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骸と綱吉つめあわせ。(Re!)



*神様さえ信じられない僕にどうして自分を信じられる?
 未来骸+未来綱吉

*涙がどうして流れるのか、今まで僕は理解する事を放棄していた。
 未来骸+未来綱吉

上手く紡げない言葉にキスを。
 未来骸×現代綱吉

**狂った殺人鬼
 未来骸+未来綱吉
 骸さんが精神的にアレ
 綱吉も負けず劣らずアレ

※すべての未来綱吉は捏造です。









*神様さえ信じられない僕にどうして自分を信じられる?

 がっ、しゃん。と音がした。
 久しぶりに音を聴いた所為か耳がつんざくように痛い。それに対して目を開けようとすれば薄暗いながらも明かりがついている所為でその目蓋の上からでも焼かれるような錯覚を覚える。

「 お前はもう自由だ。 」

 静かに荘厳な、それでいて人間味のない声で告げられる。
 僕の身体をまるで羊水のようにくるんでいた暖かみはだんだんと剥がれていく。一体全体、どうなっているんだか。
 羊水がとれていくのに伴って皮膚が爛れるような感触を伝達していく。
 僕を出してくれるらしい、わからないけども。
 右目の能力を無理矢理に押さえ付けていた管と生きるために必要なものをひとりでに黙々と運んでいた管さえも取り外された。
 難攻不落と揶揄されていた監獄なのにこうも簡単に逃げ出せる仕組みなのか、と呆れさせられる。
 全部押さえていたものが無くなり、しかも長らくの間自力で立つ必要性が皆無だったので床へと倒れ込む。さもすれば見飽きた包帯に黒い帽子の連中が僕をストレッチャーに乗せて運んでいく。
 す、と息を吸うと酸素と共に不要分が入り込み、その感触に吐き気を覚える。身体をストレッチャーの上で動かそうにも重力が邪魔をする。
 なんと、みすぼらしいんだろう、僕は。
 熱に焼け焦がれそうな瞳を閉じてやっと人間らしい休息を手に入れた。



「…………━━っ!!」
 嫌な、夢を見た。片っ端から現実なものだからもっと苛々してしまう。
 所謂、悪夢なるものなのだが。やっぱり現実が許になった夢ならではかリアリティが物凄くあり、気味が悪いほどだ。
 よく、こんな夢を見る。
 昔、大罪を犯した事によって閉じ込められた思い出。
 今も完全に自由なんかではなく事実上軟禁をされているような現状に、ため息を漏らしながら何もある筈がないソラを握りしめる。
「骸……よく寝れた?」
 部屋と廊下を隔てて寝ていた男がドアを小さく軋ませて入ってくる。
 僕を自覚もなにもなく軟禁をしている男、沢田綱吉。
 有り体な言い方をすれば宿敵といったところか。
 栗色のくせで所々に跳ねている髪の毛と蜂蜜を煮詰めたような色をした大きな瞳を持ち合わせた華奢で小柄。初めてあった頃からは何年も経過し、高校を卒業した瞬間にマフィアのボスになるという運命を背負った男。
「最悪、です」
 吐いてしまいそうだ、と言い捨てると大丈夫? と声を掛けられた。
 なんて、甘い言葉。僕には勿体無い位だ、と嗤う。別段、楽しい訳なんかじゃないけれど。僕なんて蔑んで嘲笑えばいいはず、それなのに僕を閉じ込める男は慈しみを僕へと与える。それがどれだけ僕を苦しめるかなんて知らずに。
「大丈夫だよ、骸の身体自体には損傷はないし。病は気からって言うくらいだから自分を信じてたら大丈夫だよ」
 かなり的はずれな発言をしてくれたボンゴレは僕を安心させたいのかなんなのか力なくこちらを見て笑う。病的な笑いだ、決して感情か高ぶる事なんて一切ないのに微笑む彼の精神が理解出来ない。
「信じる……? なにをですか」
「自分を、だよ。骸ってなんでも出来るじゃない」
 日のように笑いながら言われると心が段々と抉られていく音が聴こえそう。
「僕がなんでも出来る? なにを言ってるんですか。それは君の思い上がり、勘違いですよ」
 現に今、君を乗っ取れていない。と自虐的に言い放つ、君が僕の生き方を奪った事に気付かない程の鈍感なのかと改めて呆れさせられる。
「それはそうかもしれないけど俺はなんにも出来ないし……」
 自信なさげに呟きはじめた発言は言葉尻に近付くほど小さくなり遂には吐息となって消えてしまった。全く、話は最初から最後まで組み立ててから言えばいいのになんて馬鹿な人である。
「…………君は、神を信じますか?」
「え?」
 仕方ないのでこちらから切り返してやるといきなりの話の転換に頭がついていけないのか首をくきりと器用に曲げながら疑問を浮かべられる。眉尻が上がったり下がったり、目を魚のように動かして見せたりと完全にお手上げ状態らしい。
「……、神様っていると思いますか?」
 彼にややこしい内容を言った自分がいかに馬鹿だったかやっと考え付き、なるべく簡単そうな言葉へと言い換える。これでわからないと言われたら完全にお手上げで黙りこくるか違うネタをふるかこの部屋が出ていってもらうかするのだが。
「さぁ……俺はクリスチャンじゃないからわからない」
 ボンゴレには神イコール基督というイメージがあるのかも知れない。日本には古くから神道なるものがあった筈なのだが流石現代っ子というか知らないらしい。
「大体、自分が信じられなくても神がいる、そう思っているだけで救われるような人もいるのに僕は」
「骸は?」
 全部言わなくてはならないのか。と、心で毒づいてから大きくため息をついて、
「心の裏側、世界の裏側。そんな物を見すぎた所為で神という虚像にもすがれず、自分という現実にもすがれないんですよ」

 僕だってなにかにすがって明日なんて考えずに過ごしたかったけど、そんな事を誰も許してくれやしなかった。












*涙がどうして流れるのか、今まで僕は理解する事を放棄していた。

 一人、何処かで死んでしまったらしい。
 いつも漆黒のソファに腰掛け木製の豪華な机の上で書類を書いている筈の彼が、ソファに座ってはいるものの筆もペンも持たずにただボウと構えていた。
 いつもは爛々と輝くその金色の瞳が黒く翳り、生気がない。
 そしてなにより、頬に幾筋もの線が現れている。それは紛れもない、涙の跡だった。
 彼は泣くという行為が多大なる影響を第三者にもたらすのを知っているからか、泣く時はいつも自室に籠りきり。
 綱吉君、と小さく呼べばまるで魂が還ってきたと言わんばかりにはっ、と此方を向き、頬の跡をぐじぐじと手で拭く。
 机にはクリスタルガラスで出来たコップが鎮座しており、中には黄金色の液体。
ウイスキーを呑んでいたらしい、哀しみを紛らせる為だろうか。
「骸…………」
 眼は段々と醒めてきた模様で、今飲んでいたらしきウイスキーのような瞳がはっきりと色濃く見える。
 その台詞はまだ続きがあるかのよいに思えて、じ、と相手を見据える。
「また……、一人死んだんだ。また、俺の所為で。俺が頼んだ仕事が悪かったんだ……」
 さ、と顔に蒼さが交じり、それを誤魔化すかのように時間をおきすぎて氷が溶けた氷割りのウイスキーを一気に飲み下す。
「…………、そうですか。でも君は悪くないですよ」
 悪いのは仕事を遂行為損なった人が悪いんです。
 そう、続けると彼は覚醒した時のような紅と橙の瞳で僕を睨み付ける。
「骸……、お前は……!」
「クフフ、なんでしょう?」
 君の姿はやはり美しい。覚醒した時は格別に綺麗だ。十年前僕を焼いたその炎は気高い獣を連想させる。僕が持っていたどす黒く綺麗の欠片もない代物とは天と地の如く、違う。
 その姿を想像しながら相手を見つめていたのだが、その予想に反するの反しないのか否か判断に難しい風体、でもそれもまた綺麗だと思っていた矢先、
「どうして仲間が死んだというのに楽しそうに笑っている?」
 あり得ない、と言わんばかりの悲壮な顔付きをしながら僕を見つめる。
 楽しそう?

 当たり前だ。

 君の回りから僕を邪魔する存在が消えたんだから。
 それに誰かも憶えていない相手に感情を安売り出来るほど僕は感情豊かではない、寧ろ乏しいというのに。
 君を、この場所を、守る為にそれが命を散らしたのならばお疲れ様、と彼方に送るのが順当だろう。どんなに醜い人でもいつか、なにかに、変わって生まれ変わるのだ、悲観する必要性などない。
「じゃあ君はずっと哀しむのを故人は望んだと思うのですか?」
 僕は思わない。僕らは命を潰しても主が助かればそれでいい。生まれ変わる事はあるけれども、例えどんなに哀しんだとしても故人はこの世に生き返る事など一切の可能性もない。
 ただ、それだけでそれでしかない。なにも変わらないのなら、泣かないでいいだろうに。その考え方はどうやら彼には通じないらしくて、涙をぼろぼろと流していた。
「お前に、慈しみはないのか?」
 嗚咽混じりに口から零るる言葉はあまりにも悲痛過ぎた。
 部屋の隅にあった革張りの丸椅子を引き摺りながら彼の横に設置し、深く座る。それを確認しながらも、彼は隣に置いてある小型冷蔵庫からウォッカを取り出しグラスに注ぎはじめ、それを飲み干したかと思えばもう一杯注ぐ。
「僕は君みたいないい生活を送っていないもので他人に割く事ができる感情なんて無駄なものを持ち合わせる余裕なんてなかったです」
 サイドテーブルに入っていた新しいグラスにウォッカをなみなみと注いだかと思えば僕の目の前に置かれた。
 こちらも一息で飲み下せばアルコールが喉を焼く。黄金色の液体は胃の中に吸収され、いずれは肝臓への毒となるとわかっているのに気持ちが良かった。
「そうか……そうだったよな…………」
 幼い時から人間らしい生活など程遠く、他人を殺す為と言わんばかりのモラル等カケラもない人体実験。地獄か悪魔としか形容し難い生活を過ごして、その場所から抜け出せ、幾人かの部下と幾人かの操り人形を手に入れてこの世界ごと壊してやろう、と思った矢先、よくもまぁわからない理由で監獄に連れていかれた。そこから死に物狂いで脱獄し、逃げて逃げて安定した生活を求めて今の主に牙を剥いたのに勝てずにまた監獄に戻された。
 その後も他人の為と云うよりも自分に打ち勝つため、そんな一生で楽しみや嬉しさなど感じた事がない、そんな散々な人生だ。
 そんな事があったのに僕は十年前、自分の支配下に置こうと模索した男にすがるように生活をしている。
「えぇ、まぁ……」
「………………俺の気持ちを他人に押し付けるのは野暮だったかな」
 グラスを揺らせばからん、と涼やかな音が響いては消える。
「大丈夫です、気にしないで下さい」
 しゅんと萎えてしまった髪の毛に手を伸ばし、ゆさゆさと撫でれば掌に暖かみを覚えて急に愛しくなる。
「骸……、お前はいなくならないよな?」
「えぇ……、君は僕の主ですから」
「主なんて関係ないんだよ……、お前さえ生きてれば……」
「そんな事、言わないで下さい」
 僕がこの壊したかった、大嫌いな世界でも生きてみようと思わしてくれたのは、君なのだから。
 君がいたから、君がいるから、これからも君はいるだろうから。僕はこの世界に息づいているのだろう。
 実に単純明快、泣けるまでわかりやすい方程式だけれども、この世界に疲れずに生きるのにはその位が充分だと思う。
「うん……」
「僕は泣き方がわかりませんだけれども、」
「ん?」

「君が死んだのなら、泣くのでしょうね」

 涙を流す方法は忘れてしまったけれど、君の為に泣くのなら、涙を止める方法なんて解らなくなってしまうだろう。と、他人事のように思った。












上手く紡げない言葉にキスを。

「骸、」
 己が名を叫ばれる。居もしない筈の人だと分かっているのに、身体がびくっと揺れるのを自分でも感じる。それが示すのは歓喜だろう。
「骸!!」
 僕は何時から白昼夢も見るようになったのだろうか。なんと弱くなったのか、僕は他人を惑わす事を代償にこの世界に巣食っているのに、と思うものの、夢に騙されるのもたまにはいいかと後ろを見た。
「やっぱり骸なんだな!!」
 そこに居たのは存在する筈のない、死んだ筈の綱吉君だった。
「どうして君が……?」
 何時も僕が見ていた綱吉くんより幾ばくか小さいものの彼だ。丁度僕と君が会った時くらいの、幼い体躯に大きな瞳、そのまんま。
 打倒ミルフィオーレと意気込んでいる崩壊寸前のボンゴレに加勢してくれと頼まれて、嫌々来たのだが、彼を見た途端に戦って勝つのも一興かもしれないと思う僕は俗物かもしれない。
「なんか、こっちに来ちゃった……みたいなんだけど。骸が居てよかった」
 にはっと、太陽みたいに微笑まれる。こちらも少し嗤うのだが薄ら笑いのように見えるだろう、誰かを堕とす時に使う笑みしか浮かべられない僕は、十年経っても未だ不釣り合いで彼の隣には並べないのかもしれないと、ない胸が痛んでならなかった。
「そうですか、それはよかったです」
 くふふといつものように嗤いながら彼の顔をじ、と眺めるとまるで星屑のように輝いて見えた。
「骸は髪の毛伸びたね」
 上を向きながら肩にかかり重力に従って落ちている僕の髪を、それはもう楽しいと言わんばかりに撫で撫でと弄り倒される。
「ここ数年殆ど切ってないですからねぇ……。あ、そうだ。久しぶりに話がしたいんで付いてきてくれますか?」
 下を向き相手の頭の重力に逆らった髪を撫でれば、優しく首を振ってくれたので彼の手を握り自室へと歩く。
 小さくて女の子の様なこの手に、僕らの明暗が抱かれるのだ。なんて残酷な運命なのだろうか、何も知らないのに戦いに巻き込まれるなど。

×××

 広大なる地下を利用して作られたボンゴレのアジト。その中でも十年後の彼に頼んで手に入れた一番地下の端っこの部屋を、無造作に足蹴して二人で入った後にドアを優しく閉める。
 昔住んでいた廃墟は連想をしないものの基調としている羽のような白はどことなく病院を想像させる、そんな環境が幸せだった。
 家具も調度品も全て白で揃え、己が服は黒一色。モノクロで十年前の住居としていたレジャーランドとはまた違う寂しさが溢れている。そんな空間に色鮮やかな彼が入ると、ぴりとした空気が幾ばくかは柔らかく優しい感じとなった。
「そこのソファに座っていてください」
 お茶を淹れてきますから、と言ってから備え付けの小さな流し台に行き、アールグレイの紅茶を作る。淡く柄が施されたティーポットから零れる上品な香りに満足気に頷き、茶葉があった棚から茶菓子とお盆を取り出し、その上に一式を置いて彼が座っているソファの横に設置してあるサイドテーブルに置いて、自分もソファに座る。
「どうぞ、綱吉くん。甘いのが好きなら砂糖とかミルクを持ってきますが」
「あ、ストレートでいいよ。ありがとう、骸」
 カップを取って一口飲むと熱いからか苦いのか、さっと口から離す。どちらなのかと思っていれば熱かったらしく息を吹きかけていて、掛ける度に広がる波紋がまるであやふやな未来を示しているかのように見えてならなかった。
「熱かったですか?」
「……美味しいよ?」
 さっきからの地道なる努力のお陰で幾ばくか冷めたらしい紅茶を上品に燕下した姿を確認した後に、訊いた問いとまるっきり違う答えが、しかも質問系で帰ってきてしまったものだから、予想していなくてなにを切り出していいのかわからなくなり、一瞬固まれば骸? と問いかけれてはっ、と我に返った。
「…………しかし君はこんな状況なのに落ち着いていますねぇ……」
 話をどう続けていいかわからずに、無理矢理に話をずらした。
 不具合で飛ばされた十年後は親しかった人々が消息不明になっていて、自分達は無力で助ける事も出来ず、地下に逃げるように生活をする。彼が描いていた未来はきらきらと、それこそ星屑のように輝いていた事だっただろうから、絶望の縁に立たされてパニックを起こすだろうと思うのに、どもりもせずに僕が知っている過去の彼とは違う眼をしていた。
「そうかな? だって俺、内心は凄く恐いんだ…………」
「大丈夫、君ならどうにでも出来ますよ」
 頭を撫でてやれば気持ちよさそうに目を閉じていた。まるで一に慣れた猫のようだ。
「骸も落ち着いているね」
「いや、僕は違いますよ。自分の事がわからないだけなんです。だから今、君が見ている 表情に見合う心しているかと問われれば違うんです」
 幼い時から実験材料として身体を酷使された経験があるからか、物事に対して素直に対応出来ないだけである。
「骸は悲愴になりそうな顔だけど俺に微笑んでくれる、それだけで十分だよ。それにとっても綺麗だ」
 無垢そのものの笑みを浮かべながら、彼はソファに投げ出された僕の手に触れる。
「ありがとうございます」
 きっと僕は、この言葉を待っていたのだろう。その一言で身体中安堵するような錯覚を覚える。
「お礼なんて言われる程の事なんて言ってないよ」
「そんな事ありませんよ?」
 だって僕は君が大好きですから。
 悪戯のように囁くとぱ、と顔には朱が交じり明後日の方向を見つめる。
「え?」
 彼に触られていた手をこちらで握り返し、口許に近付け手の甲に口付けを落とす。
「嗚呼、すみません。びっくりさせてしまいましたか?」
「いや、その……別に」
あたふたと視線を右に投げ、左に投げとする彼が愛しくて優しく抱きつく。
「君は……」
「ん?」
「今も昔も暖かいです」
 顔を横に向かせて彼の唇を舐める。
「えっ?」「、なんでもないです」
 抗議を言おうと開かれたその熟れかけ果実のような唇を啄むかのように口付ける。
「…………、」
 淡くなる呼吸などなんのその、唇同士が触れ合うこの時間は何にも勝る甘美な一時。
「む……くろ?」
「綱吉君、つい最近十年前の僕が言いかけたのに何も言わなかった時があったでしょう?」
 星も恥じらって姿を消してしまいそうなまでに輝かしい緋と碧の瞳がじ、と俺に向き、まるで金縛りにあったかのように動きが固まる。
 しかし固まったままでもいけないし、質問に答えなければと、フリーズしていた脳を解 凍してずけずけとした物言いの骸が言い澱んだ時の記憶を探し始める。
「嗚呼、だから君は苦手なんです。あの時だって僕が敵だったのに、…………なんでもないです、それよりも僕は君を………………、やっぱり言うのやめます」
 そう、と頷いてからふと上を向くと悪戯が成功したかのような意地悪な笑み。
「でしょう?」
 十年前でも大人びていた彼だが、今は雄々しさと優美さが足されて余計に麗人へと近付いた骸は、その美麗さを一層際立てるような微笑みを俺に向ける。
「うん、そうだけど。どうして覚えているの?」
「さぁ、なんででしょうね?」
 骸は曖昧に誤魔化したと思えば、俺の額に唇をつけていた。












**狂った殺人鬼

 シャウトを彷彿とさせるような理解不明の言語。麻薬中毒者だとは聞いていたけれどもどうやら重症だったみたいで虚と実は見分けがつかなくて夢幻が無限に続くと勘違いをしているらしい。
「まるで、胡蝶の夢」
 胡蝶の夢。どこが発祥かは忘れてしまったけれども現実と夢の違いがわからなくなる話だった気がしたものだから不意に口から溢れた。
 そいつは黒塗りの銃を取り出した。かちゃ……、とリミッターを外したかと思えば此方に銃口を向けた。冷たい鉄の暴力、それは不必要までの威圧感を与えた。
「俺はお前と争う気なんかない…………ってなにやってんだよ骸!」
 隣にいる男はへらへらと笑いながら彼に問答無用で弾丸を撃ち込んだ。
 それは音速にまさるかどうかのスピードで相手の大動脈に突き刺さったのか血が噴水のように吹き出る。
 その後に忘れられていた弾丸の空気を切り裂く音が聴こえる。
「あぁ…………」
 死んでしまった。
 俺の部下が、殺してしまった。
 だく、だくだくだく、血が流れていく。きっと即死だろうな、なんたって大動脈生きる為の一番大事な血が流れている部分だし。
「ねぇ、なんで頭とか心臓とか無難な場所を狙わなかったの」
 口から溢れたのは打ち所。本当は殺した事に制裁を加えなくてはいけないのだけど、抵抗した場合は殺しても構わないと薄っぺらな紙切れに掲載されていで咎めきれない。
「頭も心臓も即死じゃないですか。あの男は君に銃口を向けた、楽に殺してあげる義理なんてありません」
 なんとも自分勝手な男だった。
 そして本来の目的だったモノの押収をしようと男に詰め寄るとなんとも苦痛な顔立ちで目が不気味な位見開かれて気味が悪く、瞼を無理矢理に閉じさせた。
「あーぁ……持ってませんねぇ、」
 今回の目的は麻薬関連に一口噛んだ奴から入手先を聞き出す事だったのだがからきし情報が見付からない。
 単純に言えば、
「他に誰かいましたっけ」
 全部こいつの所為だけれど。



2010/01/22
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