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今日は七月八日。付き合ってから初めて迎える、総悟くんの誕生日。
わたしは顔の筋肉全てを抜け切っただらしない顔で、跳ねるような足取りで待ち合わせの公園に向かっていった。
総悟くんは去年と同じように、誕生日を休みにしてもらったらしい。というか、勝手に近藤さんが誕生日は休みにしてくれるらしい。貰えるもんは貰っときまさァ。仕事は神山にでも押し付けとけばいいし。と、平然と言いのけていた。…うん、本当、総悟くんらしい。
でも、わたしは嬉しい。
だって、近藤さんが休みにしてくださったおかげで、わたしは総悟くんの誕生日を丸一日思う存分祝ってあげられるのだから。
右手には昨日作り上げたケーキ、左手には落語のCD全集のプレゼントを持っている。
ケーキは一か月も前から考えてつくりあげたわたしの最高傑作と言ってもいい。夏にはスーパーにイチゴは売られてないから、遠くから高級なイチゴを取り寄せ、生クリームの絶妙な混ぜ加減を研究して…。うん、わたし、努力したよ。
じーんとしながら歩いていると、待ち合わせの公園についた。腕時計に目を通すと、約束の時間まであと二十分もあった。
はやく着すぎちゃったなー…。本屋さんで時間でも潰しとこう。
わたしは本屋さんの中に入っていった。
そして、適当な雑誌を開いた―――…。
***
待ち合わせ時間の三分前に俺は公園に到着した。
よォ、と手を挙げて、声をかけると小春は俺に気付き、顔を上げた。
何故だか、その顔はとてもどんよりとした暗い表情だった。
「あ…、おはよう…」
ついでに声のトーンも低い。
「…? どうしたんでさァ」
あまりにもいつもと様子が違うので、不審に思い、問いかける。
小春はびくっと肩を揺らし、ぷるぷる震えたかと思うと。
「ご…ごめんなさあああああああい!!」
とガキのようにわんわん泣きわめき始めた。
…は?
「ごめんなさいっ、ごめっなさっ、気が利かなくてっ、ごめんなさ…!!」
小春はわんわん泣きわめきながら、謝り倒した。
さっき本屋に入って、読んだ雑誌に、『プレゼントに手作りは重い』『なんか入ってそう』『なんか、キモい(笑)』『古臭い』という手作りプレゼントは男的にない!という特集があったこと。
それを読んで自分はいかに馬鹿かと気づいた、と小春は切々と泣きながら語った。
「ごめんなざいっ、わだじ、いながもんだがらっ、そういうのっ、わがんなぐでえっ、市販のケーキのが、おいじぐで、スタイリッジュで、いいっ、よっね。でもっ、もうごんげつおがねなぐでえ…っ」
わーんわーんと泣きながら言っているから聞き取るのも大変だ。
はあ、と俺はでかくて長いため息を吐いた。
びくっと、先ほどよりも大きく震える小春。
「っとに、お前は大馬鹿でさァ」
身を守るようにして縮こまっていく小春を冷めた眼差しで見下ろす。
そして、ごめんなさい、と小春の口が動こうとする前に、手首を掴んだ。
「え、ちょっ、そ、ご、くん…!?」
なにやら喚いている小春をお構いなしに、ずるずると引きずるようにして引っ張り、適当なベンチに腰をかける。小春も無理やり一緒に。
「それ」
「え」
「それがケーキか?」
「え、えと、うん」
小春がそう言うがいなや、小春の手からケーキを引っ手繰るようにして奪った。
紙袋から箱を取り出し、膝に乗せて扉を開く。
真っ赤なイチゴに、少し型崩れした生クリーム。『おたんじょうび おめでとう』とチョコートのプレートが中央を陣取っている。
「いっ、いいから、そんな、重いの、食べなくてっ、いいから」
あせあせと横で喚く小春をぎろりと人睨みする。ひっと悲鳴が小春から漏れた。
「テメェはよ」
「は、はい」
「俺にたいして惚れてねェってことなンかよ」
ったく、恥ずかしいこと言わせんじゃねェよ。
舌打ちしたい衝動を必死で抑える。
「そ、そんなことない、けど」
真っ赤な顔で目を泳がせながら質問に答える小春に俺は言ってやった。
「だったらいいだろィ。重くて。それに、」
俺は、
男でもあっけど、その前に、
沖田総悟でさァ。
「…キモいかどうかは俺が決めまさァ」
小春の目を今まで真っ直ぐ見ていたが、自分の発言が恥ずかしくて、少し、目を逸らしながら、言う。
小春に視線を戻すと、ぽかんと口を開けていて、間抜け面だった。
少ししてから、小春は小さな声で、俺に問いかけた。
「じゃあ、総悟くんは、わたしに、ケーキ作ってもらえて、嬉しく、思ってくれている…?」
おずおずと、覗き込むようにして問いかけてくる。
…コイツは恥ずかしい物言いしかできねェのか。
「ばーか」
羞恥を誤魔化すために、ぶっきらぼうに意味のない悪口で返すと、小春の表情は一転して、見る見るうちに明るくなった。へへ、へへっと情けない顔つきで口元に手を当てながら笑っている。
「っつーか、それよりも言うことがあんだろィ」
「へ。え。…あ!」
小春はきょとんとしたのち、ちょっと考えるような顔つきをしたのち、花が咲いたような笑顔で、俺に言った。
「誕生日、おめでとう!」
「もっとはやく言いなせェ、バーカ」
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