君を好きになるよりも君を嫌う方が簡単だと気付いた。
そんな考えに辿り着いた日は虚しくなるくらい心地の良いよく晴れた昼下がりで、昼寝をするにはとても丁度いい。

もう、忘れてしまおう。そう思ったのは不思議なことじゃなかった。けれど同時に自業自得だとも思えて、どうしようもないくらい悲しくなる。
何故今更気付いてしまったのか自分でもわからない。わからないけれど今更動こうとしても取り返しがつかないことだけははっきりしている。

自室の窓から見える光景はそう思わせるには十分すぎるほど効果があった。

「あーあ…ばっかだなぁ…」

じんわりと熱くなる目元を抑えると窓に背を向けて一人蹲る。それを見続けるのに今は辛すぎた。
幸せそうに笑っている少年と、その少年の隣で優しげな表情を浮かべる少女の姿は、恋を知ってしまったばかりの自分には眩し過ぎたのだ。

◆◆◆

人を想うことを知らなかった人間が恋を知って、恋を失った。知ったというのにも烏許がましいほど拙い感情だったが、確かにそれは人を心から好きに思う感情だったのだ。

多分彼のことを好きになったのはずっと前。それも自分と彼が旅に出る前から好きだったのだと思う。
けれど当時の自分が恋を自覚するにはその感情は未発達過ぎた。その時は異性を好きになるよりも自分のポケモンを育てる方に夢中になっていたのだ。
今さらこんな思いに気付いたとして何になるのだろう。芽吹いた先に光も水も無ければ咲くことすら出来ないというのに。
言葉に出来ない思いが喉の奥で滞り熱を持つ。視界が滲む。瞼が熱い。
好きだった。好きだった。本当に、言葉にするのが躊躇われるほどに君のことが好きで仕方ない。
君を好きなことが、こんなにも苦しいことになるなんて思いもしなかった。涙が幾筋も頬を伝っては服に染みる。ひきつれた傷口に塩水が滲みる。
瞬きを一つしてまたぽろぽろと涙を落とした。けれど胸の苦しさは消えない。

嗚呼これが叶わぬ思いならば、いっそのこと、君のことなど忘れてしまおう。

あなたがいま、幸せだと言うのなら私があなたのことを忘れてしまえばいい。
人知れず消えて無くなれば、きっと誰にも気付かれずに私の想いは風化するだろうから。想いを告げられぬまま、芽吹いた花は握り潰してしまえばいい。

だから、恋した君よ。
どうか幸せに。

私は手のひらに残った花弁と共に、そっと消えていなくなろう。



君を愛するより簡単なこと
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