ガサガサ、
なまえの手には大きく膨らんだ買い物袋。
その左右を護衛の様に固めるのは悪魔兄弟。
今日は最寄りのスーパーへ徒歩で買い物に来ていた。


「いっぱい買いましたね、姉上」
「うん、買い出しなんて久し振りだから張り切っちゃった!」
「しかし…何でまた急にお菓子作りを?」


スーパーの自動ドアが開き、むっとした空気が肌に触れる。
だがしかしそこは悪魔の特性なのか、平然とした顔で汗一つ流さず歩く三人。


「アマイモンが久し振りに私のお菓子食べたいって言うから」
「こないだの紅茶を飲んだら、お菓子も食べたくなっちゃいました」
「わざわざ買いに来なくとも、食堂に材料があるというのに」
「物質界で買い物なんて久々だもの、どんな物が売られてるのか見たいじゃない?」
「まぁ…気持ちは分かりますが」


この辺りは学園の傍であるため、うっかり祓魔師に出くわすリスクを考えると、悪魔三人揃ってお買い物は避けるべきだった。
ましてメフィストの姉であるとバレようものなら、どんな事態になるか。
買い物前にもそれを諭したが、再度これっきりにするよう念を押そうとする。


「姉上、」
「やっぱり物質界の食材は美味しそうだね!」
「……そうですね」


ニコニコしながら袋を覗き込む姿を見て、何も言えない代わりに溜め息を一つ。


「……持ちますよ、荷物」
「あらほんと?ありがとー、流石は自称紳士!」
「自称は余計です」
「紳士(笑)?」
「何で笑うんです!」
「ふふふ嘘嘘!メフィストはそういう小さい所に気付いてくれるよね、良い子良い子」


どうにも小馬鹿にされた感が否めないが、一応褒められている様なので良しとするメフィスト。
しかしそれを良しと思えず唇を尖らせる者が一人。


「…姉上、ボクも荷物持ちます」
「え?荷物はこれだけだからもう無いよ?」
「……そうですか」


自分も褒めて貰いたい思いで兄の真似事をしてみるが、既になまえの手は自由になっていた。
ショボンと残念がる様子に姉はどうしたものか思案し、兄はニヤリとほくそ笑んでいた。


「あっそうだアマイモン、メフィストの荷物より大分重いけど…持ってくれる?」
「! ハイ、なんですか?」
「?」


もうなまえの手には何も無いはずなのに、一体何を持たせるつもりなのか。
なまえは自分を指差した。


「私を抱っこして☆」
「はぁ!?」
「もう足が疲れちゃった、お菓子づくりのために体力温存したいの」
「嘘仰い!近いから歩くと言ったのは貴女でしょう!」
「駄目?」


首をワザとらしく傾けると、アマイモンは大きく首を横に振る。


「問題ないです」
「問題あります!!そんな事したら目立つでしょうが!」
「アンタ一回鏡で自分の姿見てみなさい」
「ぐっ…」
「では早速、」
「うんお願――…ってアマイモン!?」
「何ですか?」


しゃがみ込んだと思いきや、膝裏と肩に手を添えて姫抱きにされる。
近い、顔が近い。


「や、流石にお姫様抱っこは恥ずかしいから…!」
「ボクは平気ですが…この方が姉上に近いし」


ぐっと顔を近付け、超至近距離で視線が絡む。
顔が熱く感じるのは強すぎる日差しのせいだと思いたい。


「「アマイモン!」」
「…じゃあ、こう」


なまえを一旦降ろし、右腕に座らせ持ち上げる。
一気に視界が開け遠くまで見渡せるようになった。
あのでかいメフィストが自分を見上げている。


「そうそう、こうやって欲しかったのよ!」
「姉上、これでボクも紳士ですか?」
「紳士とは違うような…でも楽しいよ!ありがとねアマイモン」


頭を撫でてやると僅かに口角が上がっており、満足した様子。
今はアマイモンの腕に座っているため容易に頭に手が届く。
そんな二人の様子を今度はメフィストが不満げに見ていた。


「あっでももっと楽しい事思い付いちゃった!」
「何ですか?」
「(…嫌な予感しかしないな)」


なまえはニッコリと笑いながら学園を指差す。


「どっちが早く着くか競争! それで勝った方にご褒美をプレゼント☆」
「ご褒美、ですか?」
「この袋に入ってる、よく分からない人形ならいりませんよ」
「それは虚無界のお土産だからあげませんー、私からのキッスとかどう?」


なんちゃって、と言おうと弟達を見ると目を見開き固まっていた。


「な、何よ、そんなに嫌がらなくたって…!」
「「本当ですね?」」
「えっ?」


固まったと思いきや、こちらを見向きもせず学園に視線を固定している。
何だか二人の魔力が高まってきているような…?


「悪いなアマイモン、久し振りに本気を出すぞ」
「臨むところですよ」
「え、ご褒美ほんとにそれでいいの?」
「むしろ変更は認めませんよ」
「姉上、しっかり掴まっていて下さいね」
「え、え、」





じゃり、と踏み込む音がした次の瞬間に、そこから人影は消え失せていた。
気がつけば既に学園ゲートの中。


「えっ」
「さぁ姉上、私の方が速かったですよね?」
「何を言ってるんです、ボクの方が半歩速かったですよね?」
「えっ!?」


まさかそんなに本気を出されるとは思わず、振り落とされまいと目をつぶっていたため勝敗の行方など知る由もなく。


「…ごめん、見てなかった」
「問題ありません、私の方が確実に速かったんですから」
「違いますよ、姉上はボクを信じてくれますよね?」
「(面倒臭い事になった…!)」


妙に迫力のある顔で迫られ言葉が詰まる。
どちらかを選べばもう一方の機嫌を損ねるのは必至である。


「…よし分かった、ここは公平に同着って事で!」
「じゃあキスはどうなるんですか?」
「ちゃんと二人ともするよ、ほら横向いて」
「…ほっぺはこの間してもらったので、今度は口がいいです」
「へっ!?」
「…姉上、分かってるでしょうがその場合私にも同条件でお願いしますね☆」
「うっ」


二人の期待に満ちた視線が突き刺さる。
そんな顔をすれば折れると思っているのか、と言いたい所だが折れる確率の方が高いのは事実だった。


「…はぁ、分かったから一回降ろしてもらっていい?」
「分かりました」
「(何も照れる事なんてないわ、頬も口も同じ皮膚よ皮膚!)」


少し屈んでもらい、肩に手を乗せて背伸びする。
姫抱きされた時より顔が近い。


「(でも頬とか頭ならともかく、口にってモラル的にどうなの?悪魔だしモラルなんて気にしなくていいんだろうけどやっぱり弟だし、これが黒歴史になったりしたら可哀想だし、ギリギリ口の端っこにでも…)」
「(……焦れったい)」



ちゅ、



「っ、アマイモン!?」
「すみません、我慢できませんでした」
「くっ黒歴史になっても知らないからね!」
「何の話です?」


いざギリギリの場所を狙って口付けようとした時、それを知ってか知らずか唇ド真ん中に先手を打たれた。


「柔らかかったです」
「感想はいらないよ!!」
「では、次は私の番ですね?」


待ってましたと両手を広げ、一歩歩み寄る。
その時、手に持っていた袋がガサリと鳴ってその袋の存在を思い出すと同時に、ある事も思い出した。


「――っあ!しまった!」


急いで袋を奪い返しある物に触れると、ふにゃりとした柔らかい感触。


「やだアイスの事すっかり忘れてた…!食堂借りるからね!」
「え!?ちょっと姉上!?」
「お菓子出来たら持ってくから部屋で待っててー!」


なまえは猛ダッシュで遠ざかり、あっという間に見えなくなった。
ポツンと取り残されるメフィストにアマイモン。



「…甘かったですよ」
「……感想はいらない」






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昔からオイシイとこ取りが得意なアマイモン。

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