Box

*いただきます。(李典と楽進)

二人とも高校生パロ。
\ピザ/ \カッター/










 ピザを配送ではなく店まで取りにきた場合、一枚の値段で二枚さしあげます。そう書かれたダイレクトメールを、隣の部屋に住んでいる楽進が俺に見せてきた。強制下校時間ぎりぎりまで部活で走り回り、自主練と称して夜遅くまでまで走っている筈の彼が、まだ日の落ちきらない時間に部屋を訪れた事に驚きが隠せない。どうしたのあんた、体調でも悪いのか? と心配してやろうかと思ったのだが、見せられた紙切れにより杞憂であった事を知らされる。彼は体調が悪い訳でなく、ただ彼は俺と二人で安価にピザを食べたい為だけに部屋を訪れてくれたのである。
「すみません、私のわがままのために……」
「構わないって。俺もまだ、夕食の用意してないしな」
 楽進はお邪魔します、と小さく言ってから、キレイに靴を整え、少し申し訳なさそうに下を向きながら部屋に入ってくる。はきはき、と先輩と話している部活の姿とは大違いである。別に構わないのに、と俺は思っているのだけど、彼は自分を卑下しやすいきらいがあるのであった。まるで小動物が怯えているよう、と言ったら可愛らしいかもしれないが(同性に使うのに正しい表現かどうか、俺には判断しかねる)彼が俺に苦手意識を持たれているのだと思うと、少しばかり寂しかった。が、所詮部屋がお隣で、教室で時たま話すだけの仲である。彼が親しみを覚えてくれているわけがないのである。
「李典殿はなにがいいですか?」
「特に好き嫌いないし、楽進が好きなもんでいいって」
 楽進はフルカラー印刷のチラシを、あれも、これも。と、ぺらぺら、裏表を何度も見て悩んでいる。
「……なぁ、楽進。このよっつ味が乗っているやつとかで、いいんじゃないか」
「それは、名案ですね李典殿。今から電話をかけてきます」
 部屋に携帯を忘れてしまいました。と、そさくさ帰ろうとする楽進の腕を掴んで引き止める。そんな話す訳じゃないし、俺の携帯でいいよ。そう言えば、はい、と素直に彼は床に座り直した。ラックの上に置いてあったスマホをとって、彼に差し出せば「恐縮です」だ、なんて、謝りながら電話をし始める。癖なのだろう、小さくお辞儀をしながら電話する素振りは、律儀な彼の性格を示しているようだった。

 ピザが出来上がるまで三十分かかるという。寮から駅前の店まで、歩いたらちょうどいい時間になりそうですね。という楽進の意見に、それはいいな、と部屋着の上から厚手のジャケットを羽織り外に出る。びゅうびゅう、と吹き荒れる風に、もう三月なのに、と悪態をつきたくなる。
「けっこう寒いな……」
「私のマフラーで良ければ、お貸します」
 頬に手をあてて暖をとろうとしていた俺に、楽進は自分の首に巻いていたマフラーを外して渡してくれようとする。彼からマフラーを取り上げてしまっては、ブレザー一枚になってしまう。その手をやんわりととめて、マフラーを巻き直してやれば、彼は戸惑ったような顔をする。前を開けていたジャケットのボタンを閉めて、「こうすれば寒くないしな」と言ってやれば、彼は安堵したような表情を浮かべてくれた。
「それに、楽進だって俺にマフラーをあげたら寒いだろ?」
「私は寒いのに慣れてますから、大丈夫です」
「そんな事言って、鼻がちょっと赤くなってるぜ。楽進」
 はっ、としたように鼻を抑える楽進に、俺はけらけら笑ってやる。教室で部活での疲れで眠そうな顔をしている彼とも、真剣にトラックを走っているのとも違う顔が、とても新鮮であった。

 結果から言えばピザを買う事が出来た。一枚分の値段で買えたMサイズのピザ二枚を楽進が持って、ふたりで寮へ向けて来た道を帰り、部屋に着いたまでは良かった。が、なにも保温の対策をしなかった為、ピザは生ぬるい温度まで冷めてしまっている。これでは美味しくない、と俺の部屋の電子レンジに突っ込んで、「あたため」のボタンを押した。マイクロ波だかなんだか、高校生の俺たちには難しい理論によって温めている間に、電気ケトルでお湯を沸かしてコーンクリームのカップスープを作る。ちゃぶ台のような小さなテーブルにピザとスープを置いて、簡易的な夕食とすることになった。
「いただきます」
 そのまま食べはじめようとした俺とは違い、きちんと指を合わせ始めた楽進を見て、俺も急いで指を合わす。根から生真面目そうな男の事である、小さい時からの習慣なのであろう。
「……切れていませんね」
「ちょっと待っていて、俺が今、切るからさ」
 予定時刻より少し早く着いて店頭で待っていた俺たちに急かされ、急いで作ったのか、ピザはどちらとも切れ目が入っていなかった。なぜか一人用の貧相な食器棚の奥底に眠っていたピザカッターを手に取り、Mサイズのピザを八等分するように刃を入れる。さくさく、とクリスピー生地が音をたてながら割れ、ピザから刃を抜こうとすれば、チーズが生地との間を離すまいと伸びる。ピザカッターの持ち手をくるりと回す事で、チーズをなるべくピザ生地の上に残るようにすれば、楽進はその一連の動作をじぃ、と見つめていた。そんな見ても面白くないだろうに、と俺は思うのだが、どうやら彼には違ったようであった。
「李典殿は器用なんですね……羨ましいです」
 切られたピザを美味しそうに頬張りながら、彼は言う。まくまく、とちょっとばかり頬を膨らまして食べる姿はまるでリスのようである。はじめてふたりきりでご飯を食べているかもしれないなぁ、と即席のスープを飲みながら俺は思う。お隣さんとはいえ、クラスメイトとはいえろくな交流なんて数える程しかないのである。

 そんなこんな、思い出に浸りながらゆっくりと食べていたら、いつの間にやら皿は空っぽになっていた。俺がスープを飲みながらゆっくり食べている間に、彼がハイスピードで食べてしまったようである。「恐縮です」と謝る楽進に、俺は「大丈夫だから」と返す。はじめて二人でご飯を食べて、もしかしたらはじめて二人きりで話したかもしれないのに、その会話になぜだか俺は奇妙な既視感を覚えていた。


Twitterでぼそぼそ呟いていた、よく食べる楽進ちゃん。

2013/03/12
msu
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -