ΑΜ 07:00

色とりどりの食器に、色とりどりの食事。
カップからは紅茶のいい香りが湯気と共にふわり立ち上る。

食器もカップも三人分用意されているようだが、食卓には影が一つだけ。

その手は動かず、何かを待っている様に見える。


「………遅い!」


腹の前で組んでいた手を解き、机に押し付け立ち上がる。
と、同時に踵を返して部屋を出た。
その眉根にはしっかりと皺が刻まれており、その人の感情をありありと表している。


「全く、朝食は7時だとあれだけ言っておいたのに…! 大体あの二人は時間にルーズすぎるんです、部屋も食事も準備させておいてその上この私を目覚ましに使うとはいい度胸ですよ!」


珍しくブチブチと文句を垂れながら目的の部屋に至る。
しかしそこは自称紳士、怒りに任せていきなり扉を開け放つ事はしない。

―――コンコン、



「…姉上、入りますよ」

忠告から更に一呼吸置いてゆっくり扉を開ける。
そこには大きなベッドがあり、中央辺りに膨らみが確認できる。
一歩一歩近付き、その詳しい状況を目の当たりにしてメフィストは卒倒しそうになった。


「なっ、ん…!!」


そこには、下着姿で丸くなっているなまえが。
タオルケットを申し訳程度にかぶってはいる。
かぶってはいるが、隠すという目的において全く意味を成してはいなかった。


「っ目眩がしてきました…」


一瞬顔を赤く茹で上がらせたが、すぐに怒りからかワナワナと震え始める。
なまえの格好も大いに問題だが、一番の問題はその横にあった。



「(何故アマイモンが此処で寝てるんです…!!)」



ちゃんと個別に部屋を与えたはずだった。
物質界に長期滞在するのであれば、流石に自分の空間が必要だろうとわざわざ気を利かせたのだから、思い違いのはずがなかった。
だが実際にはそんな気遣いを蹴散らすかの様に、二人は寄り添って眠りに就いていた。

せめてもの救いはアマイモンがちゃんと服を着ている事である。
もしどちらも下着姿だったら要らぬ勘ぐりをしただろう。


「(…………本当に何もしてないだろうな…)」


確かめようにも当事者は未だに夢の中。
すやすやと眠る姿を見てしまい、起こすのに若干の抵抗が芽生えたが仕方ない。
いい加減起きて貰わなければ折角の朝食が冷めてしまう。


「…姉上、いい加減起きて下さ――ッ!?」
「…………んん、」


軽く揺さぶればそれに合わせて揺れる胸。
それに思わず視線が固定され手を離す。
すると揺さぶられた事が気に障ったのか、ゴロンと体ごと此方に寝返りを打つ。と。


「………めひすと…?」
「!」


なまえがゆるゆると瞼を持ち上げ僅かに視線がかち合う。
何故かたじろぎそうになるのを抑えつけ、文句と非難の言葉を投げつけようと口を開ける。
が、言葉は強制的に封じられてしまった。
なまえの手…もとい、胸によって。


「!?!!?」
「(…しぃー…アマイモンが、起きちゃう)」


メフィストが我に返った時にはベッドに倒れ込み、なまえに頭ごと抱きかかえられていた。
寝起きでそんな素早い動きが出来るのか、とか、起きればいいじゃないか、とかいった冷静な考えは浮かばず、ひたすらなけなしの理性を働かせるのに必死だった。


「(ッ貴女まだ寝ぼけてるでしょう…!)」


何とか手を払いのけなまえの顔を見ると、先程よりずっと意識のある目で此方を見つめていた。
てっきり夢と現実の区別がついていないのだと思っていたため呆気にとられていると、細い指がメフィストの頬を捕らえた。


「(…貴方、ろくに寝てないでしょう)」
「(っ何の、話です)」


ぐいっと顔を引き寄せられ鼻と鼻が触れそうになる。


「(最後に会った時より、隈が濃くなってるもの)」
「(………)」
「(虚無界じゃないんだから…あんまり無茶はダメよ、)」


再びメフィストの頭を抱え込み、ぽん、ぽん、とゆったりとしたリズムで撫でる。

メフィストとしてはこんな事してる場合じゃないし、アマイモンが先程から起きている気配がするし、無茶するななんて今更だ、とか言いたい事が沢山浮かんでくるのに。
不思議な心地良さに瞼が急激に重くなり、そして。









「……………」
「……兄上、寝ました?」
「……多分」


そっと腕を緩めて顔を覗き見ると瞼はしっかりと閉じられ、規則正しい呼吸が聞こえるのみ。
その様子に満足しもう一度撫で、唇を一つ落とす。


「あっズルいです」
「ふふ、後でね」


離れていたアマイモンが背中にくっつき、背中とお腹に程良い温もりを感じる。


「メフィストは頑張り屋さんだからなぁ……
さ、私達ももう一眠りしましょ」
「…絶対ですよ」
「?」
「…おでこにキス」
「! ぷっくく、判ってるよ」


両手が塞がっているため後ろにいるアマイモンに頭を摺り寄せる。


「…おやすみ、」
「…おやすみなさい」






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たまには朝食抜きもいいんじゃない?

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