拍手小説


▼ 臆病者猫篇

「よしよし。おいしいー?」

白くてけむくじゃらな猫と真っ黒で綺麗な毛並みの猫と、そして何故かゴリラは今わたしの前でごはんをガツガツ食べている。この三匹は先ほど道端で倒れているのを見つけた。大丈夫?お腹がすいたの?と声をかけると、まるで人間の言葉を完全に理解しているみたいに反応して飛びついてきた。

猫二匹とゴリラ一匹はものすごい勢いでたいらげ、満足げなご様子。

「魚とかバナナじゃなくてごめんね?魚もバナナもなくてさー」

白くてけむくじゃらの猫の頭を撫でると、のどをごろごろ鳴らした。このふてぶてしい死んだ魚みたいな目。銀ちゃんに似ている。
黒くて綺麗な毛並みの猫がニャアニャア言いながらわたしの足に頭をこすりつけた。可愛いな、と頭を撫でようとしたら白猫がものすごい勢いで黒猫を蹴り飛ばした。フシャーッと唸っている。

「ちょちょちょ!ダメでしょ白猫ちゃん!」

わたしは吹っ飛ばされた黒猫に駆け寄り抱き上げる。

「大丈夫?どっかうってない?」
「にゃあ」

心配いらぬ、とでも言っていそうな毅然とした表情。なんだかこの猫はヅラさんみたいだなあ。

「やっぱり動物は可愛いなあ」

黒猫を胸元に寄せる。この時黒猫が体を固くしたことにわたしは気付かなかった。

「ニャーッニャーッ!(ふざけんなヅラてめえお前!変な気おこしてんじゃねーぞ!)」
「ウホッウホホッ!(おいテメーそれマジで逮捕すんぞ!!)」

「えっ、なっ何!?なんで怒っているの!?」

急に怒り始めた白猫とゴリラに、ビビリのわたしは案の定ビビった。なんで怒っているんだろう、と考えると、ある考えに行きついた。

「そうかそうか。そういうことか!いや〜わたしも罪な女だなあ」

縁側に腰を下ろし、白猫とゴリラを呼びかけた。

「おいで」

膝をぽんぽん叩きながら。

白猫とゴリラは少しの間固まったかと思うとまた喚き始めた。(おいいいい!お前いつからそんな自分を安売りする女になった!そんなふうに育てた覚えはねえぞ!!)(お妙さんすみません!今ピッチピチの若い子に膝枕されるのかもしれないと期待に胸を膨らませました!いやしかし近藤勲!初めて膝枕してもらうお相手はお妙さんと心に誓っています!!)

あれ?来ないのかな?わたしの自意識過剰だったのかな…?うわ、なにそれ恥ずかしい。

「でも、君は嫌がってないね」

腕の中にいる黒猫を膝に下ろし、喉を撫でてやるとごろごろ鳴り始めた。すると白猫とゴリラ、そして今度は黒猫が何やら会話のようなものを始める。

(ヅラてめえ見損なったぞ!このロリコン!)
(たーいーほ!たーいーほ!)
(銀時、近藤。ぴちぴちの女子のいい匂い。柔らかい胸元に包まれて気持ちよくならない男などいようか)
(なんでどや顔で語ってんのコイツ?すっげえ腹立つんですけど)

「け、喧嘩はやめ、」

怯えながらも喧嘩をやめさせようとした時、わたしの腕からぬくもりが消えた。

「なんでコイツらここにいるんでィ」

顔を上げると、黒猫の首根っこを掴んだ沖田さんが縁側に立っていた。

「え、沖田さん、この子たちのこと知っているんですか?」
「さっき見た」

白猫黒猫ゴリラは沖田さんの姿を見るなり毛を逆立て戦闘態勢に入った。間違いない。この人はこの子たちにもひどいことをしたのだ。間違いない。

沖田さんは乱暴に黒猫を投げ捨てる。ひどい思う間もなく、続いてボンレスハムを遠く彼方に放った。白猫とゴリラは倒れている黒猫には全く構わず、奇声のような鳴き声をあげながらボンレスハムをものすごい勢いで追いかけていく。続いて黒猫も起き上がるやいなや、猛ダッシュで続いた。わたしはただそのさまを茫然と眺めていた。

「あ、あ、あ…行っちゃった」

伸ばした手は空気しか掴まなかった。
先ほどまでわたしの腕の中にいた温もりが、こうもあっさりと…。ボンレスハムより優先順位の低いわたしって…。

顔を上げるととてもどす黒い笑顔を浮かべた沖田さんがいて、一言。

「ざまァ」

なんて性格が悪い人なのだろうか、と純粋に思った。




prev / next

[ back to top ]



- ナノ -