頭が重い。
 
 泣きすぎたせいで頭は霞がかったようにぼーっとしていた。ずずっと鼻を啜る。佐野君の所在が気になりドアの方向へ視線を投げると、ちょうど佐野君もわたしを見ていた。視線がかちりと繋がる。真っ黒な瞳が、じいっとわたしを見ていた。

「終わった?」

 佐野君の目力は強い。深く見つめられるだけで身が竦み、一泊遅れてからの反応になってしまった。

「う、ん」

 泣きすぎてガサガサに枯れた喉はまだ上手に動かない。咳払いして喉の調子を整えていると、お腹が鳴った。

 は、恥ず………。給食途中までしか食べてなかったからだ……。

 佐野君はきょとんとすると、「んー」と唸りながらポケットに手を突っ込んだ。ごそごそとまさぐっている。

「あった」

 そう呟くと佐野君はわたしの元にやってきて、隣にどさりと腰を下ろした。

「ん、やる」
「え……」

 佐野君はわたしの手に強制的に何かを握らせた。佐野君の手が離れ、わたしは拳を広げていく。掌の上には、くしゃくしゃのハイチュウが乗っていた。

「……ありがと」
「どいたまー」

 いつも通りの軽い返答。さっきまで、教室で殺意を滾らせていた人と同一人物とは思えな……って、

「今何時!?」
「知らね」
「えっと……! 時計時計……!」

 空き教室と言えど時計は掛かっているだろうと思い、きょろきょろ見渡して時計を探すと案の定見つかった。2時15分を指している。ほぼ5時間目が終わっている。

「ご、ごめん…! すごい付き合わせた……!」
「いーよー。つかオマエ顔汚ぇな」

 佐野君はしげしげとわたしの顔を見つめながら、どこか感心したように呟いた。

「え…っ、ふごっ」

 ショックは瞬く間に驚きに変わる。視界が真っ黒に染まった。ごしごし、ごしごし。なにかで顔を拭われていく。ていうか地味に痛い。

「んー、マシになったようなそうでもないような」

 視界がクリアになり、再び佐野君が現れる。わたしの顔をまじまじと観察していた佐野君は「ま、いっか」とひとりで事態を完結させた。どうやら、わたしは佐野君に学ランで顔を拭いてもらったらしい。

「ありがと……」
「んー」

 佐野君は生返事しながら立ち上がると「帰ろ」と手を差し出した。それはすごく自然な動作だった。流れに続くように、半ば無意識のうちにわたしは佐野君の手を掴む。そのまま引っ張り上げられて、立たされた。手から手が離れていくと、佐野君の体温がゆるやかに消えていった。わずかに残った佐野君の体温を噛み締めるように、拳をぎゅっと握りしめる。なんとなく、そうしたかった。

 ……というかわたし、佐野君とさっき手を繋いだような……。え、そんなことある……? 佐野君と手を……繋ぐ………?

 幻覚か妄想かどっちだったのか。ん? と頭を悩ませているわたしに佐野君は全く関心を示さない。「川原ー、何してんだよー、帰ろうってばー」とじれったそうに唇を尖らせている。小さな子みたいだなぁ、と気が抜けて、うん、と頷こうとした時だった。ある事に気づいてしまう。

「わたし、カバン、教室に置きっぱ」
「ふーん」
「い、いやいや……。あと無断で帰ったらサボりになる……クラリネットも教室だし……」

 泣きすぎた為判断力が低下し、危うく佐野君の提案に乗るところだった。五時間目はサボってしまったけど、下痢でずっとトイレに籠っていた事にしとけばなんとか誤魔化せるだろう。そう、教室に戻らないと。

 戻らない、と。

 理性は今すぐ教室に戻れと訴えかけるが、心は竦み上がっていた。わたしを嘲笑う声、敵意と嫌悪の籠った眼差し、わたしの存在をなかったことにする、みんな。

 今まで、わたしは自分がハブられている事をあまり考えないようにしていた。心の中で正確に言語化したら事実≠ノなってしまうような気がして、認められなかった。だけどわたしはさっき、認めてしまった。

 自分が、クラスの中で浮いている事。嫌われている事。疎まれている事。

 心臓がまた早鐘を打ち始め、喉が狭くなったように呼吸が浅くなった。口の中の肉を噛んで恐怖を耐え忍ぼうとする。だけど、そんなわたしを嘲笑うように、今までの四日間の出来事が数珠つなぎのように頭に浮かび上がっていく。

 ひとりで向かう美術室。誰とも話さずに終わる一日。竹中さん達の方から笑い声が聞こえる度に、わたしを嘲笑するもののように聞こえて、何回も肩が強張った。

 内申が関係してる、無断欠席は響く、だから行かないと、行かないといけない、菜摘、行け、行かないと、

 ―――ガシッ

「え」
「れっつごー」

 佐野君はわたしの手を掴むと気の抜けた掛け声とともに、歩き出した。「え、ちょ、待っ。先生に言わないと、あとカバンおきっぱ……」とわたしの懇願に佐野君は聞く耳を持たない。どんどん、どんどん、有無を言わせず進んでいく。昇降口にたどり着くと、佐野君はわたしに命令した。

「待て」
「え」
「クラリネット取ってきてやるついでに、言っとく」

 言うが否や、佐野君は走り出した。目を点にするわたしを置いて、佐野君は腕を広げて「キーーン!」と言いながら廊下を走っていく。多分、アラレちゃんの物真似だ。佐野君の精神年齢は、普段は小学生だ。うんこネタでいつまでも笑うし。

 けど。かと思ったら、すべてを見透かすような眼差しで見つめながら、澄んだ声で呼んでくる。今だって、気付いてくれた。足が竦んで教室に戻れないわたしを、慮ってくれた。

 佐野君は優しい。それに大人だ。

 夕日が昇降口に差し込んで辺りを照らし、橙色の光が廊下に舞う小さな埃を浮かび上がらせていた。わたしはそれをぼんやりと眺めながら、思う。

 佐野君はハブられているわたしを見下さなかった。クラスの男子はわたしを気の毒そうに眺め、女子怖ェと揶揄の眼差しを向けてきた。男子達からの侮りの視線を感じる度にみじめさが加速して、どんどん息苦しくなっていった。

 だけど佐野君にはそれがなかった。フラットな眼差しでわたしを捉え、そして、怒ってくれた。弱者を守る庇護欲や驕った正義感は、佐野君から感じられなかった。ただ、怒ってくれた。だからわたしは、これ以上みじめにならずに済んだ。

 ハブられて、ハブられたことを恥ずかしがり、悪口を聞こえよがしに言われてもなにも言い返さずただ身を縮こまらせているわたしと全然違う。中学生の枠に嵌まらない広い視野を持っている。佐野君は、大人だ。
 
「川原ー」

 声の先に顔を向ける。戻ってきた佐野君が「持ってきた」とわたしにカバンとクラリネットを突き出した。

 ぼうっとしながら佐野君を見据える。佐野君は飄々とした調子で「あと下痢がやべーから帰るって設定にしてきた」と付け加えていた。

 佐野君を見続けていると、緊張感がゆるやかに抜けていく。安心感に包まれた。それなのに、つん、と鼻の奥が尖った。

 無言でじいっと見続けるわたしを不審に思ったのか、佐野君は訝しがるように眉を寄せた。わたしにちゃんと目を合わせて、訊いてくれる。

「なんだよ。下痢じゃ嫌?」

 むすっとしているけど、穏やかな声色だ。敵意も揶揄もない。佐野君の優しさが心に染み込んでいく。
 
 佐野君は、優しい。すごく優しい。

 わたしは手を伸ばし、佐野君から荷物を受け取ると。

「ありが、とう」

 大分遅くなってしまったけど、ようやく、お礼を言った。ちゃんと言いたかったのに、掠れた声になってしまった。ちゃんと言いたくて、ぱちぱちと瞬きを繰り返している佐野君に、もう一度言う。

「ありがとう……」

 もう一度伝えると、佐野君の優しさが更に心の底まで深く染み込んだ。目の下に涙の膜が盛り上がり、同時に嗚咽も喉元までせり上がる。あれだけ泣いたっていうのに、まだ、尽きないらしい。さっきの涙は色んな感情が混ざっていた。けど今は、佐野君が優しいから泣いた。ぶっきらぼうな気遣いが、わたしから全ての力を失わせる。

 涙が零れ落ちる寸前に俯くと、声が降ってきた。

「あいつらも殺すか」

 その声は、怒っても、悲しんでもいなかった。
 
 ただ、空っぽだった。

 佐野君が理解不能な言語を発すると、嗚咽は急速に引っ込んだ。顔を上げると、佐野君の目から光が消えていた。どこまでも続く闇が広がっている。

 いつかの佐野君が浮かんだ。
 佐野君の二つの瞳が、月光に照らされて浮かび上がる。

 一筋の光も差さない海の底のような、暗く黒い瞳。

 あの時と同じ、いや、違う。

 あの時以上の、瞳。

 ぞくりと肌が粟立ち、体が、氷づけられたように固まった。

 佐野君は下駄箱から靴を取り出し、地面に乱雑に転がした。呆然としていたわたしもハッと我に返り、慌ててわたしも下駄箱から靴を取り出した。
 靴を履き終えた佐野君はわたしを待っている。わたしも履き終わると、佐野君は再び歩き始めた。

「川原、今日もチャリ?」
「う、うん。今日も塾あるから」
「鍵貸して。なんか食いに行こ」

 佐野君に言われて、鍵を渡す。佐野君は受け取ると「ありがとなー」と言った。いつもの、通常モードの佐野君だ。さっきのは冗談だったのかもしれない。佐野君じゃなくても、わたし達の年代、特に男子は殺すを多用するし。

 うん。そう。きっと、そう。大丈夫。

 だって佐野君、今、普通だし。本当の佐野君は、優しいし。

 本当の佐野君

 自分を宥める為に出てきたキーワードに、違和感が首をもたげる。本当の佐野君って、なに。心のどこかに潜む冷静なわたしが問いかけてきた。

 見たいものしか見ず、信じたいものしか信じたくないわたしは考えないようにする。本当の佐野君は本当の佐野君。わざわざカバンを取りに行ってくれた佐野君こそが本当の佐野君。そう、何度も言い聞かせるのに。

 月明りに照らされた中の生気を感じさせない佇まい。氷点下に達するように冷たく、殺気ばしった瞳。

 夏休みの公園の佐野君が、わたしの思考回路を埋め尽くす。

 佐野君は駐輪場に来ると、わたしの自転車に跨った。ちりんちりん、と用もないのにベルを鳴らしてから、佐野君は佇んだままのわたしを見上げる。

「川原、乗ってー」

 ほら、いつも通りの飄々とした掴みどころのない佐野君だし。言い聞かせるように思って、わたしは笑顔を作ろうと口角を上げようとした。

 見ない振りをすればいい、知らない振りをすればいい。蓋をすれば、佐野君は優しい佐野君のままでいてくれる。いつも通りの佐野君で、いてくれる。

 いつも通りの佐野君。
 本当の佐野君。

 わたしがハブられてまで欲しかったものって、知りたかったものって、そんなものだっけ?

 そう思い至った時、わたしは口角を上げるのをやめた。すうと息を吸い込んで、地に足を着けて、佐野君を見据えながら問いかけた。

 いつもだとか、本当だとか、自分の物差しで測った定義を他人に押し付ける事がどれほど愚かな事か、

「佐野君、殺すって、どういうこと?」

 わたしはもう、知っている。



 もっと緊迫した雰囲気が流れると思った。もっと佐野君は重々しく返してくると思った。一番良いのは『冗談だって』と笑ってくれる事。

 だけど現実は、どれでもなかった。

「オレ、もうすぐ一人殺すから。一人殺すんなら二人も三人も一緒だろ? だから気にすんな」

 佐野君は淡々と言った。感情が、何もなかった。

 目が見張られていくのがわかる。神経が麻痺するように痺れ、体が硬直した。佐野君が何を言ったのかわかるけど、わからなかった、わかりたくなかった。

 佐野君の瞳に茶化すような色はない。本当に、殺そうと思っている。

 誰かを、
 クラスの子達を、

「どうし、て?」

 からからに乾ききった喉から必死の思いで声を振り絞ると、引き攣るような情けない声が出た。佐野君はハンドルに肘をつきながら、わたしを下から覗き込むように見つめる。

「オレのモンに、手ェ出すから」

 真っ黒な瞳は、果てしない虚無が広がっている。見つめられれば見つめられるほど、吸い込まれていくようだった。

「オマエだって、あいつ等、許せねえだろ?」

 いつのまにか生唾が口の中に集まっていた。ごくりと呑み込んで乾いた唇を舌で湿らせる。

 この四日間は、わたしの人生の中で最も辛い日々だった。

 自分の存在をなかったことにされること。聞こえよがしに悪口を言われること。直接的な暴力を振るわれたわけではないけど、わたしの心は毎日削られていった。

 悲しかった。ムカついた。

 佐野君がリカちゃんに詰め寄り竹中さんを威圧したその時は、ただヤバいと焦ったけど、後から思い出すとざまあみろと薄暗い喜びが徐々に沸き上がった。

「……許せないよ」

 だけど。

「でも。いつか、許したい」

 佐野君の眉毛がぴくりと動くと、空気ががらりと変わった。

 一瞬にして、場が凍りつく。

「なに言ってんの、オマエ」

 佐野君は短い言葉でわたしを威圧した。鷲掴みにされたように、心臓が震え上がる。佐野君から発される苛立ちは針のように尖り、わたしを圧迫した。

「オマエ、あいつ等に何されたかわかってんの? クソみてぇな理由で、あいつ等は人を傷つける。意味わかんねえご託を、こじつけて、何回も繰り返そうとする」

 少しずつ声に苛烈さが帯びていった。今や瞳にはぎらぎらとした憎悪が燃えている。
 体が震える。目の前の佐野君が怖かった。今すぐ背を向けて逃げ出したいと全細胞が叫んでいる。

 だけど、

「わ、わかってる。今日、佐野君が怒ってくれなかったら、わたし、もう学校来れなかったかもしれない。竹中さんとか、大嫌いだし、リカちゃんには死ぬほど、ムカついた」

 二人の名前を出すと胃がひやりと冷えて声が震えた。二人の青ざめた顔を思い出すとまた仄暗い爽快感が胸をよぎった。

「でも、でもわたし、佐野君に人を殺してほしくない。………リカちゃんに、死んでほしくない。……また、遊びたい」

 リカちゃん。わたしの中学入ってのはじめての友達。

 顔を見た瞬間に、わたしはこの子と友達になりたいと思った。喋ったことないのに気が合うと確信した。予想通り、わたし達は気が合った。沈黙が苦にならなかった。
 生理痛がひどくてマラソンを休んだ時、クラスの子達はずるいと詰ってきたけど、リカちゃんだけは生理痛は休みに値するものだと言ってくれた。
 初めてソロを任されることになった時、すごく喜んでくれた。菜摘ちゃんのクラがいちばん好き、と言ってくれた。

 わたしの中学時代は、リカちゃんで彩られていた。

「ムカついてるし、佐野君にビビってるリカちゃん見て、ざまあみろって思ったし、だけど、まだ、昔の、仲良かった頃の、リカちゃんとのいろいろが、まだ、残ってる。嫌いになりきれない、許さない限り、話せないのなんて嫌だ、また、話したい」

 声がどんどん熱っぽくなるにつれて、言葉はつっかえていった。眼球も熱を帯び、視界は曇っていく。ぐいっと擦ると、ふやけた視界がクリアになった。

 佐野君の顔がよく見える。
 下唇を噛んでいた。挑むような目付きでわたしを睨んでいる。

「わかってねーよ、オマエ。全然。そんなんキレイゴトだ」

 わたしも、自分が何をしたいのか、何を思っているのか、わかっていなかった。ムカつく、仲良くしたい、いなくなってしまえ、話したい、いろんな感情が交互に現れる。

「結局、リカちゃん達のこと許せないままかも、しんない。リカちゃんと、もう、元通りにならないかも、しれない。けど、今、わたし、悩んでる。悩んでるってことは、許したいって気持ちがあるってことだから、」

 胸の内の言葉を整理しないままぽろぽろと零れていく。だけど、どうか、佐野君に届いてほしい。

「だから……!」

 一縷の望みに縋りつくように、切々と訴えかける。佐野君は無言でわたしの視線を受け止めてくれていた。逸らすことなく、真正面から。

 不意に、佐野君は自転車から降りた。乱雑に自転車を止めるとそのままわたしの横を通り過ぎる。肩を怒らせながら、どんどんどんどん遠ざかっていく。

 佐野君の背中が、小さくなっていく。

『オレ、もうすぐ一人殺すから』

 佐野君はそう言った。
 元々、誰か殺す予定があったということだ。

『オマエ、あいつ等に何されたかわかってんの? クソみてぇなしょうもねえ理由で、あいつ等は人を傷つける。意味わかんねえご託を、こじつけて、何回も繰り返そうとする』

 そう言った時の佐野君は、目の前のわたしを見ていなかった。瞳に映しているけど見てはいない。ここにはいない、誰かを憎んでいた。
 
 佐野君は誰かに深い憎しみを抱いている。ずっとその殺意を持っていた。
 多分、わたしに出会う、もっと前から。

 佐野君の背中を見つめる。とてつもなく大きな孤独が佐野君を真っ黒に染め上げて、どこかへつれさってしまうような予感が過る。

 いや、だ。

「っ、佐野君!」

 体が勝手に動いていた。反射的に佐野君に駆け寄り、学ランを引っ張る。聞き分けのない子どものようなわたしを、佐野君はゆっくりと振り返った。空虚な瞳が、わたしに焦点を合わせる。

「離せ」

 喉元に刃を突きつけられたように鋭い視線を向けられる。恐怖が身体中を走った。だけど、怖くて怖くてたまらないのに、わたしは首を振る。

 手を離したら、佐野君は、わたしの手の届かないところに行ってしまう。

 それは殴られることよりもハブられることよりも怖かった。奈落の底に突き落とされるような、途方もない恐怖だった。

「佐野、く、ん」

 人を殺すのは悪いこと。そんなことをしてはいけない。正論を諭すことが正解だろう。だけどわたしは、どこまでも自分勝手で、どこまでも、自分のことしか考えていなかった。

「佐野君と、喋りたいよ」

 これからも、ずっと。

 呟くような声で伝えると、風が木々を揺らす音が聞こえるほどの静けさに包まれる。
 わたしと佐野君がいるこの場だけ、空間ごと切り取られたようだった。

「ガキかよ」
 
 佐野君はわたしの手を振り払った。背を向けて「ついてくんな」と言い放つ。とりつく島もない、拒絶の声。だけど、どこか懇願するような色を帯びていた。

「オマエのこと、傷つけたくない」

 途方もない願いを祈りを捧げるようだった。あまりにも寂しい声に、わたしは立ちすくむ。身動きひとつ取れなかった。

 佐野君はもう一度わたしに背を向けて歩き出す。もう追いかける事は、できなかった。

 



I came alone in this world, I have walked alone in the valley of the shadow of death, and I shall qu



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