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懐かしいのは

 「おはようパズルさん!」

そう何やら楽しげに席の離れているナマエがオレの方に歩いてくる。月曜日の朝のHRが終わり、様々な生徒の欠伸や土日何をして過ごしたかと色々な会話が飛び交っている。今日は相棒が「名前ちゃんがキミに会いたいんだって」と言って朝からオレが出っ放しだ。オレもなんだかんだでこの生活には慣れてきていた。目新しいもの、見たことも無いもの…否、オレにとって世界は全てが新しく、見たことも無いものだ。だが、この世界には記憶が無くて思い出せない筈なのに何故か懐かしく思えるものもある。
たとえば、ナマエのような……

「パズルさん?起きてる?眠い?」

考え事に気を取られていてナマエがもう近くにいた事に気が付かなかった。目の前の少女はまだ着慣れていないのか、制服のリボンはえらく不細工な形をしている。

「ナマエ、リボン曲がってるぜ」
「上手く結べなくて…」

全く。オレはナマエをもっと近くに来るよう手招いてみると、少しオレを疑っているのか子猫のように歩みを寄せた。

「パズルさんリボン結べるの?」
「オレはお前より先輩だからな」

―――瞬間、オレとナマエは電流が走ったように目を見合わせた。
その黒く吸い込まれそうな瞳を見詰めていると、何かが目にこみ上げてくる。懐かしい、愛おしい、違う。なんなのだろうか。オレはナマエの何を懐かしいと思っているのか?

「ごめん!」
「っ……」

じっと見詰めすぎたのだろうか。引き止める隙もなく、彼女はどこかへ逃げていった。恐らくは男のオレが入れないような場所だろう。オレの手にはナマエのリボンが一つ、それはふわりと彼女が起こした風になびかれていた。

「(オレは…ナマエよりも先輩だから、な…)」

遠い遠い昔、同じような事を言った、そんな不確かな記憶が呼び起こされる。いつだったか、今みたいに……オレが誰かに、何かを教えていた…ような記憶。それ以上は思い出せないので考えるのをやめると、ナマエが慌てた様子でこう叫びながらオレの元へ戻ってきた。

「リボン結んでないと職員室に連れてかれちゃうなんて聞いてない!」
「ほら、オレが結んでやるからじっとしてろ」
「………」

むぅ…と走って帰ってきたお騒がせ者はオレに結んで!と言うように胸…否、首を前に出した。ゆっくりとリボンを首にかけ崩れないよう、綺麗に結んでみせる。心做しか、ナマエの頬が赤い気がした。
きっと走って戻ってきたからだろう。
結び終わると同時に一限目の予鈴がなる。

「あの、パズルさん」
「どうした?」
「今日……君は覚えていないかもしれないけど」
「なんだ」
「君の大切な……なん…!だから!!……とう!」

ナマエが何かを伝えてくれたその声はチャイムの音が邪魔をして、聞こえなかった。

「あぁ、ありがとう」

わけも分からず、とりあえず感謝を伝えてみるとナマエは真っ赤になって「私もリボン結んでくれてありがとう!」とにっこりと笑った。

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