クツクツと音を立てて煮える鍋をかきまぜる。薫り高いジャムの匂いが鼻孔を擽り、思わず笑みを浮かべた。味見と称してほんの少しだけスプーンに乗せると湯気の出ているそれを口に含んだ。じっくりと味わうと満足のいく出来にほっと安堵の息を漏らす。
青色の果物は爽やかな柑橘系の香りと味をしていてジャムにするには最適だ。最初こそ見慣れない毒々しい色合いに恐怖心を覚えたが、慣れてしまえば見た目もそんなに気にはならない。ジャムにすれば透き通る鮮やかな青色が綺麗で、宝石のようにきらきらと輝き綺麗だ。
「喜んでくれるかなぁ…」
十分煮立ったジャムを入れた鍋の火を止め、青色のジャムを見つめる。
今日は友人と約束をした日だ。何をするでもない、ただ普通に会って話をするだけの約束。けれどそれは自分にとって大切でかけがえのない約束だから、こうして心待ちにしている。
会ったらなんて言葉を掛けたらいいのか。久しぶり、と再会を喜ぶ言葉か、元気だったかと体調を気遣うのか先か。あまりにも久しぶりに会うからなんて言葉を掛けたらいいのか正直に言うとわからない。どれが正しくてどうしたら相手を喜ばせられるのだろう。
うんうん唸りながらも、湯気の立つジャムを氷水を下に浸してある銀色のボールに移し代えて、ぐるぐるとかき混ぜた。
本当は自然と常温になるのを待ってから冷やしたいのだが、生憎と今は時間が足りない。急いでジャムを冷やさなければならなくなり、苦肉の策としてこうした方法で熱を冷ましているのだ。本当なら昨日の時点で別のデザートが出来上がっているのだが、今朝起きてからそういえば、と思い出して急いで作り出したのがこのオレンの実を使ったジャムだった。
ラプラスの彼を思い起こさせる綺麗な青色。前に作ったとき、これは彼の色だと思ったのだ。何も言わずに彼にこれを出した時、どんな反応が返ってくるだろうと想像するだけで自然と笑みが零れた。こちらの意図に気付かれたら少し恥ずかしいけれど、もしかしたら喜んで貰えるのではと期待している。
ほわりほわりと、浮わついた気分で未だ冷めぬ青いジャムをかき混ぜた。
木べらが青く染まる。盛り合わせは何がいいだろうか。メインとなるのはこのジャムだからこの青が映える色がいいかもしれない。
真っ白ふわふわのサンドイッチの生地に、ふっくらきつね色に焼き上がったパンケーキ。
サクサクとした食感のクラッカーと、薄くてモチモチとした卵色のクレープ生地にしっとりサクサクしたスコーン。
好みに合わせられるようにモモンの実やベリー系統の実、カスタードクリームや生クリームについで付け合わせのミントもある。
こんなに甘いものばかりだと、きっと塩辛いものも欲しくなるだろうから少し塩味のするクッキーも作った。
ジャムを作るより先に用意しておいたお茶会の茶菓子を見つめて、首を傾ける。
「…少し、多かったかな?」
改めて見てみるととても二人分には思えなくて、内心困ったと眉を寄せた。こうなったのは少数の人数分を作るのに慣れていなかったせいだ、と言いたいがこれはただ単に自分が後先考えず浮かれて作っていた所為だ。
つまり配分ミスをしただけ。
「……ま、まぁ冷蔵庫に入れておけば一週間くらいは大丈夫だよね…きっと、多分」
語尾に近づくにつれ小さくなる声音に自信が消えていく。暫く見つめてみたが、それで作ったものが減る訳がなく、最終的になるようになれと自棄になって、お茶会の用意を始めた。
レースのついた白いテーブルクロスを机に敷き、その上にケーキスタンドを置く。丁度中央に置けたところでお菓子が乗った皿とティーポット、選り分けるための小皿を乗せた。
時計を見れば約束の時間まで残り数分。ジャムは冷えただろうかと一口味見をすると、少しだけ冷えた温度にまで下がっている。
これなら何とかなるだろうか。微かな不安を感じつつも時間も時間なのでボールから二つのガラスの器に移し替えるとそれぞれ向かい合わせの場所に置く。愛らしいパンジーの花を茶会の彩りとして乗せれば完成だ。
「間に合った…」
今度作る時はもっと計画的に事を進めなければいけないと反省しつつ、間に合ったお茶会のセッティングにほっと安堵の息を漏らした。
リィンと鳴ったチャイムの音に、もう来たのかと玄関の方に足を運ぶ。時計の針は時間より少し前を示していた。
冷たい取っ手を手に取り手前に引くと、視界に入ってくる待ちわびた人物の姿。
「こんにちは。久しぶりだね」
彼の笑った口元に、こちらも口元を綻ばせて歓迎の言葉を口にした。


(さぁ。楽しい茶会の始まりだ!)

ーーーーーーーーー
金平糖のそらまめ様に捧げます。この度は相互をしてくださりありがとうございました!
お相手はそらまめ様宅のラネシュ君、だったのですが何を罷り間違ったのか名前すら登場させることが叶いませんでした。すみません…大変すみません。本当にすみません。キッチンの女王と化したウチの主人公を書こうと思っていたのになんかただの遊び盛り女子になってしまいました。
可笑しいな…頭の中では真っ赤な(牛)肉を引っ掴んで(ビーフシチューをつくるため)包丁片手に(タマネギ切って)涙しながら無双乱舞(視界が滲み過ぎてどうしようもなくなった)状態のサナが思い浮かぶのに…。
玄関で会ってからどんな話をしたかはご想像にお任せします。



キミいろ。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -