だって普通に無理だから





 私が世界で二番目に好きな男が撃たれた。

 三番目に好きなのはお父さんとおじいちゃん。この二人は無事だ。
 けど、世界で四番目に好きな男は半殺しにされた。
 私が二番目に好きな男と四番目に好きな男はとある男を救おうとしたらしい。
 
 そして今。

「…………げ」

 世界で一番好きな男が口角を引き攣らせて私を見下ろしている。

「ちょっと! なんで逃げんの!!」
「オマエと関わりたくねぇから」
「意味わかんない! 待って! 待ってってば!」

 四番目に好きな男――花垣君のお見舞いに訪れたら曲がり角で一番好きな男――ココに出くわした。久しぶりの再会なのになぜかココは回れ右をして速足で去ろうとしている。意味わかんない意味わかんない意味わかんない!

 八センチヒールのミュール履いているし女子だしで、当然私の方が足が遅い。ココはどんどんどんどん遠ざかっていく。待って! という私の声が聞こえないように去って行く。距離が開きつつあるココの背中を憎々しげに睨み付けた。そっちがそういう気なら……!

「私!! ココの子ども妊娠してんだけど!!!!」

 もともと注目を浴びていた私達に、更に視線が集まった。ココの背中が一瞬不自然に強張る。勢いよく振り向いて、私を凝視した。めずらしく動揺しているココにべえぇっと舌を出してから、私は顔を両手で覆って泣き真似をした。

「ひどい!! あんなことしといて逃げるなんて!! ひっぐすっ、ひく……っ」

 顔が可愛いJKが明らかに不良な男に孕まされたと泣いていたら周りの目はどうなるか。答えは簡単だ。ヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソヒソ……。廊下がヒソヒソ≠ノ埋め尽くされていった。サイテー……というココを詰る声も混じっている。ざまぁ、と舌を出しながら顔を覆ってぐすぐすとウソ泣きを続けていると。

「こっのクソアマ………」

 怒りと苛立ちに震えているココの声が、すぐそこから降って来た。






「オマエは聖母マリアか」

 昼間の日差しは熱い。だからか、私達以外病院の中庭には誰もいなかった。ベンチに腰を掛けながら、ココはげんなりと呟く。は? マリア? 言っている意味がわからない。……もしかして私がマリア様みたいに清らかってコトなのかな……?

「そうかなぁ」

 照れながら人差し指に毛先を巻き付けると「あ、そーいやオマエ馬鹿だったな」とせせら笑ってきた。意味わかんなくて、ムッと顔をしかめる。

「どーせまだ処女なんだろ」
「そ、それが何!? 悪い!?」

 突拍子もなくとんでもない事を事も無げに口にされて狼狽から声を荒げる私を、ココはつまらなさそうに目を眇めてフンと鼻を鳴らした。

「悪くねーけど。オマエがビッチでも処女でもどーでもいいし」

 言葉通り本当にどうでも良さそうに欠伸をするココに、私はわなわなと手を震わせた。こ、こ、こいつはいつもいつも……!

 前会った時の事は一日たりとも忘れていない。人が酔っぱらっているからって。私が一途で健気だからって、あ、あん、あんなあんなあんなあんな……! 舌が絡み合った感触を思い出すだけでのたうち回りたくなる。

「何それ!! 私の純情な想いを逆手に取って弄んできたくせに!!」
「あのさぁここ病院なんだけど」
「うるさいうるさいうるさい!! しかも私がドラケン君とヤったとか――、」

 もうここにはいない彼の名前を出した瞬間、怒りが瞬く間に霧散した。代わりに、心臓が潰されたみたいに胸の真ん中が痛くなる。

 ひとつ年下とは思えないほど、しっかりしていた。
 いつも格好良くて、優しかった。
 クソバカ乾が私にひどいことしたら、叱ってくれた。
 しつこいナンパに遭ってたら助けてくれて、『怖かったな』と言ってくれた。

 大抵の男に対し、私は無≠ゥ嫌悪感≠オか持てない。だけどドラケン君は、大好きだった。

 目の奥が燃えるように熱くなって、眼球に湿っぽい何かが押し寄せる。顔を俯けて、それが零れないように下唇を強く噛んだ。

 痛い。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

「なんでドラケン君が撃たれなきゃなんないの……!」

 ドラケン君が撃たれてから、心臓は潰されたみたいに痛い。

 気付いたらドラケン君は銃で撃たれたという訳がわからない理由に見舞われている。ここ日本なんだけど。ドラケン君、今は普通に働いてるんだけど。乾に泣きながらどういうことかと問いただしたら『今オマエに関わってる余裕ねぇんだよ』と凄まれた。オマエの余裕とか知るかさっさと答えろと更に問いただしたら、横からツーブロが、ぽつりと答えた。

『マイキー君を助けようとしてっす』

 マイキー

 聞き覚えのある名前だった。確か東卍≠フ総長。
 そして、今は。

『タケミっちやったのも、マイキー君です』

 ツーブロは体中から全ての生気を抜かれたかのようだった。語る声が虚無感に満ちている。だけど、責めるような色を帯びていた。
 元凶はマイキーにあると、ツーブロの声が言っていた。

『マイキーって、今、』

 震える声で問いかけると、ツーブロはこくりと頷いた。

『――関東卍會の総長です』


「どうしてココはいつも私が嫌いな男の隣にいんの……!」

 膝の上で手をぎゅうっと握りしめながら、問いかける。私の声は痙攣するように細かく揺れていた。

「乾より性質悪いじゃん、乾は、乾だって極悪だけど、ドッジの時女子にも容赦ない最低最悪男だけど、だけど佐野万次郎よりはマシじゃん!!」

 マイキーこと佐野万次郎。花垣君を半殺しにする前、ひとり殺した。梵というチームのトップが土下座して止めに入らなかったら、花垣君も殺されていたらしい。
 佐野万次郎と花垣君は、同じ東卍で、友達だったらしい。なのに、佐野万次郎は人を殺すなと止めに入った花垣君を、問答無用で殴り続けた。殺そうとした。

「ドラケン君や花垣君の気持ち踏みにじって……! お兄ちゃんが死んだか妹が死んだとか知らねーよ! てかそんなんドラケン君だって一緒じゃん! ドラケン君だって好きな子死んだけど頑張って真っ当に生きてんじゃん!!」

 もうドラケン君は死んだのに、私はまだドラケン君がこの世に生きているかのような口ぶりで語る。
 だってまだ、生きているような気がするんだ。
 お店に行ったら『おう、麻美』と笑って手を挙げてくれるような気がしている。

「なんでそんな殺人鬼にドラケン君と花垣君が振り回されなきゃなんないの!!」

 佐野万次郎の事を考えると乾への嫌悪感が可愛く思える。赤音さん≠ニは別ベクトルで憎い。

 呪いで人が殺せるのなら私は佐野万次郎を殺している。
 たくさんの人の幸せを奪っていく悪魔。きっと大人になったらもっとろくでもない人間になる。

 ココはそんな奴の傍にいる。もし、このまま、佐野万次郎の傍にい続けたら、
 
「なんで佐野万次郎が生きてんの!! はやく死ねよ!!! 死んで償え!!!!」

 ホントに、戻って来れなくなる。

 憎しみを一気に吐き出すと、押し止めていた涙が溢れ出して、頬を伝った。口の中の肉を強く噛んでも、止まらない。佐野万次郎のせいで久々にココに会えたのに泣いている。全部佐野万次郎のせいだ。ドラケン君が死んだのも花垣君が入院しているのもお葬式で皆呆然としていたのも全部全部全部全部全部佐野万次郎のせいだ。

「正論だな」

 ココは淡々と同意した。「だったら!」と顔を上げて食って掛かる。だったら今すぐ佐野万次郎から離れてよ。そう言おうとするよりも早く、ココは更に言葉を継いだ。

「でもそれ、オレにも当てはまるんだわ」

 飄々とした口ぶりで、自分が殺人鬼と同類だと言った。

「……な、んで、そうなんの」
「だってそうじゃね? オレも数年前から真っ当に生きてねーし。何したっけ、えーっと、恐喝、売春斡旋、色々やったなぁ。もう両手じゃおさまんねぇわ。篠田の言葉借りると『惚れた女が死んだからって知らねーよ』だな。マジその通り。犯罪する理由にならねー」

 ココはおかしそうにくつくつと喉を鳴らして笑う。だけど私は笑えない。同意もできない。きちんと説明できないけど『違う』と思い「……ココは違うじゃん」と否定する。

「どこが?」
「……ココは、人殺してない」
「今はな」

 心臓を下から蹴り上げられたかのような衝撃が私を貫いた。目を見張らせてココを凝視すると「だってそうだろ」と平然と返される。

「ウチ、今回の抗争でまたデカくなったし。このままデカくなってたら行き着く先はヤベー組織だろ。ガキの喧嘩じゃ済まされねえようなさ」

 平坦な声色で自身の行く末を語るココは、膜を隔てた向こう側にいるみたいだった。何か言っているのはわかるけどうまく聞き取れない。頭に入って来ない。

 だって、聞きたくない。
 わかりたくない。

「オレだってマイキーと変わんねぇよ。オレの死を願ってる奴は腐るほどいる」

 ココは空を仰ぎ見ると「死んで償う、か」とぽつりと呟いた。

 空の向こう側の誰かを見るような眼差しで、空を見上げていた。

「……なに」

 私を見ない目が憎たらしくて悲しくてこっちを向いてほしくて、私はココの左腕にぎゅっと抱き着く。
 心底うんざりした声が聞こえてくるけど、無視して、しがみつくようにぎゅっとする。

「ココはいい。そんな必要ない」
「へー。人殺しても?」
「……殺してないじゃん」
「仮定の話だよ。If構文。中学で習わなかったっけ?」

 ココはすらすらとIfを使った英語を話す。こいつろくに学校来なかったくせになんで私より頭良いんだろう。
 ココは昔から何でもそつなくこなせた。私以外にもココの事を好きな子はいた。だけど今、あの子達は誰もココの事が好きじゃない。『ココとか人生終わってんじゃん』とトイレで揶揄られているのを聞いた事がある。あの頃私はココの事が嫌いだと自分自身に言い聞かせていたにも拘わらずムカついて、その場でドアを勢いよく開けて目で威圧した。私以外の人間がココの悪口を言うのは許せなかった。

 悪い大人と繋がって、暴走族に入って、殺人鬼の隣にいて――たくさん悪いコトして、もう、取返しのつかないようなことをしたとしても。

「………………ココは、いい」

 私は、ココが好きだ。

「マイキーは死んで償わなきゃなんねえのに?」
「だって佐野万次郎はココじゃないもん」

 何で佐野万次郎は駄目でココはいいのか。佐野万次郎は会った事もない他人で、ココの事は好きだから。理由はそれだけ。もしドラケン君の死の原因を作ったのがココだったら、私はここまで憤らなかっただろう。

 ドラケン君は大好きだ。だけど、二番目だ。
 一番目には敵わない。

「ココなら人殺してもいい」

 お母さんによく怒られる。アンタは自分の事ばっか。もっと周りの事も考えなさいと。
 ココの体温を感じながら、無理だと痛感した。私はやっぱり自分のことしか考えられない。ココの腕にしがみつく手に力を籠めながら、訥々と呟いた。

「ココが生きてるなら、いい」

 私の幸せに直接繋がる男のことしか考えられない。

 青々とした葉の間を、夏の日差しが通っていく。夏と秋の境目の季節だけど、真昼間はまだ夏に近い。日焼け止めをちゃんと塗っているから焼けないはずだけど、じりじりと焦がされていくのを感じた。
 外側からも内側からも、じりじりと焦げていく。
 ココの服越しから伝わる体温が、私を焦がしていく。
 
「さっきのマイキー早く死ね発言、誰彼構わず言わねぇ方がいいぜ」

 藪から棒の発言に私は怪訝に思い、眉を寄せながらココを見つめる。ココは無感動に前を見据えながら、平坦な声で続けた。

「オレの知り合いにいんだよ。オマエと同じくらい諦めの悪い女。マイキーあんなんなっても、まだ諦めてねぇの。アイツの前で言うのはマジやめとけよ。普段は頭回るし合理的で話せる女なんだけどさ、マイキーの事になったらアイツ、螺子百本くらい外れっから」

 ココはハンと鼻を鳴らして笑った。思い切り馬鹿にしながらも、少し眩しそうに目を細めている。

 っていうか。

「ココのチーム女いんの!? は!? 聞いてないんだけど!?」

 女#ュ言に私は正気を保てずに思わずココの胸倉を掴んで問いただした。何それ何それ何それ何それ!! 私がココに会えずに枕を涙で濡らしている間ココの隣に女がいるぅ!? ハァ!?

 ココは心底鬱陶しそうに眉を潜めて「なんで言わなきゃなんねんだよ」とため息を吐いた。

「あいつはマイキーの、」
「なんでなんでなんでなんで! なんで私は置いていったのにその女はいんの!! 意味わかんない意味わかんない意味わかんない!!」
「聞けよ。だからあいつマイキーの、」
「その女の顔見せてよていうかここに呼び出してよ私のココに何近づいてんのって言うから!!」
「オマエマジでだりぃ。疲れた。帰る」

 ココは私の腕を振り払い立ち上がった。ココが離れていく恐怖と寂しさに私は目をひん剥かせ「やだ!!」と衝動的に背中に飛びついた。

「やだやだやだ! 行っちゃやだ!!」
「あーーーーーだりぃ、マジでだりぃ、クッソだりぃ……」

 私を引き剥がそうと必死なココと絶対に着いて行くと息巻いている私の攻防戦が繰り広げられる。ズルズルズルズル……と半ば引きずられる形で私はココの背中にしがみつく。こんなに一途で健気でいたいけな美少女JKに好かれているのに相変わらず皮肉を尖らせてばかりだし更には『だりぃ』とは! 何て傲慢なんだろう!

「佐野万次郎なんかもういいじゃん! 私といようよ! 一緒にクレープ食べようよ水族館行こうよディズニー行こうよーーーー!」
「忙しいんだよオレは離せマジでこのクソアマ……!」
「やだーーーー!」

 ココとしたいことを思いつく限り矢継ぎ早に口に出していく。もしココが高校生になっていたら、私より頭の良いココは進学校に通うだろう。どこかで待ち合わせしてファミレスで一緒に勉強してお腹が空いたらなんか食べて。よく食べるココを私は幸せな気分で眺めるの。
 周りを見渡したら大抵の人間が叶えている願いを私だけ叶えられないなんてそんなの絶対おかしい。

「ココは私とラブラブになんの! そうじゃなきゃ駄目なの! 絶対絶対絶対絶対!! ココは! 私と! 幸せになんのーーーーーー!!!!」

 背中に胸を押し付けながらぎゅっと強く抱きついて決意を叫ぶ。ココは一瞬停止してから、盛大にため息を吐いた。

「てか前のつづ、き――!?」

 突然強く振り向かれて、思わずよろめく。八センチのヒールがつるっと滑って転びかけた私の手をココはぎゅっと掴んで、引っ張り上げて、顔が近づく。

 どくんっと心臓が跳ね上がり、もしかしてとときめきと昂揚感と戸惑いとやっぱりときめきが全身を駆け巡った時。

 ふうっと耳に息を吹きかけられた。

「ひあっ」

 びりびりっと電流が身体を駆け抜けて、力が抜ける。へなへなと崩れ落ちた私を、ココは不遜に見下ろしている。

「もうオレは幸せになってんの。マイキーについてりゃ勝ち馬に乗ってるようなもんなんだからよ」

 熱くじんじんと痺れた耳を抑えている私をハンッと鼻で笑い飛ばしてから、一瞬だけ真顔に戻って――また、笑った。
 いつもの人を食ったような笑い方でもなくて、嘲笑でもなくて、口角を少し緩めている穏やかな微笑みに、胸の中に一拍の空白が流れ込む。時間が止まったみたいだった。

「クリーニング代請求されねぇのありがたく思えよ」

 けどそれは幻かと思うほどほんの一瞬のことだった。ココはいつもみたいに憎たらしい笑みを浮かべながら不可解なことを言った後、挑発的に舌を出し、それから踵を返す。

 まだ熱い耳を抑えながら声を掛けようと口を開く。待ってよ。まだ私、ココに言いたいこと伝えられてない。

 小学生の時から胸の中で息づいている想い。何度捨てようとしても、捨てきれなかった。私が私であることと同義のこの感情。

「ココ! 私――、」
「麻美」

 呼吸が止まる。

「じゃーな」

 ひらひらと手を振られたその瞬間、血管が満ち潮みたいに膨れ上がった。何も言えない。言葉が出てこない。たかが下の名前で呼ばれただけの事なのに私の心臓は馬鹿みたいに鼓動を大きく鳴らしている。喉と唇が水分を失って、肩が高熱を発していた。
 たかが、たかが、麻美って呼ばれただけなのに。耳に息かけられただけなのに。三か月前の続きをずっと望んでいたけど、でもこんなんじゃもし実際にセックスすることになったら、私、は、

「続きしてやってもいいけど、したら死ぬんじゃね?」

 私の心をハッキングでもしているのだろうか、コイツは。ココは踵を返す直前に一度振り向くと、私が危惧している事をいけしゃあしゃあと言語化してきた。
 固まった私を見て、ココはふんと鼻を鳴らす。漸くコケにされている実感が体に流れ込んだ。憤怒の炎が燃え上がり、体中を駆け巡る。

 いつもいつもいつもいつも私を馬鹿にして……! 立ち上がって胸倉を掴んでやりたいけどまだ足に力が入らない。

「この社不!! 馬鹿!! しね、じゃない、今の無し! 小指箪笥にぶつけろ!!」

 私の罵声を馬耳東風に受け流しココは優雅に立ち去っていく。胸倉掴んでぶん殴ってやりたいけど、足に力が入らない私はココを歯ぎしりしながら睨み付けるだけ。
 いつも、いつもいつもいつもこうだ。適当に躱されて、からかわれて、全然優しくしてくれない。

 ドラマとか映画とか漫画で『あなたが幸せならそれでいいの……』とたとえ自分の恋が叶わないとしてもただひたすらに相手の幸せを祈るヒロインを、世間は『なんて健気なんだろう!』と讃える。
 私も健気だ。小学校から同じ相手をずっと思い続けているんだから、間違いなく一途で健気だろう。
 だけど私はそんなこと思わない。普通に思わない。だってココの幸せはココのものであって私のものじゃない。私は私が幸せじゃなければ嫌だ。

『ココが幸せならそれでいいの……』

 健気で涙を誘ういたいけな台詞、死んでも言ってやらない。

 だって。

『続きしてやってもいいけど、したら死ぬんじゃね?』

 ――ブチッ

 こんなことを一途な美少女にいけしゃあしゃあと言ってのける九井一という反社会的勢力まっしぐらの暴走族の男には、絶対、絶対絶対絶対絶対絶対絶対ずぇーーーーったい死んでも言わないし、思わない!!!

 ドラケン君の幸せなら願えた。もしまた好きな子が出来たらドラケン君取られたみたいで寂しいけど私なりに応援しようと思っていた。だってドラケン君はいつも私に優しかったもん、かっこよかったもん、だけどだけどココは駄目! 私以外の女を好きになるとか絶対に無理! 

 生まれたての子鹿のように震える脚を気合と根性と怒りで奮い立たせる。けど、ココはもういない。だから代わりにココがさっきまで居た場所を睨み付けた。

 ココの幸せなんか知るか。私が願うのはこれからも私の幸せだけ。今ココが幸せだとしても私が幸せじゃなければ、二人で一緒に幸せになっていなければ何の意味もない。

 だから花垣君がチームを創ると聞いた私は。

「私も入る!!!!! ココを殴って気絶させてる隙に婚姻届けに判を押させる!!!!!」







「と言ってずっと聞かないんですけどあのイヌピー君説得してくれません……?」
「いいじゃねえか。篠田の熱意受け止めてやろうぜ。篠田をマイキーにぶつけよう」
「イヌピー君いくら嫌いだからってさりげに篠田さんを死に誘導するのやめません!?」
「なにこのクソダサTシャツありえないんだけど! ツーブロ頭おかしいマジ無理!」
「は? 何いってんすか? つーかいい加減名前覚えろや!」
「もしもし柚葉? 助けて、今ドラケン君とタケミっちとタカちゃんには懐いててイヌピー君と死ぬほど仲が悪い怖い人が押しかけてきててさ……」



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