「…いつまで不貞腐れてるんだ」
「……姉上も一緒が良かったです」


とあるデパートの洋服売場。
およそ似付かわしくない場所だが、そこにメフィストとアマイモンはいた。
メフィストはやれやれと溜め息を吐き、アマイモンはやや口を尖らせながら飴をくわえている。


「出る前にも言っただろう、これは黙ってなきゃ意味が無い作戦だと」
「…そうですけど…きっと怒ってますよ、暇だって」
「……爆睡している事を祈ろう」


何故彼等がなまえの機嫌を損ねるリスクを負ってまでこんな所に来たのか。
それはもちろんなまえのためだった。


「それにしても…何でプレゼントがパジャマなんです?普段着の方が喜ぶんじゃないですか?」
「確かにこの計画は姉上の機嫌取りのためでもあるが、目的はそこじゃない」
「……下着姿の方がいいのに…」
「おまっ目的が分かってて止めようとしたな!?」
「ナンノコトカ ワカリマセン」
「棒読みだぞ…はぁ、」

パジャマをプレゼントする目的はただ一つ。
今だに眠る時は下着姿を貫くなまえに、パジャマを着てもらうためだ。
一応結界を張り用心はしているが、いつ誰が忍び込むか分からない。
現にアマイモンはほぼ毎日忍び込んでいる。
(その度にメフィストの罠にかかり強制退室されている)


「何だかんだ弟には甘い所があるからな、我々からのプレゼントとなれば喜んで着るだろう」
「それならやっぱり一緒に来ても同じじゃないですか」
「ふん、まだまだ甘いなアマイモン…女性は総じてサプライズプレゼントに弱いものなのだ」
「へー、そうなんですか」
「さぁぐずぐずしていたら姉上の機嫌は損なわれるばかりだ、早く選ぶぞ!」
「はーい」


早く選ぶと言いつつ、いざ選びだすと二人の趣味がなかなか合わない。
議論の末にようやくお会計を済ませた頃には、既におやつの時間を過ぎていた。
急いで車に乗り込み帰路に就く。


「姉上、流石に起きてますよねぇ」
「私とした事が…つい時間を忘れてしまった」
「…姉上、怒ってるでしょうか?」
「……二、三発は覚悟しておくか」
「多分殴られるのは兄上だけですよ」
「何でだ!!
………いや…納得できないが、有り得るな…」

その場面を想像してみる。
帰るなり不平文句を並べ立て、それだけでは収まらずメフィストをボコり、アマイモンには"めっ"くらいで済ませる様を。


「姉上に殴られた事なんて一度も無いですもん」
「ぐっ……ん?そういえば…私もないな」
「あれ?そうなんですか、てっきりボコボコにされた事があるのかと思ってました」
「私がやられるわけないだろう」
「兄上、姉上には逆らわないからやられた事があるのかと」
「それは――…いや。
姉上が強い事は間違いないからな、逆らわん方が得策なのも間違いない」
「あっ今何か内緒にしましたね」
「ええい煩いッほら着いたぞ!」


急ぎ足でなまえの部屋へ向かう。
途中で何故か奥村燐を見かけたが、今はそれどころではない。
そもそも、なまえは大人しく部屋にいるのだろうか?
我慢できずに飛び出したり、力を使って悪魔とバレたりしていないだろうか?
はやる気持ちを抑えつつ扉を叩けば此方へ歩み寄る足音が。
部屋にいた事に一先ず安堵するが、どう言い訳するか纏まっていない事に気付く。


「あ、アマイモンお前が前に立て」
「嫌ですよ、兄上がまず説明して下さい」
「ぐっ、後で覚えて……あ、」


カチャリとノブが動き扉が開かれる。
そこにいたのは般若か鬼か、はたまた魔王か。
イメージはどんどん恐ろしいものへと膨らんでいくが、



「おかえりなさい、」



……とびきり優しい笑顔のなまえだった。


「た、只今戻りました姉上」
「姉上戻りました、一人にさせてすみません…お暇だったでしょう?」
「(コイツ!?)これには訳がありまして!」
「うん?まぁこっちはこっちでそれなりに楽しめたからいいよ、それより紅茶淹れたからほら座って、」
「へ!?は、はぁ…」
「(…全然怒ってませんね)」
「(何だか逆に怖いな…)」


拍子抜けとはこの事、と言わんばかりの顔をしながら椅子に腰掛け紅茶を口に含む。


「うーむ…やはり姉上の紅茶は美味いですね」
「姉上のが一番好きです」
「うふふ、ありがと」
「…それはそうと姉上、」

チラリとアマイモンに目配せし、それに気付いて隠していた紙袋を取り出す。


「姉上、これ」
「?なぁに、それ?」
「我々からのプレゼントです」
「受け取ってくれますか?」
「え!?プレゼント?誕生日でもないのに…ありがと、開けていい?」
「「どうぞ」」


丁寧にテープを剥がし、中に畳まれていたそれを取り出し広げる。


「…あ、もしやこれパジャマ!?」
「そうですよ、いつも下着姿で寝てるようなので…誰かが急に現れても大丈夫なように、ね」
「別に見られたって平気なのに…」
「ボク達以外の誰かに見られるのはムカつくので、着ていて欲しいんです」
「アマイモン…」


弟達とパジャマを交互に見やり、一つ頷く。


「ありがと!大事に着るよ!」
「気に入って貰えましたか?」
「もちろん!」
「それは何より…って姉上!?」


嬉しそうに喜ぶなまえに安堵したのも束の間。
突然なまえが服を脱ぎ始めたのだ。


「なっ貴女さっきの話聞いてましたか!?」
「今日の下着も可愛いですね」
「そうじゃないだろアマイモン!」
「…っよいせ、どう?どう?似合うかな?」


ワンピース型のパジャマに着替え、裾を少し広げてポーズをとる。


「(――ッ、これは、)」
「よく似合ってます姉上!でもなんだか脱がしたくもががが」
「よくお似合いですよ、我々の目に狂いは無かったようだ☆」
「ふふ、本当にありがとね!」


そう言いながら二人の間に入り込む形でそれぞれに抱きつく。
更に腕を引っ張れば近付く二人の頬。
そして部屋に小さなリップ音が二つ響いた。


「「!?」」
「メフィストもアマイモンも、大好きよ!」
「…光栄です」
「姉上、次は口がいいです」
「そのうちね!」
「いやいや駄目ですからね!?」




ー ー ー ー ー ー ー
深みに嵌りすぎて、溺れた事にさえ気付けない。

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