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君は魔法使い

 何がどうなってこうなるのか
君には聞きたいことが沢山あるよ。

「もう一人の、ボク」

「なんだ?」

人にこの仕打ちをしておいて、なんだとは何だ。
ボクは、ボクたちは今、手錠で繋がれている。
朝起きた時には既に手錠が繋がれていて、どうやらボクが寝ている間に
こっそりもう一人のボクが、ボクの体に手錠を掛けたらしい。なんて事をしてくれたんだろう



「おっろろ…」
このまるで無反応な、ボクを男として見てくれていないような名前ちゃんの反応がかなり悲しい。
もし、繋がれていたのがもう一人のボクだったなら彼女は顔を真っ赤にしただろうか?
無反応というよりは寝起き早々今のこの状況を頭上いっぱいはてなマークを浮かべているようにも見える。


「そんなに睨むなよ相棒、折角の誕生日を祝ってやろうと思っての行動なんだぜ?」

「鍵は日付が変わったら外してやるさ」
とだけ言い残し彼はパズルの中へと引っ込んだ。

やられた…!と思ったが、誕生日に好きな人と過ごせる、それも一日中と言う話。嬉しいか嬉しくないかと聞かれれば当然、嬉しい。
だがしかし、このままの状態で外へ出るとどんな奇異の目で見られるか分かったもんじゃない。

目が覚めてきたのか、名前ちゃんがはっきりとした呂律で
今1番ボクが言われたくなかった言葉を発した。

「遊戯くん、外に行こう!天気もいいし」

キラキラと輝くその目にボクが勝てる訳もなくて。




 やっと着替えたボクたちは、手錠で繋がれていますという事を『カモフラージュ』する様に手を繋いだ。

やっぱりボク、男として見てもらえてないのかな
「手を繋ごう」と手を差し出す仕草は小さな子供に対するそれと同じもののように感じる。
そんなモヤモヤした事を考えていた矢先、前方からよく知る声がした。城之内君だ。


「遊戯ー!誕生日オメデトな!手錠は後で返せよ」

…………?
ボクの頭に浮かんだパズルがどんどん組み上がってゆくのを感じた。
そもそもボクは手錠なんて持ってない。買うか、誰かから借りてなきゃこんな事にはなってないんだ。

つまり…
だけどボクは、今の状況に喜んでいる自分がいて城之内君を責める気にはなれなかった。むしろ感謝をしてしまっている。

城之内君はこれからアルバイトがあるらしく、祝いの言葉と手錠が俺からの誕プレ(プライスレス)な!と言いながら去っていった。
先程返せと言ったのに、くれるんだね。と城之内君の不器用な優しさに笑ってしまう。
……一体何処でこんなものを買ったのか。




「遊戯くん、何処か休む場所ってないかな?」

「この先、ちょっと行けば噴水があるよ。」

「休もう!行こうっ」


噴水のすぐ下に腰掛ける。
名前ちゃんは確かに『休もう』と言った筈だけど
結局勢い任せに手を繋いで噴水まで駆けてきてしまった。
噴水の飛沫と共に風が心地よく吹き抜ける。
冷たいミストの中にいる様で気持ちがいい。
だけど『手錠のカモフラージュ』なんて名目で繋いだ手はずっと繋いだまま、熱を持っていた。
汗ばんでないかなと心配になるが、もうこの際どうだっていいな。

「ねぇ、遊戯くん」
「ん?」

なんだろう、凄くドキドキする。



ふふん と彼女は無邪気に笑った。
するとグイッと手を引かれたボクは手元が、身体が
くるりと回ったような、どちらが回転したのか脳の処理が追いつかない事が起きた次の瞬間、
ボクの視界は、世界が90度回って見えていた。

















膝枕だ――

あまりにも突然で、
きっと今日、一番、ボクは顔が熱くなっている。
体全身が焼け焦げてしまうような錯覚に陥ってしまった。

片方の手で、優しく頭を撫でられている。

「えへへ、驚いたかな?」

心拍数が上がりすぎていたボクはもう名前ちゃんに熱を悟られないよう手を離すことで精一杯だった。
な、何か言わなくては…ぱくぱくと声が出ないボクを見て、続けた。

「今日は遊戯くんの誕生日だったんだね」
教えてくれてもよかったのに、と名前ちゃんが軽く頬を膨らませる。
「私は、プレゼントも何も用意出来てないけど、遊戯くんと、遊戯くんの誕生日に一緒に過ごせて嬉しい。お誕生日おめでとう」

「名前ちゃん、あ、ありがと、結構、素敵なモノを今、ボクは貰った、よ」

心臓が言葉と一緒に口から飛び出てしまうのではと緊張しながら、自分の心臓の音が耳から聞こえている状態だったボクは、言葉を一つ一つ紡いでいった。

「よかった」

ボクの髪を撫でるその手が気持ち良いのか
噴水が、風が気持ち良いのか
ボクたちを無理矢理繋いだこの手錠ですら
とても愛おしく思えてくる。
あと少し、もう少しだけ、
そんな気持ちがどんどん大きくなって
今日は一日中ボクが君を独占しよう。

目に映る全て、感じる全てが
幸せに変わってゆく様で。


君はきっと幸せを届ける魔法使いだ。




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