拍手小説


▼ さよならまでの距離を知る番外編



 プロのヒーローとなったショートは、どんな仕事も受けた。
 どんな仕事も。
 そう、例えば。

「…………え?」

 本屋の店先で大量に平積みされているananを私は愕然と見下ろしていた。
 今回のananの表紙は、私の彼氏だった。
 私の彼氏が、半裸で腕枕するようなポーズで、ベッドに寝そべっていた。

 そう、例えば。ananの表紙とか。


「ショート。あの、これって……?」

 帰宅したショートに恐る恐るananを見せると、ショートは目をぱちくりさせた。

「あ、これ、今日発売日だったのか」
「うん! すごい売れてたよー! 二冊くらい買ってる人もいて私も保存用鑑賞用実用用に…ってそうじゃないの! なんで半裸!?」

 ショートの天然ボケに危うく流されかけるが寸でのところで本題に引き戻せた。危ない危ない、何年経ってもショートには流される……。
 私の質問に、ショートは真顔で答えた。

「脱げって言われたから」

 ひな壇芸人のごとくずっこける。ショートは続けて「あとなんかベッドで寝ろって言われた」と淡々と理由を連ねる。ええ、そうでしょうとも。そんなところだろうなとは思ったよ。

「……ショート、こういう仕事嫌じゃないの?」
「別に。何とも思わねえ」
「…そっか」

 どうやら騙されて身ぐるみを剥がされた訳ではないらしい。ショートが嫌じゃないのなら、私が横から口を挟む資格はない。
 だけど、どうしようもなく、胸がモヤモヤする。
 
「どうした、その顔」
「へっ」
「眉間に皺が寄ってる」

 慌てて眉間を両手で抑えるけどもう遅い。ショートは心配そうな顔つきをして、私に訊いてきた。

「もしかして、お前は俺がこういう仕事すんの嫌なのか?」
「…………うん」

 ショートから目を逸らしながら答えると、ショートは目を丸くした。「なんでだ?」と不思議そうに更に疑問を重ねる。

「だって、ショートの裸、あまり他の人に見られたくないし……」
「確かに見苦しいよな………。編集部の人はなんで俺の半裸を使いたがったんだろう……」
「ちーがーう! そういうことじゃなくて!」
「どういうことだ?」
「だからつまり……そうだ! もし私がananに下着姿で表紙飾ったらどう思う? なーんちゃ、」

 ピシャーーーーン! ゴロゴロゴロ…

 なーんちゃってを最後まで言い切る前に、何故か落雷が鳴り響いたような擬音とともに、ショートが固まった。切れ長の瞳が大きく見開かれている。

「ショ、ショート………?」

 ショートの顔の前で手を振ると、ショートは息を吹き返したようにはっとした。そして、まじまじと私を見つめたかと思うと、がっくりとうなだれた。

「………わりぃ。俺、自分がされて嫌なこと、お前にやってたんだな」
「え」

 ショートはきゅっと下唇を噛んでから、苦々しく呟いた。

「想像してみたら、すげえ嫌だった」

 眉を潜めてしかめっ面をしているショートに、きゅーんと胸が高鳴る。ヤキモチを妬いてるショートがかわいくて表情筋がみるみるうちに緩んでいく。だけど私とは対照的にショートの顔は強ばっていた。突然、私はショートに肩をガシッと掴まれて「へっ!?」と驚く。ショートは驚かせてわりぃと謝ってから切迫した表情で必死に訴えかけてきた。

「俺も二度とこういう仕事は受けねぇ。だから頼む。下着姿で表紙にならないでくれ。というか俺以外の前で下着姿にならないでくれ。頼む」
「例え話だって……」




prev / next

[ back to top ]



- ナノ -