いている。三ツ谷はこれ以上腹筋を刺激されたら崩壊すると本気で危惧していた。

 何故三人が大爆笑を極めているのかと言うと、柚葉から送られてきた一枚の写メが原因だ。たまたま三人でいる時に、八戒が柚葉からのメールを開いた。

『陽子と乾。笑』

 さばさばした気質の柚葉らしい簡潔なメール。添付されていた写メを開いた瞬間、八戒は固まりそして爆笑した。「ひーーーっ」と引き笑いしている八戒に何事かと千冬と三ツ谷は八戒のケータイを覗き込む。

 爆笑した。爆笑するしかなかった。

 満面の笑顔を咲かせている陽子の隣で死んだ目をしている乾青宗が、くまのプーさんのカチューシャをつけていたからだ。

「はぁっ、はぁっ、はら、腹が、オレもう、やべぇ、盲腸かも……!」
「やっべぇ死ぬ、マジで死ぬ……八戒その写メタケミっちに送れよ!」
「そだな! ブフォッ! あ―死ぬ……てかタカちゃん大丈夫? さりげに一番ウケてね?」
「大丈夫じゃねえよ………」
「三ツ谷君すっげーーー声震えてる!! クソウケてんじゃん! やーでも仕方ねぇよな……去年まで『松野千冬、テメェとはぴんぴんしてる時にやってみたかった』とか言ってたのにな……」
「千冬今のすげー似てる! もっかいやってよ!」
「松野千冬、テメェとはぴんぴんしてる時にやってみたかった……」

 千冬は一年前のクリスマスの乾青宗を声から表情まで完璧に再現してみせた。似ていた。

「アハハハハハ!! 似てるーーー! やっべーーーー!! もうイヌピー君じゃん! イヌピー君だよ! なぁタカちゃ……タカちゃん!? タカちゃん!? 大丈夫!?」
「やめろって、やめろって千冬………」

 三ツ谷にとって千冬の乾の物真似はツボだった。腹を抱えて蹲りながら息も絶え絶えに懇願する。しかしそれに気を良くした千冬はもう一度「松野千冬、テメェとはぴんぴんしてる時にやってみたかった」と再現し、三ツ谷の腹筋を破滅に追いやった。

「去年までイヌピー君そんなんだったのになぁ。全員殺すって感じだったのに……それが今や………ぜってーこれ陽子ちゃんに頼まれてだよな。すげー目ぇ死んでんもん。こんな目が死んだプーさんいねぇよ」

 八戒は去年を思い返しながらしみじみと呟く。首筋にナイフを宛てられた記憶はまだ新しい。常に歯をむき出して唸っている狂犬のような男だった乾が今や彼女とディズニーランドでデート。そう思うと感慨深かった。今や朗らかな少女と付き合い、結構いいようにされている。

「てかイヌピー君がディズニー行く事自体おかしいんだよ。なんせ去年まで松野千冬、テメェとはぴんぴんしてる時にやってみたかった」
「千冬オマエマジでやめろって死ぬんだよオレの腹筋が……」
「千冬のイヌピー君の物真似再現率クソヤバいから今度陽子ちゃんの前でやってみてよ!」

 ――カラカラ

「おーいいなそれ! 練習しとくわ! つーかなんで去年やらかしまくったイヌピー君に彼女がいてオレにはいねぇんだよ………」
「オレ最初イヌピー君が脅して陽子ちゃんと付き合ってるんだと思ってた」
「まぁ今のイヌピー良い奴だしんなこと言ってやんなよ。でも去年のイヌピーからはマジで創造できねぇな。彼女と……ディズニーで……ぷ、プーさん……」
「タカちゃん! タカちゃんまた息が!」

 ――カラカラ

「イヌピー君中野さんとディズニーで何乗ったんだろ」
「もう何乗っててもクソウケるって。全員殺すって目つきの男がディズニーいる事自体ウケんだからさ。松野千冬、テメェとはぴんぴんしてる時にやってみたかった」
「千冬マジ頼むもうマジ頼むそれオレ無理なんだわ死ぬんだわ」

 ――カラカラ

 三人は気付かなかった。去年と今年の乾青宗を比べてからの千冬の物真似で爆笑の渦の中に引き込まれていて、気付かなかった。

 カラカラ、カラカラ、カラカラ――それが。

「撲殺」
「そうそう去年まで撲殺って後ろからぁああぁ!?」

 鉄パイプを引きずる音だということに。

 千冬は背後からの襲撃を、間一髪のところで逃れた。振り返って、ぎょっとする。久しぶりに感じる鋭利な刃物のように鋭く尖った敵意の持ち主は、乾だった。

「殺す」

 彼は、キレていた。ものすごく、キレていた。キレすぎて、こめかみに浮かんだ青筋が大変な事になっていた。

「イヌピー君落ち着けって! 確かに今のオレはぴんぴんしてるけど!!」
「そうだよ! ほら陽子ちゃんの写メ見――ぶふぉぉぉぉっ、ひーーーーっ、イヌピー君がプーさんゲフッゴフッ」
「イヌピーオレらが悪かった別にオマエを笑いもの………〜〜〜〜っ、むり、やっぱ無理だわ………!」
「三人纏めて殺す」











「柚葉ー八戒君に送った?」
「送っといたよ。多分今頃全員に送りつけてんでしょ。爆笑しながら」
「そっか! よしよし! 去年皆に散々な事したお仕置きはちゃんとしなきゃね! でもまだまだ生温いよねー。今度サンリオピューロランドでポムポムプリンの帽子でも被せるかー」
「アンタ結構恐ろしい女だよね」

 



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