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▼ 臆病者

「ふへへへ、へっへっへ…お肉だあ…おに…お肉…うう…泣ける…」

ちゃぶ台に涎が広がって間抜け面を晒しながら寝ている小春を頬杖をつきながらしげしげと観察する。間抜け面だ。見れば見るほど間抜け面だ。コイツ、鼻マジで低いな。柿ピー鼻の穴に詰めたらどうなるんだろうか。死ぬか。そんなこと思いながら見ていると、小春が「おにくう…」と漏らした後、少し動いて、その拍子で前髪が額に垂れた。なんとなくそれを見ているうちに、ひとつの悪戯が思いついた。

油性ペンを取り出して、小春の前髪をかき分ける。マーカーを引く音がキュッキュッと響く。

額に書かれたのは、『肉』の文字。筋肉バスターイェーイ。オレはラーメンマンが好きだ。見てるとラーメン食いたくなってくる。

「お肉…松坂牛…しあわせぇ…」

夢に出てきたら泣きながら喜ぶぐらい好きなんだから良いだろィ。つんつんと人差し指で肉が書かれた額を押す。

起きたら、どういう反応をとるのだろうか、と、額をつっつきながら想像してみる。

…そうだねィ、『…なにこれぇぇぇ!?へ、え!?肉って…!肉って…!うら若き乙女のおでこに肉って…!肉って…!!しかも油性!?こ、これ、どうすれば…!?』と、涙目で発狂する。こんなところだろうか。想像してたら、笑いが漏れた。ぷっと小さく噴出して口角を上げる。

「おい」

「んん〜」

「さっさと起きなせェ」

「お肉ぅ〜」

「肉ならでこに書いてやったから」

「松坂牛〜」

小春の口から出されるのは肉のことばかり。コイツどんだけ肉が好きなんだ。ぐりぐりと人差し指を強く押し付けると、小春が少し苦しげに眉間に皺を寄せた。

「…さっさと起きて、相手しなせェ」

人が誰もいないことあって、拗ねた口振りで言うのと同時だった。

すっぱーんと襖が開けられて「沖田隊長!!ご報告が…!!」と、血相を変えた山崎が入ってきたのは。












「ふわ〜、よくね…って山崎さんんんん!?へ、総悟くん!?なななななな何してんの!?」

「見りゃわかんだろィ、埋めてんでィ」

「う…うぐ…し、し…」

「総悟くんんん!!山崎さん死んじゃう!!これほんとに死んじゃう!!」

「黙ってろィ、キン肉マン。お前は黙って筋肉バスターの練習しとけ」




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