「――ッあ!」


パリンッ!





時刻は22時。
三人はそれぞれの部屋でそれぞれ時間を潰していた。
そんな中、突然なまえの部屋から短い悲鳴と、何かガラス製の物が割れる音が響いた。
正しく地獄耳を持った弟達がそれを聞き逃すわけもなく、即座に部屋まで駆け付ける。


「姉上どうしました!?」
「大丈夫ですか姉上!」


今回ばかりは緊急事態と判断し、ノック無しで扉を勢い良く開け放つ。
すると部屋の片隅になまえのパジャマが落ちているのを発見した。


「パジャマだけ…?」
「姉上、何処ですかー!?」


辺りを見回しながら手掛かりであるパジャマに歩み寄る。
パジャマをよく見ると中央が盛り上がっており、よくよく見れば規則的に動いている。
……動いている?

メフィストは嫌な予感を感じながら跪き、ゆっくりとパジャマを捲りあげた。


「………!!?」
「兄上、どうし――…!?」


そこに隠れるように眠っていたのは、誰がどう見ても…


「「赤ん坊!?」」


紛う事なく、生まれたままの姿で眠る赤ん坊だった。
その有り得ない光景に二人は目を見開いたまま微動だに出来ずにいたが、先にアマイモンがパジャマ横に落ちている物の存在に気付く。


「兄上、これって」
「…!これは試験管…に、この液体…」


短い悲鳴、
何かが割れる音、
なまえのパジャマに埋もれた赤ん坊、
その傍に割れた試験管と謎の液体。


「…まさか私に使った薬!?」


メフィストの脳裏に嫌な記憶が蘇る。
なまえの作った若返りの薬によって、中途半端に幼児化してしまった時の事を。
あの時は外見だけが幼児化したり中身だけが幼児化していたが、今の状況を見ると両方とも幼児化させる事に成功したようだ。
…ただ少しばかり幼児化し過ぎているが。


「恐らく…密かに改良を続けていて自ら、もしくは何らかの拍子に薬を飲んでしまったんでしょうね」
「姉上の赤ちゃん…」
「赤ちゃんの姉上だ」


ツッコミを入れる程度には冷静さを取り戻しつつあるメフィストは、なまえをパジャマに包みながらそろりと抱き上げる。
赤ん坊を抱いた事など数える程しか無かったためぎこちないが、なんとか様にはなっている。
よいしょ、と抱き直すとその振動が気に食わなかったのかなまえの瞼が震え、ゆるゆるとその潤んだ瞳が露わになる。


「あぁ、起こしてしまいましたか」
「姉上、おはようゴザイマス」
「…………ぷぇ、」


ぷぇ?
よく分からない単語を発した事に二人して首を傾けた瞬間、


「ぷぇええあああああああああん!!!!!」

「ぎゃっ!?姉上泣かないで下さいホォラ高い高ーい☆」
「凄い泣き声ですね、流石姉上」
「あああああああん!!!!!」
「アマイモンお前も見てないで何とかしろ!」
「うーんそう言われましても…あ、コレ食べますか姉上」
「ぷぇ…?」


ポケットから棒付きの小さい飴を取り出しなまえへ差し出す。
なまえはそれに興味を持ったのか手を伸ばすが、メフィストが向きを変えた事でなまえの小さな手は宙を掻いた。


「駄目に決まってるだろ、丸飲みしたらどうするんだ!」
「っぴぎゃあああああああん!!!!!!」
「あぁホラ兄上が意地悪するから」
「駄目な物は駄目です姉上! ――っそうだ、」

指を鳴らすとメフィストの手におしゃぶりが一つ現れる。
すかさずそれをなまえの口に押し込めば、納得したように泣き止んだ。


「ハハァ、その手がありましたか」
「というか常套手段だろう。赤ん坊が泣く理由なんて空腹か寂しいか、不快な事がある時だろう」
「…おしめが濡れた時は泣かないんですか?」
「いや、泣くと思うが…!?」


アマイモンの視線の先と自分の手元が合致する事と、手元に伝わる生温かい湿り気にハッとする。
恐る恐る確認すると案の定用を足した後のようだった。


「……とりあえずオムツと服とミルクと…あとベビーベッドも必要か…」
「兄上すっかりパパですね」
「お前も協力するんだぞ!!」
「分かってますよ、ねー姉上ー?」


ガックリと肩を落とすメフィストに対し楽観的なアマイモン。
スッキリした様子のなまえを覗き込めば、初めて声を上げて笑った。


「あっ笑いましたよ兄上!」
「何故だ…!」




こうして、終わりの見えない子育てが始まった。



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子育てにあくせくしながら一喜一憂する様をお楽しみ頂けたら幸いです^^

0905
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