@幻覚
A妄想
Bわたしのことが好き
Cマイキー君の気まぐれ

「……Cだな」

 英語の問題集を解きながら全く別の問題を解いていることに気づき、ハッと我に返る。って違う違う違うわたしは長文読解を解かなきゃいけないんだってば。ぶんぶんと頭を振ってから、もう一度問題集に視線を走らせる。問題文を読んでから本文に移り問題文に出てた単語を探して――。

 何の脈絡もなく、クリスマスの日の事が思い浮かび上がる。体中の血液が沸騰した。

 いや。いやいやいやいや。落ち着こう。まず落ち着こう。シャーペンを強く握りしめながら必死に落ち着こう≠ニ言い聞かせるようにぶつぶつ呟いて、あの日の事を整理し返した。

 マイキー君はわたしにキスした後、真顔でじいっとわたしを見つめてから、にこりと笑った。

『もう一口ちょーだい』

 わたしの返事を聞く前に、マイキー君はわたしのチーズケーキを勝手に掬う。「うまうま」と満足げにほころんだ。
 マイキー君はそれから何か特別な言動をすることもなく、タケミっち君の『ヒナァァ』の物真似を披露しては自分で爆笑し、わたしを家まで送ると『じゃあなー!』と帰って行った。

 それから何日か経って『初詣行こうよ』と電話がかかってきたけど、わたしは冬休みの間はおじいちゃんとおばあちゃんの家に泊まるので断ると『ちぇー』と拗ねられた。
 元旦にはマイキー君から『あけおめ!』と電話をもらい、『オレ年跨ぐ時ジャンプしてたから地球にいなかった!』と声高に言われた。

 キスをした後のマイキー君の変化をしいてあげるとすれば、連絡を前より少ししてくるようになったことぐらいだろう。さっきも『変な大根』と変な形の大根の写メを送ってきた。『そだね』と返したら返事はなかった。マイキー君はいつも急にメールを切り上げる。多分めんどくさくなるのだろう。

 Cだ。99.9999999%の確率でCだ。不良にとってキスなんて挨拶のようなものなのだろう。
 だから、明日。直接顔を合わせるとしても冷静に接しなければならない。

 カレンダーに目を遣り、明日の日付を確認する。明日は2006年1月10日、始業式だ。

 キスをされてから初めて、マイキー君と顔を合わせる。

 ………………キス。

 チョコとチーズとそれから知らない味を思い出し、全身が熱を帯びる。「あ〜〜〜…」と呻きながら、机に突っ伏した。





 朝学校に来ると、マイキー君の席は空っぽだった。不在を確認すると、何とも言えない安堵感が宿った。会いたいけど、どういう顔したらいいかわからない。マフラーを外しながら席に着くと、リカちゃんがやってきた。

「菜摘ちゃんおはよ! ……佐野君、まだだね…!」

 リカちゃんは周りを気にしてかわたしの耳元でこっそり囁いた。今マイキー君の話題をすると更に心臓がざわついてしまうので、話が流れる事を祈って「おはよ。うん。そだね」と適当に返す。

 リカちゃんにキスの事は伏せてクリスマスに会ったことをメールで伝えると、電話が掛かってきた。『よかったね!』と自分の事のようにはしゃぎ『菜摘ちゃんと恋バナしたかったんだぁ』と朗らかに笑ってくれるリカちゃんにキスされた事を言おうか言わないか逡巡し、やっぱりやめた。少女漫画が大好きで夢見がちなリカちゃんにキスされた事を言おうものなら、わたしとマイキー君は付き合っていると思い込むだろう。勘違いを生まないように、あえて口を噤む事にした。

 現に今も「はやく会いたいね…!」と目をきらきら輝かせながらうっとりしている。実際に片思いしているわたしよりリカちゃんの方が恋する乙女モードに満ちている。なんなんだ、これが可愛げあるなしの違いだろうか。

 会いたいけど会いたくない。相反する感情がせめぎ合っているわたしは頷くことができず「ははは」と乾いた笑い声を上げると、

「あけましておめでとうございます! マイキー君!!!」

 男子達の畏まった声が重なった。

「あけおめー」

 男子達とは対照的にゆるやかな声で挨拶するマイキー君の声が続き、わたしの体は硬直した。嬉しそうに息を呑み「き、きたよ!」とはしゃぐリカちゃんに「そ、そだね」と引き攣った笑みを浮かべながら返すと、

「おはよー、菜摘」

 マイキー君が横からわたしの顔を覗き込んできた。

 長い睫毛に縁取られた真っ黒な瞳に、呆け顔のわたしが映り込む。
 クリスマスの時よりは距離があるけど、でも、十分に近かった。

「………お、はよう」

 かろうじて挨拶を返す事になんとか成功した。「えーと、リサちゃん? もおはよーあけおめー」とリカちゃんに挨拶した後、マイキー君は席に着いた。

「えっと、ちが…まあいっか。菜摘ちゃん、よかったね!」

 リカちゃんはそう言いながら、満面の笑みを咲かせた。またしてもハハハハハと乾いた笑い声を返すと、先生が「席に着けー」と面倒くさそうに言いながら入ってきた。慌てて席に戻っていくリカちゃんを見送りながら、ちら、とマイキー君に視線を走らせる。着て早々、机に突っ伏して寝ていた。
 恥ずかしがる様子も、気まずそうな様子も、一欠けらたりとも見当たらない。

 …………やっぱり、気まぐれなんだろうな……。

 マイキー君の事だし『そこに顔があったから』という理由でキスしてきてもおかしくない。その証拠に今簡単に想像できてしまった。何とも言えない虚しさが胸の中に広がった。



 気にしない。そう、気にしない。
 マイキー君にとってただの気まぐれなんだから、わたしばっか気にするのバカみたいじゃん。

 何度も何度も言い聞かせているのに、虚無感は晴れなかった。始業式の時も廊下を歩いている時もトイレの時も、薄い靄が胸の辺りをぐるぐる巡っている。わたしにとってキスは、しかもマイキー君とのキスはとんっでもなく意味を持つものなのにマイキー君からしたら枝毛以下の問題であることを目の当たりにしたら、ただただ虚しかった。

 トイレで手を洗いながら、誰もいないのを良い事に盛大なため息を吐く。わたしばっか気にして、ほんと、バッカみたい。スカートのポケットから手を取り出し、ハンカチで濡れた手を拭く。
 
 人に勝手にキスしといて、何も言わないし。今日だって寝てばっかだし。ほんとなんなの。マイキー君の馬鹿。アホ。チビ。チビ。チビ。

 苛立ちがどんどん沸き上がり、心の中で罵倒する。だけど一番わたしが憎いのは自分だった。
 こんなにムカついてるのに、キスされた事自体は嫌じゃなかった。
 というか、むしろ。
 …………ああ〜〜〜〜。

 自分の馬鹿女加減がやり切れなくてむしゃくしゃしながら廊下を歩いていく。するとマイキー君がわたしの方向に向かって歩いていた。目を合わさないように視線をさりげなく端っこに寄せる。それでもマイキー君の存在感はすごい。視界の端で、チカチカと金髪が瞬いている。ただ歩いているだけで全員の視線を掻っ攫っていた。わたしの背後の人達の視線が私越しにマイキー君に向けられているのを感じ――「菜摘ちゃん!!!」

 叫ぶように名前を呼ばれ、びくっと肩が震える。振り向いたら真っ赤な顔のリカちゃんが立っていた。

「え、な、なに」

 リカちゃんがわたしのスカートを引っ張ると、さっきからお尻に妙に感じていた居心地の悪さが消えていった。
 奥歯に物が挟まったようなならぬ、パンツの間に何かが挟まっているような感覚が、抜けていった。
 パンツの、間に。

「見えてたよ……!」

 頬を赤らめたリカちゃんが眉を八の字に寄せて、耳元でささやく。それで全てを理解した。

 さっきから背後に感じていた視線はわたしを通してマイキー君を見ていたのではなく、純粋に、わたしを見ていたのだと。

 パンツにスカートが挟まっている、わたしを。

 ばっと後ろを振り返ると、いち、に、さん、し、四人の男子が立っていた。全員からそそくさと気まずそうに視線を逸らされる。
 
 だ、だ、男子に見られた…………!
 
 屈辱と恥ずかしさが体中を駆け回り、ぷるぷると体が震えた。死ぬ、今なら恥ずかしくて死ぬ。大声を上げながら走り回りたい衝動に必死に耐え忍ぶ。

「オマエとオマエとオマエとオマエ」

 すると、機械的な声が廊下に響き渡った。大きくはない、静かな声だ。だけど底知れぬ迫力を宿している。
 こんな風に声だけで威圧できるのは、この学校に一人しかいない。

「ボ、ボクの事でしょうか………?」

 青い顔した男子のひとりが恐る恐る自分を指さす。マイキー君はわたしの隣まで歩いてくるとぴたりと立ち止まり

「たりめーじゃん」

 冷たい瞳で、男子を凍てつかせた。

 廊下の温度が三十度くらい下がったような気がした。背筋に冷たいものを流されたように寒気を感じる。マイキー君の全身から冷たい怒りが発散されていた。

「選ばせてやる。自分で記憶喪失になんのと、オレに記憶喪失にさせられんの。どっちがいい?」

 首を傾げて、虚無が広がった真っ黒な瞳を男子達に向けたまま問いかける。声に抑揚はなく、淡々としているのに。抑えきれない苛立ちが溢れていた。

 え、な、なに、何でこんな急に……って。もしかし、て。

 マイキー君の突然の怒りに押されて頭の隅に追いやられていたけど、わたしはつい一分前まで恥ずかしさに打ち震えていた。男子にパンツを見られたショックで死にかけていた。
 その直後だ。マイキー君が、キレたのは。

「ま、マイキー君! わたし、その、いや気にしてるけどそこまで気にしてないから! 多分すぐ忘れられるし!」
「オマエがよくてもオレがよくねーし」

 マイキー君は前を冷たく見据えたまま「で、どうすんの」と恐怖に震えている男子達に再度問いかける。「好きで見た訳じゃないのに……」という泣き声が聞こえ、本当にその通りだと強く同意した。確かに男子達はパンツが見えてる状態のわたしを放置していたけど、男子が女子に『パンツ見えてる』とは指摘できないだろう。男子達の事情はすごくわかるものなのでそんなに怒られても困る。わたしのことを慮るマイキー君の善意は今や嬉しいというよりも困惑の方が勝っていた。

「いやわたしがいいならいいでしょ…! わたしの問題なんだから…!」
「は?」

 ぎろ、と睨みつけられてビクッと肩が跳ね上がる。至近距離からマイキー君の怒りを受け硬直しているわたしは、マイキー君の次の言葉を前に更に固まった。

「菜摘はオレの女なんだから、オレの問題に決まってんじゃん」

 そんな事もわかんねーのかと言いたげに、マイキー君は苛立っていた。

 先ほどの肌を刺すような静寂とはまた違う静寂が、廊下を包み込んだ。

 男子達が驚愕の視線をわたしに向けているのがわかった。リカちゃんが息を呑んで口元で両手を覆いながら恍惚と驚きの入り混じった眼差しでわたしを見つめているのが分かった。

 だけどそれ以外の事は、何もわからなかった。

 頭がぐるぐるする。一度、灘高受験用の問題を解こうと頑張った事があるけど、あの時以上に難しいかもしれない。

 何か今、少女漫画で五百回くらい聞き覚えのある台詞を東京卍會総長の佐野万次郎君が言ったような気がするんだけど。それをそこら辺にいる中学生代表のわたしに言ったような気がするんだけど。

 ぽかんと口を開けながらマイキー君を見つめる。マイキー君は平然とした顔でわたしを見返していた。

 とりあえず。ちょっと、これは。

「マイ……佐野君、ちょっと、こっち来て。一回、話したい」

 一旦、整理しないと。

「ヤダ。あいつらの記憶まだ消してない」

 人気のある状況で話せる事ではないと思い、マイキー君をここから連れ出そうとするものの、マイキー君はわたしのパンツを見た男子達がまだ気にかかるらしい。ぷいっと顔を背けてから、後方の男子達に睨みを効かせる。

「だ、大丈夫だよね? ねえ?」
「おう! もう忘れまくった! 大丈夫ですマイキー君! 僕らの記憶は完璧にございません!」
「そうです! なのでお気になさらず!」

 マイキー君はまだ納得いかないのか「ふーん……」と含みのある視線でじろじろと男子達を観察していたが、埒が明かないと思ったのだろう。「そーゆーことにしといてやる」と偉そうにうなずくと、「菜摘、いこ」と踵を返した。

 促してくるマイキー君に「ちょ、ちょっと待って」とお願いしてから、目を白黒させているリカちゃんを呼ぶ。付き合ってるのに教えてくれなかったと憤られる可能性もあるので、説明を入れておきたかった。

「リカちゃん、あのね。黙ってたとかじゃないから。なんか急にマ…、佐野君が言い出して」
「菜摘ちゃん」

 早口で言い募るわたしを制するように、リカちゃんはゆっくりとわたしの名を呼ぶ。リカちゃんをよくよく見ると、優しい目でわたしを見ていた。

「後で聞かせてね」

 視線と同じくらいの優しい声に、行き詰まっていた思考回路が解きほぐされ、テンパっていた気持ちが少し静まった。こくりと頷くと「佐野君待ってるよー」とリカちゃんは笑った。
 リカちゃんに言われて、マイキー君の方を振り向く。マイキー君は、ポケットに手を突っ込みながらじれったそうにわたしを見ていた。

 やっぱりわたしは、マイキー君がわからない。
 今だって全然理解できない。
 これからも理解できないと思う、けど。
 
 ごくりと唾を飲み込んでから、マイキー君に向き合い、そして一歩踏み出した。

「……お待たせ」

 わかろうとすることだけは、やめたくなかった。




 空き教室に入り、周りに誰もいないのを確認してから単刀直入に問いかけた。

「オレの女ってどういうこと?」

 ……自分で言いながらなんか恥ずかしかった。オレの女なんて台詞、わたしのような地味目の中学生が実生活で使う言葉じゃない。わたしが言うと、妙に空々しいものになる。

「オレの女はオレの女だよ。オレのモンってこと」
「……それって、つまり、その……彼女ってこと?」
「だからそう言ってんじゃん」

 マイキー君は物分かりが悪いなと言いたげに呆れたように言った。は、腹立つ……。じんわりと込み上がる苛立ちを抑えながら、「いつから?」と更に質問を続ける。

「わたし、いつからマイキー君と付き合ってんの?」
「クリスマスから」

 ――クリスマス。

 すぐそこにある、閉じられた目蓋。長い睫毛。くちびるに触れている、冷たくて柔らかいなにか。
 一気に駆け巡り、ぶわっと熱が体を支配する。

「オマエにキスしたじゃん」

 マイキー君は淡々と言いながら、じっとわたしを見据えた。大きな黒い瞳から放たれる視線が、あますことなくわたしに注がれている。
 わたしの全てを焼き尽くすような烈々とした眼差しに、心臓がどくんと跳ねる。ときめくあまり高鳴っているのではない。草食動物が危険を察知した瞬間のそれだった。

 何故か一瞬、逃げ出したくなった。

「……わたしのこと、好き、なの?」

 畏怖や恐怖心に似た何かを抑えつけながら、からからに乾いた喉奥から声を絞り出して問いかける。わたしのことが好きなのか。こんな質問をする時は、もっと、甘く酔いしれた気分になるものだと思っていた。
 干上がった喉を潤すために飲み込んだ唾の音が、体の中で響いた。

「うん。好きだよー」

 先ほどまで纏っていた圧はどこへいったのか。マイキー君はあっけらかんと肯定した。脱力し、ぴんと張っていた糸が緩みかけるがいかんいかんと首を軽く振って、自分を律する。わたしは真意をはかるために、飄々と頭の後ろで手を組んで立っているマイキー君を目を細めながら見つめた。

「犬とか猫に対するようなものじゃなくて?」
「菜摘疑り深すぎー」

 マイキー君はぷくっと頬を膨らませてから「好きだからキスしたのに」と不貞腐れたように呟いた。

 ……い、いかんいかん。気をしっかり持て菜摘……!

 今度はまぎれもなくときめきの意味で心臓が騒いだ。続いてキスされた時の感触が蘇り、恥ずかしさでのたうち回りたくなる。いけない、落ち着け。落ち着け落ち着け菜摘……! 頭を抑えながら必死に理性を保とうと頑張っていると、気配を感じた。頭から手を離し、少し視線を上げるとマイキー君がすぐそこに立っていた。

 面食らっているわたしの顎に、マイキー君は親指と人差し指を這わせる。

「もっかいしたら、わかる?」

 言いながらマイキー君はわたしの顎を持ち上げた。どくんっと心臓が一際強く跳ね上がる。鼓動が早まり、体中のうぶ毛が立った。

 大きな瞳が閉じられて、距離が縮まっていく。マイキー君の吐息がくちびるに触れた。

「ス、ストップ!!」

 距離がゼロになるまでにくちびるを右手で受け止めると、マイキー君は「ふが」と漏らした。わたしの顎から手を離し、顔から距離を取ると、不満げに睨みつけてくる。

「なんでとめんの。オレは菜摘が好き。菜摘もオレが好き。だからいいじゃん。菜摘、全然わかってくんねえし」
「だ、だって! なんか、こんな、なあなあで始まるのヤダ!」
「えーーー」

 マイキー君は「めんどくせーな〜」とぼやきながら体を揺らす。め、めんどくさいって。………というか、今。

『菜摘もオレが好き』

 マイキー君の言葉を思い出し、顔が熱くなった。う、うそ。いつから、いつからバレてたんだろ。気になるあまりちらちらとマイキー君に視線を送ると「なに」とマイキー君は面倒くさそうに言った。

「い、いや、なんでわたしがマイキー君の事を好きって思ったのかと……」
「カン」

 あっさり言い切られて、何とも言えない脱力感に襲われる。カ、カン。そうですか。よく当たりますね……。

「菜摘、オレのこと好きじゃん」

 マイキー君の唇から、抑揚のない声が紡がれた。確かめるように聞きながらも否定は許さないような口調。そこには、色も温度もほとんどなかった。

 わたしは吸い込まれるように、マイキー君の瞳に視線を合わせる。

 マイキー君の瞳は時には凛々しく光り、時には深い闇に沈む。
 だけど今はどちらでもなかった。

 ただゆらゆらと、たよりなげに揺らいでいた。
 
「好きだよ」

 気づいたら、滑り落ちるように、気持ちが零れ落ちていた。マイキー君を見据えながらもう一度同じ言葉を伝えると、黒い瞳の揺れが止まり、焦点がわたしに定まった。

「好きだよ。わたし、マイキー君のこと。……好き、だよ」

 一言一言確かめるように想いを言葉にしていくと、呼応するように、胸が熱くなっていった。恥ずかしくなり、顔を俯ける。最後の辺りは声が掠れてしまった。恥ずかしさを振り切るように、「だ、だから」と続ける。

「さっきも言ったけど、だからちゃんとしたいの。マイキー君もわたしのこと好きなら、ちゃんと付き合っていきたいし、その、」
「デートしよ」
「そう、デートとかして、段階を――え」

 顔を上げると、マイキー君がゆるやかに目を細めてわたしを見ていた。わたしと目が合うとにこっと笑い、朗らかに、歌うように言った。

「オレとデートしよ、菜摘」

 
  




As long as you know men are like children, you know everything.



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