拍手小説


▼ ペダル拍手(巻ちゃん)


 ひいひいと笑う声がまだ残っている。苦々しい気分のオレとは対照的に、奴は心底楽しそうだった。

「かお、かお引き攣ってる…。ポーズ…あーだめ、おっかしー…」
「どんだけ笑うッショ…」
「笑えなくなるまで。…ぶっ、くっくっく…っ」

 顔は可愛い。が、性格は憎たらしい。彼氏のアイドル衣装をどんだけ馬鹿にすれば気が済むんだコイツは。

「ねえねえ、なんでこーゆー服着ることになったの?」

 ジャケットの袖をつんつん引っ張りながら顔を覗き込んでくる。ニヤニヤ笑いをやめろ。

「大人の事情ッショ…。つーか坂道も真波も東堂もなんで普通に着こなせてんだよ…お前らもチャリ漕いでる一般の高校生だろ…」
「引き攣ってるの裕介くんだけなのがまたウケんだよねー。ふふ、大人の事情に感謝―。こーんな面白いもの見せてくれたんだもん」

 にっこりと、可愛い顔で綺麗に笑う。が、憎たらしい。コイツ…と口角を引き攣らせていると。

「でも、一番好き」

 甘ったるい声の爆弾発言に、思考が一瞬停止する。ハッと我に返った時にはもう遅い。にたあっと意地悪く笑われていた。

「嬉しい?」
「…嬉しいも何も、ただのお前の本音ッショ」
「可愛く無い奴〜」
「おめーもな」



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