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*海へ行く(all?)

現パロ










 かんかんと光る太陽に、透き通るような青空。青空には、綿飴のように柔らかそうな雲が少し浮いていている。という、最高の天気の元で海水浴に行く事になった。最初は五人も居なかった筈が、いつの間にやら倍まで膨らみ、これじゃワンボックスカーでも乗れやしないとマイクロバスを拝借をする事にした。バスの持ち主は父親で、運転するのは俺の部下の小十郎、俺にしてみれば相変わらずの光景である。
「もう少しですから」
 小十郎に指で示されたカーナビには、あと一〇キロといった表示がされていた。テレビを見ようと手を伸ばせば、「気が散るので」とやんわりと拒否された。そりゃ初めて行く場所だけれど、お前なら大丈夫だろ。と言おうかと思ったが、目が真剣なものだから黙るしかなかった。
「右目の旦那ー。旦那が、まだかって煩いんだけど」
「い、言うな佐助! 片倉殿は運転なされているのだから、迷惑をかけたら悪いでござる」
「煩い奴らよ」
「そう言いつつ来てるじゃね……おい、腕はそっちに曲がらねぇよ!」
「黙れ」
 助手席に座っているから見えはしないが、二列目は大層楽しくやっているようである。
 でも、やっぱり他の奴らはどうしているのだろう、と気になって後ろを振り返れば、三列目で二人分の席をつかって座っている豊臣と、補助席に座りながら(補助席にいる所為で目があった)喜々とした表情で豊臣に話し掛ける竹中がまず目に入った。そして四列目は遠くて、石田と大谷が座っている事しか見えない。けれど皆楽しそうに談笑していてくれてなによりである。
「……寄ってくるな…っ!」
「やれ、全くどうしようもない…」
 と思った矢先に叫ぶ声が聞こえたものだから、どうしたのかと元親に問えば「どうやら明智が乗っているらしい」と言葉を濁した。
「織田達も海に行っているらしいのが、置いてかれたらしくてな。だから、この車に乗って追いつこうとしているらしいぞ」
 そう言いつつ毛利も元親も助けるつもりはないらしく、幸村達に至っては気付いてさえいないようである。
 止めてやらないと。と席を立とうとすれば、隣から手が伸びてきて腕を捕まれた。
「後ろを向かれるのも困りますが、立ち歩かれるのは、もっと困るので」
 右手だけでハンドルを操作し、目線もフロントガラスに向けたまま、小十郎に窘められたものだから動けやしなかった。大人しく座り直し、シートベルトを締めれば「それでいいのです」と柔らかな笑みを浮かべられる。
「ok.仕方ねぇな」
 と言ったものの、矢張り後ろが気になってもう一度振り返る。と、そこには明智の髪を引っ張って竹中の隣の席まで連れて行く豊臣と、シートベルトで頑丈に括り付けている竹中がいた。ふふふ、といつも漏らしている不気味な笑い声を封印するためか、口にはガムテープが付けられている。
 そんな明智に目もくれない石田は、キラキラとした眼差し(遠くから目視出来るくらいである)を豊臣に注いでいた。それに気付いたらしい豊臣は、石田の頭を優しく撫でてやっている。それに顔を赤くして喜ぶ姿を見て、初恋の人に誉められたみたいだなぁ、とどうしようもない事を考えてしまう。
「安っぽい恋愛ドラマのようぞ。……全く、恥ずかしい」
「cheapなんて言ってやるなよ、毛利」
「あいつら、本気でやってるんだろうし、ほっといてやるのが正しい選択じゃねぇか?」
 まぁ、まぁと二人で宥めれば毛利はお気に召さなかったのか、そっぽを向いてしまった。
「そういう問題なのか? 我には止めてやらないと将来、道を踏み外しそうでならないのだが」
 的を射た発言をされたものだから、苦笑いをするしかなかった。怨恨の塊のような視線を向ける竹中に、気付かない石田と豊臣、ため息を吐く大谷と、まともな対応をしている者がいないのだ。
「……暗い顔をして、どうかなされたのか?」
「気にするでない」「問題ねぇから、気にすんなよ」
「ほら、大丈夫そうじゃない。旦那が気にする事じゃないって」
 幸村の頭を撫でまわした猿飛は、こちらを向いて「ありがとう」と口だけを動かして伝えてきた。彼は根っから無邪気な奴だから、括られている明智には意義を唱えるだろうし、豊臣達の様子も仲がよい、と一言で終わらせかねないから話をこじらせたくないのだ。
「……しかし某に出来ることがあれば、」「大丈夫って言ってるから大丈夫だよ、旦那。ぐちぐち煩いと旦那の分のお菓子、全部俺様が食べるから」
 納得のいっていない幸村の意識を、豊臣達から遠ざける為か猿飛はお菓子を鞄からちらつかせていた。予想通りごくりと生唾を飲み込む幸村を見て、単純である事がどれだけ楽かを思い知らされた。
「全部を食べては駄目だからな、佐助!」
「わかったから、落ち着いて旦那」
 猿飛の手からお菓子を奪おうとする幸村を見て、微笑ましいと思う。相変わらず仲のよい二人である。

「政宗くん、まだ着かないのかい!」
 助手席でずっと豊臣と、仲良く話していた筈の竹中が叫んできたものだから、びっくりして彼の方を向けば半分涙目になっていた。
「What? どうしたんだ竹中」
「隣に括り付けた明智が、気持ち悪いんだよ。いつの間にか口に張っていた、ガムテープも剥がれているし。一刻も早く視界から遠ざけたいんだ」
「……小十郎。あと、どの位かかるんだ?」
「開いている駐車場を見つけるまで、ですね。まぁ、正直すぐに見つかるとは思えませんし、先に降りても構いませんよ政宗様」
「じゃあ、全員荷物を纏めてくれ! 海の近くで降ろして貰うぜ、you see?」
 皆、思い思いの言葉で同意を示してくれたようで、椅子の下から荷物を引き出したり、膝に置いた鞄の中身を確認しているようだった。
「なぁ、政宗。あとで手伝ってくれねぇか?」
「なんだか知らないが、構わないぜ。俺と元親はclose friendだろ?」
「……そうそう簡単に、承諾しない方が自分の為だと思うぞ。我には関係ない事だが」
 なぁ、姫若子? と毛利は冷ややかな笑みを称えながら言う。それを聞いた元親は顔を少しばかり赤くして、下を向いてしまった。
「そ、それを言うな、毛利!」
「こやつ、貴様に日焼け止めを背中へ塗るよう指示するぞ」
 なんとも女々しい事よ、と元就は鼻で笑っていた。試しに、日焼け止めを必死に塗っている元親と、それに付き合う俺を想像してみたものの。
「sorry,元親。笑うしか出来ねぇ……! 海好きなんだし、いっそfragrantに焼いたらどうだ?」
「アンタ等……銀髪がいかに、小麦色の肌が似合わねぇか知ってるか?」
 三成だって色白だろうが、とごもっともな事を言われてしまう。そういえば、いつきも色白だなぁ、とも。
「……政宗様。ここで降りてください」
 駐車場に入る為だろうか、びっちり並んだ列の最後へマイクロバスを付けた小十郎が、俺の肩を叩いてきた。
「All right! 話は後だ。皆降りるぜ」
 助手席というのは案外、外に降りるのは難しく、皆が降りるまで待っていようと待機していれば皆思い思いの格好で後ろを通っていった。四人分の荷物を担いでいるらしい豊臣と、それを心配そうに様子を伺う石田に竹中、さして気にした風もなく頭からフードを目深に被った大谷。明智は降り際にぎょろりと俺の方を向いて礼を言ってきて。目をキラキラとさせた幸村と、それを宥める猿飛。毛利と元親は相変わらず、いがみ合いながらも一緒降りていった。
「じゃあ、また後でな」
「車を止め次第、そちらに向かいますので」
 行ってらっしゃいませ、と小十郎に手を降られてからバスを降りた。

「こっちに行くらしいですよ秀吉様、半兵衛様」
 果たしてどちらへ行くのだろう、と悩んでいれば石田がスマートフォンを弄りながら、竹中と豊臣に説明をしていた。
「そうか、なら早く行ってしまおう。秀吉、荷物をそんなに持って大丈夫かい?」
「気にする事などないわ、半兵衛よ」
 流石、僕の秀吉だね! と電波な事を竹中は言いつつ、地図を持っている石田を先頭として歩き始めた。置いて行かれては海に辿り着けやしない訳で、鞄を乱雑に肩へ引っ掛けて追い掛ける。
「なんだい、」
「その言葉を丸々返すぜ、竹中! ここまで来れたのは俺と小十郎のおかげだ!」
「車に乗せて貰ったのは嬉しいが、そこまで付き合う義理はないね」
「what!? お前らが居なかったらもっと小柄な車で来れたんだよ!」
「なら、電車で来ていたよ」
 ふん、とそっぽを向かれたものだから、思わず腹が立って首根っこを掴んでやれば、やめてくれないか、と投げやりに言われる。
「……あぁ、言えばこう言う。全くどんなmentalをしてんだ!」
 とたん前を歩いていた石田がぐるりと振り返ったと思えば、ずかずか俺の方へ近付いてきて睨みつけてきた。それは掴んでいる手を離すように威嚇をしているようで、試しに竹中から一歩離れれば石田の目が若干柔らかくなった気がした。
「半兵衛様になんという侮辱! ……そもそも貴様の車に乗せて欲しい、と言ったのは私なのだ」
「どうして車が良かったんだ?」
 問えば石田は視線をずらして、なんでもだ、と苛立ったように呟いていた。そんなに言いにくい事なのだろうか?
「ひひ、三成を責めてくれるな。……全てはわれの為よ」
 包帯まみれの彼を庇うというのは、電車だと大谷は奇異の目で見られるのを防ぐ為だろうか。冷血冷徹と陰で言われている石田だが、尊敬をしている豊臣や竹中以外にも優しく接している事に驚いた。
「言うな刑部……!」
「友情とは素晴らしいでござるな」
「はいはい、旦那は大人しくしていようね」
 なんでだ佐助! と拗ねたように言う幸村の肩をぐい、っと引っ張って黙らせていた。その言葉を聞いた石田は、顔に朱を交じらしてそっぽを向いていてしまい、大谷は俺達を見てからからと笑っている。
「だから、あれほど言うなと……」
「もう過ぎたこと。……して三成、ぬしは道案内をしていたのであろ?」
「すみません秀吉様、半兵衛様! いま案内をしますので」
 十字路で立ち止まっている豊臣と竹中に向かって走って駆け寄る石田を見て、ありゃ犬だなと改めて思った。

 海までは、まだ遙かに遠い。

2011/01/26
BSR
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