Box

**バサ雁かもしれない転生パロ(F/Z)

ランスロット→サラリーマン
雁夜→捨て犬♂
ギル+エルキドゥ→動物病院の人


捨て犬を拾いました  

メソポタミア動物病院にようこそ!










捨て犬を拾いました

 ばたばた、と雨粒が傘を叩く音にまじって、きゃうん、と小さな声がした気がした。こんな大雨の中歩き回る犬がいるものだろうか? と不思議に思いながら辺りを見回せば、道の端に開いた傘が落ちていた。開いたままの傘を置いていくなんてまず有り得ない。近付いてみれば、やはりその中からか細い声が聞こえてくる。見なかったふりをして帰ろうかとも思ったが、酷く悲しそうに傘の中から鳴かれてしまっては何もせずにマンションに帰る事なんて出来なかった。自分の部屋はペット可であったし、誰か貰い手が決まるまでなら飼ってやろう。そう思い、乗せられていた傘をとってやった。
「……!」
 申し訳程度に入っている毛布にくるまっていたのは、みすぼらしい子犬だった。毛並みはぼろぼろで、背骨の隆起がはっきりわかるほど痩せほそった身体はぶるぶると震えていた。そんな子犬を放っておける訳などなくて、(弱きを助けるのが騎士の役目である)毛布ごと抱きかかえてやる。子犬は威嚇するようにこちらを睨んできたが、もう動く気力すらないのか暴れはしなかった。
「大丈夫ですか? ご飯くらいは出してあげます」
 もう夜は遅く、近くのペットショップは一つも開いていない。温めた牛乳くらいしか出してやれないが、こんな冷たい場所で一晩過ごすよりかはましだろう。もう少しの辛抱ですよ、と声を掛けてやる。軽いその身体が、なんだか懐かしいのはなぜだろうか。



『犬に牛乳を与えてはいけません。ヤギの乳を与えてください』
 え、それはどういう事ですか。知恵袋に書いてあるベストアンサーに目を疑った。匂いが独特なヤギの乳など家に常備してある訳がないし、もう台所のミルクパンの中ではぐらぐらと牛乳が温まっている。犬の乳とヤギの乳の成分が近いとか知ったことじゃない、ドッグフードだって無いし私はなにを与えてやればいいというのだろうか。悶々と子犬の膝の上に乗せながら、パソコンの前で思案する。お湯を固く絞った濡れタオルでふいてやった子犬は疲れたのか、すやすやと眠っている。
 仕方ないので『犬 手作りご飯』と、グーグル先生に調べさせれば、ずらずらとレシピが出てきた。コンビニ弁当で命を繋いでいる人よりいいものを食べてるのじゃないのか、という位に美味しそうなレシピが広がっていた。
 こ、れ、だ。
 これしかないと、子犬用というジャンルに括られているメニューに片っ端から目を通していけば、『犬用のおじや』なるものの作り方が掲載してあった。ご飯と白菜と豆腐。とりあえず三つを沸騰したお湯にいれてどろどろに溶かし、それを一肌まで冷やしたら完成らしい。この位なら十分もあればつくれるだろうと、子犬が寒くないように毛布にくるんでやってからもう一度台所へ舞い戻る。煮え立っているミルクパンを隅っこへ押しやって、水を張った鍋を火にかける。冷凍庫で眠っていた冷凍ご飯を電子レンジに入れ、白菜と豆腐を食べやすいように刻んでやる。
 これなら弱った子犬でも食べられるだろう。食べて元気になってくれればいいのだが、と使った包丁とまな板を洗いながら思った。

「ほら、たべてください」
 人間の目から見るとおじやというか、申し訳程度に具の混じったような重湯のようなそれを子犬の鼻先に差し出してやる。その匂いに気付いたのかぱちり、と目を開けた子犬は私と皿を交互に眺めている。
「あなたのです、食べていいんですよ?」
 そう言っても子犬は口をつけようとはしなかった。どうやら信用されていないらしい。人間は怖いもの、そうこの子犬は思っているようだった。垂れた左耳とは正反対に鋏のようなもので切られ、不自然にピンと立ち上がった右耳。毛も所々はげてない所があるし、濁った色をした右目は見えていなそうだ。犬に詳しくない自分でもよく分かる位に、痛々しい虐待の跡である。
「……危害を与えるつもりなんてありませんから、どうか食べてください」
 皿に入っているおじやを指で掬ってやり、顔に近付けてやる。指から顔を背けられても諦めずに待っていれば、根負けしたのかぺろり、と一口舐めてくれた。
「美味しいですか?」
 ふんふん、と鼻を鳴らしながら食べている様子から見るとお気に召したようで、指についていたおじやをすべての舐めとった後もべろべろと舐めてくる。
「そんなにがっつがずとも、まだありますよ」
 口回りがべたべたになるのが気にならないのか不思議になる位、皿に顔を突っ込んで食べてはじめた。よっぽどお腹が空いていたようだ。
「……あ、名前をつけてあげなければなりませんね」
 お腹が一杯になったからまた眠気が襲ってきたのだろう、ごはんで汚れた顔を濡れタオルで脱ぐってあげている最中に眠ってしまった。一食恵んでやっただけで、こんなに懐くなんてなんて危機感のない子犬なのだろうか。丸まって眠る姿が可愛らしくて、ずっと撫でていたい位だ。
「名前……そうだ。カリヤ、なんていかがでしょう」
 子犬、改めてカリヤはすん、と嬉しそうに鼻を鳴らしてくれた。












メソポタミア動物病院にようこそ!

 メソポタミア動物病院。絢爛豪華、という言葉が掠れて見える位に黄金色をした建物である。柱という柱には蛇の飾りが絡まり、入り口にはライオンの像が鎮座している動物病院なんて世界広しといえど、ここ位だろう。
「安心しろ、見た目はあれだが腕は確かだ」 なんて、上司に言われてきたものの、こればっかりはいただけない。別の病院を探そう、と心に決め後ろを振り返った途端、一人の男とばちりと目があった。
「我の病院に用があったのではないのか、雑種」
 小麦の浦のような色をした髪にルビーを固めたような赤い目、ぎらぎらと悪趣味な程に飾られた金色の装飾。一度見たら、決して忘れようのない姿をした男である。我の、という事は彼がメソポタミア動物病院の医者なのだろう、病院の装飾が金ぴかで悪趣味になるのも理解出来た気がする。
 きゃん、と男の腕に抱かれている茶と黒の混ざった毛並みをした子犬が小さく吼える。私に対して威嚇をしているのだろうか、そりゃあ自分の家の前に無言でつっ立っている男なんて不自然ですよね。なんて、ヒトゴトのように思った。
「この病院をアルトリアさんに勧められまして。……カリヤ? どうしました?」
 子犬の鳴き声で目を覚ましたらしいカリヤが私の腕から身を乗り出して 、金髪の男に向かってぎゃんぎゃんと吠えはじめたのだ。捨てられる前にこの男となんらかの関係があったのだろうか、カリヤの顔を覗けば目が完全に怒っている。
「我の嫁がか」
 きゃんきゃん鳴くカリヤなど眼中にないのか、男はただ。嫁? 大型犬に囲まれて独り暮らしをしてる、と聞いていたのだが。突っ込んだら負けなのだろうなぁ、と傲岸不遜な態度をした男を遠い目で見る。こんなよくわからない奴に嫁呼ばわりされるなんて、アルトリアさんもなんとも不敏で仕方なかった。
「エルキドゥの腕は我が保証する。素晴らしい治療に泣くとよい、雑種」
別の病院に行こうと思ったのに、オーナーに捕まってしまっては帰りようがなかった。というか雑種て、なんだ雑種って。



「ごめんね、ギルガメッシュはあぁしか喋れないんだ」
 通された診察室には、緑色の髪の毛を腰の辺りまで伸ばし、金色の瞳をした人がにこにこと笑いながら迎え入れてくれた。身体の線は酷く細く、男性らしい骨格でもなければ、女性らしい胸の膨らみも見られない。なんとも中性的なその人は、困ったように笑う。声も変声期の終えてない青年のようにも、少しばかり男勝りな少女のようにもとれる声である。
「大丈夫です、気にしないでください」
「ありがとう、そう言ってくれると嬉しいよ。……ランスロットさん、とカリヤくんだね」
 うー、っと診察台の上で唸っているカリヤを、エルキドゥさん宥めるように撫でていた。暫くそれを繰り返していれば、エルキドゥさんに慣れたのかカリヤは気持ち良さそうに目を細めている。
「この子は拾ったんだっけ?」
「えぇ、昨日捨てられているのを見掛けて。弱っているみたいなので、一応病院に連れてきました」
「膿んでる傷はないから感染の問題はないだろうし、カリヤくんは血統付きのいい犬だと思うよ」
 エルキドゥさんは診察台の隣にあった棚から取り出した本を、私に見せてきた。『ミニチュアシュナウザー』髭が特徴的な犬種だったか、あと毛が抜けにくくて飼いやすいというのも聞いた事がある。
「この子はね、多分ショー用の犬になる予定だったんだと思う。所々毛が薄いのは、ストリッピングによるものだね。わざと毛根を痛め付ける事で毛色が退色しないようにするんだ」
 どう行うかは知らないけれど、雑誌にでかでかと載っているストリッピングをしたばかりの写真を見るだけでい痛々しかった。一部だけきれいに毛がないままの犬の姿は、虐待を受けたようにしか思えない。
「耳が切られてるのも断耳によるものだろう、なんで片耳だけかはわからないけども」
 次のページには切られたことで、ぴんと耳をたたせている子犬が写っている。凛々しく見える、と本は煽っているけれど、こんなの狂っているとしか思えなかった。ショーに出る事がどんなに素晴らしいかは知らないが、だからといって愛犬にここまでするものだろうか。
「……酷い」
「でも、これが現実なんだ。尻尾に至っては原則赤ん坊の時に切られてしまうし……可哀想だと思うなら、この子を大事にしてあげてね」
 栄養剤だけ出しておくね、とエルキドゥさんはカリヤを撫でてながら曖昧に笑った。



「お世話になりました、ギルガメッシュさん」
 私が名前を知っているのが不思議だといったように訝しげな目をした直後に、なにを考えたのか、ど、や、ぁ、と満足げな笑みを浮かべてきた。なにこれこわい。
「なんで我の名前を知ってるのだ。もしや我の嫁が……」
「さっきエルキドゥさんに謝られたので」
「なんだ、エルキドゥの所為か」
 いつの間にやら受付に座っていたギルガメッシュさんは悪態をつきながら、領収書とおつりと栄養剤を出してくれた。初対面の印象は最悪だったが、案外悪い人ではないのかもしれない。



2012/02/20
etc
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -