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▼ 世界が終わるのはこんな日だ

 今日のオレは給食の時間から出席し、珍しくホームルームまで教室で過ごした。前の席の人間から恐る恐るプリントを配られて受け取る。不審者情報のプリントだった。昨日の夜十時ごろ、塾帰りのウチの学校の女二人組が下半身を露出した男に近づかれたので気を付けろって内容だった。「キモ」と呟くと隣から同意の声が上がった。

「うん。キモかった」

 実際に体験したような菜摘の口振りに「は?」と返す。菜摘は目を白黒させているオレに「ああ、」と何かに気づいたと言わんばかりに頷いた。

「この女子生徒二人組って、わたしとリカちゃんの事なんだ。キモかったなー」

 顔を顰めて噛み締めるように呟く菜摘にポカンと呆けてから、体温が急上昇していくのを感じた。こめかみの辺りがひくひくと震える。

「菜摘」
「な、」

 菜摘はオレを見るなり途端に顔をぎょっとさせた。けど今は菜摘の動揺に構っている暇はない。体の中で燃え盛る憤怒をギリギリのところで押さえ込みながら、ぐしゃりとプリントを握りしめた。

「そいつの特徴一から十まで全部言え」



 

 突然、緊急集会を掛けられた。またどこかとでかい抗争をやるつもりなんだろうか。今度はいったいなんなんだ? 一旦未来に戻ってナオトから情報を仕入れるべきか……と思い悩んでいると、マイキー君が現れた。
 見た瞬間、ゾッとした。
 並々ならぬ負のオーラを背負っている。
 周りに電流でも流れてんのか? と思うくらいにピリピリしていた。不用意に近づけば隊長格ですらぶっ飛ばされるだろう。だから、全員が黙ってマイキー君を見つめていた。緊張からオレはごくりと唾を飲み込む。

「耳をかっぽじって聞け。今からオレが言う奴を探しだせ。死んでも見つけろ」

 目を血走らせ視線だけで殺せそうな鋭い目でオレ達を睨み据えた。全身からぎらぎらと殺意がみなぎっているのに、ぞっとするほど冷たいオーラを放っていた。

 なん、で。
 なんっっで闇落ちしかかってんの〜〜〜!?

 この時点で闇落ちしかけてるつーかなってる? マイキー君にオレはただ狼狽えた。は? なに? なんで? マジでわかんねぇ!

 頭を抱えパニックになっていると、マイキー君がすうと息を大きく吸った。そ、そうだ、今からマイキー君が言うやつがマイキー君の闇落ちに深く関わってるのかもしれねぇ……! 耳を澄まし、固唾を飲んで待つ。

「身長160後半から170前半のチンコ見せびらかし男、年齢は多分40〜50。小太り、眼鏡、ハゲ。以上」

 ……………………
 …………………………
 ……………………………………

 風が、木を揺らす音がよく聞こえた。

「おいマイキー。それ、ただの変質者情報じゃねえか」
「あ? ケンチン何いってんの? ただのじゃねえしオレのモンにチンコ見せたクソチンカスゴミクズ野郎だよ」
「……あーわかった。そういうことな」

 ぶちギレMAXのマイキー君の隣でドラケン君がため息をついていた。オレのモンがどうとか言ってる。エマちゃんが不審者にあったのだろうかいやそれにしてはドラケン君が落ち着きすぎてる……。
 一方オレ達はマジでわかわかんねぇ状態。なんでオレ達は変質者を探し出さなきゃなんねえんだ? え? 東卍って警察?

 何がなんだかわかんねぇけど、マイキー君の思惑を知りたくて「あ、あの〜」と恐る恐る挙手した。

「そ、その変質者見つけたらどうしたらいい……んでしょうか〜?」

 マイキー君が怖すぎて腰が引く。足は生まれたての小鹿のように震えていた。なになになにもう今日のマイキー君めちゃめちゃこえーんだけど!

 マイキー君はすうっと目を細めながら、殺意と圧と憎しみを全部ない交ぜにした視線でオレを射抜いた。

「オレに引き渡せ。
 二度とオレのモンにちょっかい出せねぇように、切る」

 マイキー君が何を考えているかさっぱりわからない。けど今この瞬間オレに与えられたミッションがわかった。

 マイキー君よりも先に、変質者を確保する。





「離せーー! 僕はただ女子中学生にチンコ見せてただけだーーー!」
「だけだーがじゃねーよオッサン! あとオレはどっちかっつーとあんたを助けるため……ってぇ!? マイキー君!?」
「タケミっちソイツ渡せ」
「なんでここが……ってなにそのノコギリ!?」
「あ? 切断に必要だろーが」
「マイキーくーーーーーーん!!!!」


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