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*こえでない(伊達主従)

「……Ah、なにしやがる小十郎」
 朝になり、起きてこない自分を心配してからか(寧ろ日々の習慣になりつつある)起こしに来てくれた小十郎の様子がなんだか可笑しかった。いつもは「起きてください」やらなんやら言うのに、今日は無言で無造作に肩を揺すってきたのだ。
 軽口を言いながら相手の顔を見上げれば、目もなんだか機嫌が悪そうで先ほどの発言が失態であったと思う。
 もしかして我が儘な自分に愛想をつかれてしまったのではと考えるだけで、いてもたってもいられなくなって、気付いた時には布団の上に土下座していた。
「sorry、俺が悪かった小十郎! この通りだ……な?」
 頭を膝につくくらい深々と下げれば小十郎は焦ったように俺の肩を持って顔をあげさせた。
 無 口 で だ 。
「や、やっぱり怒ってるんだろ小十郎!? 俺に言いたい事があったらspeedyに言ってくれよ!」
 肩を掴んでがくがく揺すれば、小十郎は溜め息をついてから口を開いてぱくぱくとパントマイムのように動かした。
「wait! 小十郎もしかして……声が出ないのか?」
 小十郎は目を彷徨わせてから、目を伏せ目がちにしつつ頷いた。
「待ってろ、今から俺が救急車呼んでやるdarling!」
 枕元にいつも置いてある携帯電話に手を伸ばせば、それを防ぐように小十郎も手を伸ばして、結局119に掛ける事が出来なかった。
「小十郎! 俺はお前を思ってだな……!」
 携帯に手を伸ばしても俺よりも背も座高も高く、腕が長い小十郎に届くわけもなくて無言で(仕方ないのだが)専ら電話にしか使わないからか、至極拙くゆっくりと携帯を弄ってる彼を怨めしげな目で見れば、小十郎は溜息をついて携帯の画面を見せてくれた。
 ━━こじゅうろう め は だいじょうぶ なので きにしないでください
 野菜を作ったりと農業を副業とする一方で、(本職は俺、専属執事兼恋人)機械はてんで駄目なようで平仮名だらけの読みにくい画面を見せてくれた。
 というかメール入力をする時の候補選択に「こ」を入れた途端に小十郎と出る筈なのだが、それさえ使えないといった徹底ぶりである。
「……仕方ねぇな、darling。今日は俺が家事をしてやる」
 そう言えば安堵したかのような顔をしていた小十郎が、異常なまでに狼狽をして首を振っていた。
 いつもしないだけで俺も家事位は出来る、と続けるつもりだったのだが、その様子に何も言えなくなった。

2011/01/26
BSR
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