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2013ジン生誕祭未遂(ハザ→ジン)

 二月十四日バレンタイン。女性が意中の男性の為にチョコレートを送る日、という何処ではじまったのかわからない習慣によって街中は色めき立っていた。女性は必死に作ったお菓子を、どれだけ可愛らしくラッピングするかに精を出し、男はいつ女性に貰えるかとそわそわして一日を過ごすのである。それは虚空情報統制機構内でも同じで、クリスマスの次に、いやクリスマスと同じ位に衛士が使い物にならない日であった。
 朝一にとどめ色をした物体を障害に押し付けられ、昼食をとっている最中に、手の平に乗るくらい小さなチョコレイトケーキをツバキに貰った。仕事中に食べる訳にはいけないと、ユキアネサの氷で簡易的に作った氷室に入れていたそれを取り出す。ガトーショコラ、といったか。重くずっしりとしたそれは、チョコレイトで綺麗にコーティングされていた。
 一口食べれば、甘さが控えられた上品な味がした。女というものは酷く甘いものが好きだと思っていたのだが、そうでもないらしい。おいしい。どちらかといえば食が細い方であるし、あまり甘いものを食べないのだが、すぐに食べ切ってしまった。下に敷いてあった紙をゴミ箱に捨て、使ったカップを適当に洗って流しに置く。
 本当は残業をするつもりだったのだが、部下に資料を片っ端から取り上げられてしまい仕事も出来ない。図書館にこれ以上居座る必要もないので、今日は早く帰ろう。明かりを消して部屋を後にしようと扉を開けると、ハザマ大尉がなぜか目の前にいた。
「何の用だ、ハザマ大尉」
「いやね、キサラギ少佐が早く帰ると聞いたものですから」
 帰りにお食事なんてどうでしょう。私ね、いいお店を知っているんです。狐目をにんまりと歪めながら、ハザマは言う。この男がどういう訳で、僕が定時にあがる事を知ったのであろうか。誰にも言っていない筈なのに。
「食事ならもう済ませたから、不要だ」
「あの女が作ったチョコレイトケーキですか? あれだけじゃあ、身体に悪いですよ」
「……だからなぜ、貴様が知っている」
 私は諜報部ですから、なんでも知っているんですよ。だなんて言いながら、ハザマはジンの腕を掴む。
「だって今日はキサラギ少佐の誕生日なのでしょう? 誕生日に残業させようだなんて、そうそう思いませんよ」
「誕生日? ……あぁ、僕のか」
「忙しいからって、忘れちゃ駄目ですよ少佐。口に出さないだけで、あなたの事を大事に思ってくれてる人は沢山いるんですから。……だから私も、いまから少佐の誕生日を祝う為に夕食に誘ったんです。そうそう、あなたのお兄さんを偶然見つけたので、一応声をかけておきました。来てくれてると、いいですね」
「兄さんだと!? おい、ハザマ大尉、はやく僕を連れて行け!」
「おやおや、仕方のないお方ですねぇ」
 私にもその位の興味を持ってくれればいいのに、という言葉がジンには届く事はなかった。

2013/02/14
BB
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