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▼ 世界が終わるのはこんな日だ(東卍マイキー)

「ケンチーン、疲れた〜、おぶって〜〜」
「やだよだりィ」
「えーーもう歩きたくねーー」
「あーーー! いい加減にしろマイキー! オマエは……、」

 ケンチンは真正面を見据えながらずんずんと歩いていたが、駄々をこねるオレに痺れを切らして怒鳴ってきた。だけどその時、なにかに気づいたようだった。オレの向こう側をしげしげと見ている。オレも気になって振り仰ぐ。

 驚きで目が見張る。オレの視界に飛び込んできたものは。

「もっかい」

 男に向かって口を開けながら自分を指差していた。

 川原は男とパンケーキ屋のテラス席に座っていた。男は中学生、いや、多分高校生。ひょろひょろと細っこくて優男といった身なりだ。男は露骨に顔をしかめ「やだよ」と憮然として答える。

「なんで」
「なんでもくそもねーよ。さっきやったじゃん」
「たーりーなーいー」

 川原はテーブルをバンバンと叩いて駄々をこねる。学校にいる時よりもワガママだった。オレの知らない川原だった。
 
 じわじわと。沸々と。腹の底から苛立ちが込み上がる。

「……はあ〜〜。しゃーねーな……」
「わーい。ありがと、大好き、愛してる」

 大きくため息を吐く男の前で、川原は両手を上げておざなりに愛の言葉を紡ぐ。男がパンケーキをフォークで切り分けてから差し、川原に向けた。川原はそれに躊躇うことなくかぶりつき美味そうに頬張っている。隣でケンチンが「へえ」とほぼ無感動にだけど少しだけ興味深そうに謂った。

「あの子、ああいうとこもあんだな」

 オレの中の何かがぷつんと切れた。ケンチンを置いて、カフェの中へ入っていく。「マイキー?」と怪訝そうにオレを呼ぶ声は無視した。
 今、なんかすっげーーームカムカしてる。

 川原と男のテーブルに到着すると、二人は「……え?」と同時にオレを見上げた。全く同じ表情を浮かべていることが二人が気の合う証拠のように感じられて、更に苛立ちが加速する。


「……さ、佐野君? どうし、」
「こいつ誰」

 川原から男に視線を滑らせる。目を細めていすくめると、男はビクッと肩を跳ねさせた。みるみるうちに顔が青白くなっていく。しょぼい。ひょろひょろだしタケミっちよりも弱そう。なのに川原はこいつにはオレには見せない顔を見せる。意味わかんねぇ。苛立ちが止まらない。どんどん右上がりに昇っていく。

「おいマイキー、ビビらせてんじゃねえよ」
「ケンチンは黙ってろ」

 ビビり倒している男を睨み据えたまま、追い付いたケンチンに肩を捕まれるが振り払う。視界の端で、川原の眉が寄せられた。

 不可解そうに。

「わたしのお兄ちゃんだけど……」

 その発言を受けたオレは、ぱちくりと瞬いた。
 
 もう一度男に目を遣ると男はまたビクッと震えた。よくよく見れば、そういえば、川原に少し雰囲気が似てる。

 なーんだ。

 苛立ちが瞬く間に霧散し、自然と頬が緩む。にこにこしながら川原の兄貴に挨拶した。

「じゃあいいや。ちわー、川原のにいちゃん。オレマイキーってゆーの」
「ややややっぱり君はマイキー君なんですねどうもいつもうちの妹がお世話になっているようでアハハハ隣の君はドラケン君ですねいやぁ今日はお日柄もよく」
「どーも。スンマセン、兄妹水入らずのとこに邪魔しちまって」
「い、いや龍宮寺君、謝らないで。全然大丈夫。わたし、デートの下見に付き合わされてるだけなので……」
「そうです! 僕の都合に妹を付き合わせてるだけなのでドラケン君に謝罪をいただく必要はございません!!!」
「ケンチンビビられてやんの〜」
「オメーもな。てかオマエのがビビられってから」
「それは川原の兄ちゃんだけだろー。オレはケンチンみたく川原にはビビられてねーし。ねー、川原。オレにも一口ちょーだい」
「バッカ! かえんぞ!」
「やだーー! オレもパンケーキ食いたい!」



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