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▼ さよなら番外編

 教科書を忘れたので、ショートのクラスに来た。
 普通科や他の科の友達から教科書を借りることも考えたんだけど、ショートに会いたかったのでまずはショートに当たることにした。ショートいるかなぁ、とA組を覗き込んだ時だった。

「ふごっ」

 窓から風が吹き込んだと同時に太ももになにかが辺り、妙な悲鳴が下から聞こえた。
 見下ろすと小さな男子が鼻を抑えて私を見上げていた。どうやら私が教室に入ろうとした瞬間と小さな男子が出ようとした瞬間が重なったらしい。

「わぁ! ごめん! 大丈夫?」

 視線を合わせるようにしゃがみこんで問いかけると、小さな男子の覆った手から赤い液体が垂れだした。
 一泊間を置いてから液体の正体に気がついた。硬直している男子の顔から手を外させる。私の予想は当たっていた。

「鼻血鼻血! ちょっと待って誰かティッシュ、」
「ンク…」
「え、なに?」
「ピンク………!」
「ピンク???」
 
 小さな男子は「よっしゃあああああ!」と泣きながら雄叫びをあげている。
 何を言っているのかいよいよわからない。打ち所が悪かったのかな。保健室に連れていった方がいいかも。
 頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら「き、君、大丈夫?」と問いかけると、ふ、と影が落ちてきた。

「ショート! この子なんかおかしいんだけど! ……ショート…?」

 ショートから極寒のように冷たい空気を感じた。じいっと温度の伴わない瞳で小さな男子を見下ろしている。
 小さな男子は私がショートを呼んだ時に肩を跳ねさせ、ぜんまい仕掛けのロボットのようにぎこちなくゆっくりと振り返った。
 ショートと小さな男子の視線が交差する。緊迫した雰囲気に私までも緊張し、そして戸惑った。え、なに? なんなの?

「ショートどしたの? なんかめちゃめちゃ怒ってる?」

 ショートは一泊間を置いてから、

「そうだな」

 氷柱のように鋭い視線で小さな男子を居抜きながら、氷点下に達するような冷たい声で肯定した。
 小さな男子はひゅっと喉の奥で悲鳴を上げた後、

「ほんっっっとうにすみませんでしたぁぁぁ!!!!」

 絶叫するように謝罪しながら、ショートと私に土下座した。なにがなんだかさっぱりわからん。












「……俺、峰田だけはアイツに近づいてほしくねえんだ。クラスの場を和ますことのできる陽気ないい奴なのに…俺は…………」
「当然の心理だから気にすんな」



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