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▼ さよならまでの距離を知る(ワールドヒーローズミッションネタ)


 オセオンでのショートとヒューマライズとの激闘を、私はなんとか意識をかろうじて留めながら聞き終えることができた。

「だ…っ、大丈夫なんだよね!? 怪我!! もっと包帯巻いた方がいいんじゃ……!」
「大丈夫じゃなかったらここにいねえよ」
「………そ、そうだね、ショートのゆうとーり…」

 へらへら笑いながらも私の口角は意識してないと下がりそうだった。ショートが水の中に引きずり込まれたところなんて聞きながら気絶するところだった。しかも炎が効かないとか、もう人間の枠を越えている……。

 私はショートのことをチートだと思っていた。ショート以上に強い人はオールマイトとエンデヴァー…ショートのお父さんくらいなものだと思っていた。
 けど世界は広く、ショートと同等やショートよりも強い力を持っている人が存外多い。

 私だったら諦めてしまうかもしれない絶体絶命のピンチをショートは乗り切った。

 帰ってきてくれた。

 目の奥が熱くなった。込み上がる涙をお土産のオセオンチョコをぎゅっと握りしめることで耐え忍ぶ。
 約束通り帰ってきてくれたんだから。
 だったら、やることはひとつでしょ、私。

「ショート! ご褒美あげる! なにがいい?」

 私は熱い塊を喉奥に押し込むと、笑顔を作り、明るい声で問いかけた。

『二度と心配かけさせねぇなんて事は言えねえけど、でも俺は、絶対にお前に会いに帰ってくる。…信じてほしい』

 ショートは告白の時の約束を果たしてくれた。だったら私がすることは、お礼だ。
 もし私の個性がヒーロー向きだったとしても、私はヒーローになれなかっただろう。
 私にとっては世界を救う事よりも今隣にショートがいてくれることの方が、何よりも大切だと思ってしまうのだから。

「? 何のだ?」
「世界を救ったご褒美! あと、帰ってきてくれたお礼!」
「ヒーローなら当たり前の事だろ。あと帰りたくて帰ってきたんだから礼なんていらねえよ」
「あっまたそういうことを真顔で言う……! この天然タラシ……! いいの! 私がしたいの! ほらほら言って!」

 ショートは「ご褒美……」と顎に手を添えながら神妙な面持ちで考え込む。何かな。何だろうな。ショートはめちゃめちゃ頑張ったんだから、なんでもしよう。真面目に考え込むショートをにこにこしながら見つめた。

「明、決まった」
「お! なになにー?」
「明と旅行してえ」
「わかったー! じゃあ……………え?」

 わかった、と言いつつ全く内容を理解していなかった。高速で瞬きしながらショートを見ると、ショートはいつも通りの真顔で、もう一度同じことを繰り返した。

「明と旅行してえ。
 オセオン、すげえ綺麗なとこだった。海とか透き通ってて、きらきら光ってて、ここを明と歩いたら楽しいだろうなって思った。
 オセオンだけじゃねえな。国内も海外も明と一緒に過ごしたい。
 今は無理だけど大人になったら、いいか?」

 ポカーンと口を開けながら聞いていたけど、ショートに「いいか?」と顔を覗き込まれた瞬間我に返った。ショートと旅行、ショートと旅行、ショートと、旅行………!

「うん、うん……! いこ! 絶対いこ!」

 頬がすごい勢いで緩んでいるのを感じるけど止められない。手で必死に押し止めるけど止まらない。「えへへぇ、あははぁ」と気持ち悪い笑い方をしている私とは対照的に、ショートは穏やかに微笑んでいた。

「あれ、でも、それだと大分先になっちゃわない? なんか今できることでしてほしいこととかない?」
「そうだな。じゃあ今いいか?」

 何を、と聞こうとしてショートの物欲しげな眼差しから察した。全身の体温が急上昇する。

「………本当に嫌じゃねえんだよな?」

 固まった私からネガティブな要素を見出したショートは訝しんできた。瞳には私を寂しそうに気遣う色が浮かんでいる。「ち、違う違う!」と私は慌てて首を振った。ショートは放っておいたら嫌がる私に無理矢理キスしてる俺は性犯罪者だとか言い出す。ショートに自分の事を性犯罪者だなんて思ってほしくない私は、慌てふためきながら本音をぶちまけていった。

「嫌な訳ないじゃん! 私が何年ショートの事好きだと思ってんの! 幼稚園の頃からなんだからね! ずっとずっとずっとずーっと大好きなんだから! だからキスの時いつも鼻血出したり気絶したりしちゃうけど寝る前思い出してニタニタしちゃうくらいには嬉しく、」

 後頭部に手を回された。一気に距離を縮められる。唇が重なり合う時に「ん、」と声が漏れた。

 はむ、とついばむように唇を塞がれる。私の後頭部に触れている大きな掌に押されるとショートの唇の感触が強まった。

 長い、今まででいちばん、なにこれ、うれしい、どうしよう、でも、私、やっぱり、

 しあわせすぎて、むり


「………あ、やべえ。明? 大丈夫…………じゃなかったな」

 

 気絶している私は知らない。
 ショートが申し訳なさそうに「悪い」と謝った事を。

 だけど、「けど今のは、お前もちょっと悪いと思う」と少しだけ拗ねていた事を。

 




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