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▼ 世界が終わるのはこんな日だ

 今日わたしは日直なので黒板消しの役目を担っている、んだけども。

「く……っ」

 一番上が届きたくても届かない。くっ、あの巨神兵(社会の先生185p)あんな上で書かなくても……!
 わざわざ椅子を持ってくるのはめんどくさかったのでぴょんぴょん跳ねてなんとか消そうと躍起になる。が、どうしても届かない。……大人しく椅子を持ってくるかと諦めた時だった。

「あーごめん、オレやるわ」

 わたしの視界に左から学ランの袖が入ったかと思うと、あっという間に高い位置の文字を消してくれた。

「わりーわりー、トイレ行ってた」

 さっさと拭いていくター坊(河野孝明)をわたしは少し感動しながら見つめていた。ター坊はわたしと同じ小学校で、マイキー君を除いて唯一あだ名で呼んでいる男子だ。昔は鼻たれ小僧で冬でもTシャツで走り回りトンボの脚を引きちぎってはギャハギャハ笑うしょうもない男子代表だったのに。背もわたしより小さかったはずがいつのまにか大きくなっていた。170は優に超えているだろう。

「ター坊ありがと」
「どいたまー」
「ター坊今何センチ?」
「えっとー…ひゃくななじゅう……よん?」
「え、でか」

 昔は背の順一番前で『気を付け!』と言われた手を腰に当てていたのに。しかも自ら日直の仕事をやってくれた。ター坊と日直か。アイツやらないな。と最初から見切りをつけていたことに罪悪感を覚えた。

「まーな! なっちゃんは?」

 ター坊はわたしのことを小学校の時からなっちゃんと呼ぶ。質問に答えようと口を開いた時だった。

「菜摘、貸して」

 やたらと強調するように名前を呼ばれた後、黒板消しをもぎ取られた。え、と振り向いた先に目を遣ると、マイキー君が高く跳躍し、まだ少しだけ残っていた上部の文字を綺麗に消し去る。

 ―――ダンッ。

 再び地面に降り立つと、マイキー君はニッコリと笑いかけた。何か、妙に圧がある。

「ター坊、少し残ってたよ」

 ター坊の目が大きく見開き、やがて、身体が戦慄くように震え始めた。

「マ、マイキー君がオレのことター坊って呼んでくれた!」
「よかったねター坊」
「うん! なっちゃん!」
「なぁ菜摘どっちがすごい? オレとター坊どっちがすごい?」
「いや黒板の消し方にすごいも何もないでしょ」
「うわぁまたター坊って呼んでくれた!」
「よかったねター坊」
「絶対オレだし菜摘のバカバカバカ! つーかケンチンのがでけーし!」
「何の話?」

 

 


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