「……私は阿呆か」


がっくりと肩を落としながら歩くなまえ。
手に持つ袋は外気温との差により露が付着している。
中に入っていたアイスはとうに溶けているだろう。


「…食堂の場所なんて知らないじゃないの、あーあ」


恨めしげに柔らかアイスを睨んでみるも、時すでに遅し。
そもそも一人で走り出したのは自分であるため八つ当たりも出来ない。
一応怪しまれないよう学生服にチェンジしたが、一向に食堂は見つかりそうになかった。


「…時計塔、あの子いるかなぁ…でも此処から遠いしなぁ…」

「あ?」

「え?」



…………………。



「「ああああっ!!」」


廊下のド真ん中、互いに互いを指差しながら叫ぶ。
そこにはたった今思い描いていた人物がいた。


「時計塔の子!」
「お前迷子の!」


何という幸運。
物質界には噂をすれば陰という諺があると聞いたが、まさにそれだった。


「ねえキミ!頼みがあるんだけど!!」
「ぅお!?何だよ、まさかまた迷ったのか?」
「迷ってない、道を知らないだけ」
「いやそれ迷ってるんじゃねえの?」
「いいから、食堂って何処?お菓子作りたいの」


袋を目の前に差し出しとりあえずの状況説明をする。
怪訝な顔をしていた少年だが、お菓子作りという言葉に興味を示した。


「お、何だお菓子作んの?何作るんだ?」
「いやまだ決めてないよ、とりあえず融通の利く材料を適当に買ってあるの」
「ふーん…いいぜ連れてってやるよ、その代わりに俺も横で作っていいか?」
「え、キミお菓子作るんだ?」
「おぅ、これでも料理は得意なんだぜ?」
「へぇ!人は見かけによらないってホントなのね、いいよ横で作ってくれても」
「よし、じゃあ行こうぜ! ……えーと…そういや名前、なんてーの?」
「ああ、そういえば言ってなかったね。なまえよ、キミなら好きに呼んでくれて構わないわ」
「なまえだな、俺は奥村燐」
「燐ね、じゃあ早く行こ!」





「…………これは一体何事だ」
「何だか前にも会った様な会話でしたね」


こそこそ、廊下のオブジェの影に隠れる者が二人。
如何せん体が大きい上に、服のボリュームも相成って幾らかはみ出ているが。


「道なんて知らないと思って追いかけてみれば…」
「ていうかアイツ、姉上の事呼び捨てにしましたよ?殺してもいいですか?」
「駄目だ」
「じゃあせめて半殺しに」
「…後日なら許可しよう」


物騒な会話がされているとも知らず、楽しそうに遠ざかるなまえと燐。
何処でどう知り合って、かつ同胞以外には気を許さないなまえが笑顔で接し、更には名前を呼び捨てにされる事を認めるなど。
何故そんな事態になっているのか分からず眉間の皺を深くするメフィスト。


「まさかアレが末弟と知って…?いやそんな風ではなかったしな…」
「…兄上、いつまで此処にいるんですか?見えなくなっちゃいますけど」
「あ、あぁそうだな…とりあえず追うが、アレに我々が姉上と関係があると分かられても面倒だし、姉上にアレが弟と気付かれても面倒だ」
「…見つかるなって事ですね」
「その通りだ…行くぞ」


マントが揺れた次の瞬間に、そこから人影は消えていた。


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ちょっと長くなりそうなので分割。

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