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*愚かとは誰をさした言葉なのか(Re!/骸→綱前提の雲+綱)

+10綱吉捏造
綱吉も雲雀さんもひどいひと











「……君はなにがしたかったのかい?」
 まるで懺悔室のようだ、と思う。

「わかりません」
 真っ黒な、喪服の如く色がないダークスーツに身を包み、葬式のように手を合わせる代わりにと匣を開けて敵をほふる。そんなヒトの醜い感情の表れた権化としか思えないような集団の頂点に君臨するは異質だった。
 無邪気も、無垢をも連想しかねない白のスーツに喪服らしさをおまけのように付け足す黒いシャツ、タイは僕らが忌み嫌う血にもにた赤。真夏だろうがなんだろうが手放さない手袋に殆ど開かれはしない匣。
 幹部の中には、死者への弔いの念が少ないだの人を殺したがらないボスなど不必要だと言ってやまない輩もやっぱりいるらしい。
 そんな事を言われてもいつも凛、と背筋を伸ばしている彼が心底気まずそうにこちらを伺う構図など誰にも思い付きやしないだろう。
「どうして? これは君がやったのに」
「お、俺でもわからな、」
 こちらが問うてもしどろもどろとした返答しか反ってこない。
 この十年間で君は成長をした筈なのに、僕に対しての態度は一貫して敬語で変わっていない。否。心を隠すように笑うのは変わったか。
「君がやったのに。全く変わってないね、綱吉は」
「つい……感情的にその、」
 もどりながら話す口からは流暢な言葉とは程遠くたどたどしい音、と言った方が無難だろう。
 その格好にいらいら、としてきて椅子に座った彼の手前、執務の為に使われる机に手を着くのではなくその上に座り込む事にした。
 それで腕を伸ばし、相手の顎を掴んでこちらを向かせる。
 ひ、とか弱い悲鳴が聴こえた気がした。
「君に僕は礼を言わなくてはいけないとは思う、けどこれは間違った方法なんじゃない?」
 綱吉の眼は前を見る事を放棄したかのように涙を沢山ためていた。
「う、ぁ。わかって、わかってたの、たんです。これがいかに、だめなことかくらい」
「……ふぅん、わかっていたんだ」
 顎を離してやると、必然的に下を向く綱吉。
「……は、い」
「じゃあ、君が犯した罪を言ってごらんよ」

「っ、俺は私情に走って、なか、仲間を、殺しまし、た」

 懺悔室とは、こんな感じなのだろうと思う。
 残念ながら行った事はないけれど、祭壇にいる司教様と吊り下げられたキリストの前で罪を吐き出す場所。
 この考えがあってるかどうかまではわからないので口には出さないでおく。
 勿論神様なんざ信じちゃいないし、僕は司教でないし、ここは教会からは程遠い場所だ。
「殺したのは誰?」
「雲雀さん、を殺そう、としていた、人」
 眼として機能してなかったそこからは透明な水がまろい肌を滑り落ちる。
「確か君が過去に死に物狂いで助けたのにね」
 そう告げると涙を手で無造作に拭き取った綱吉は悲壮だけで形どられていれのではないかという錯覚に陥る。
「お、俺はちゃんと、、物事を考えずに、相手の弁解なんて、一切聞かずに、くびり殺しまし、た」
 声には嗚咽が交じり始め、聞くに耐えない。
「そうそう、首と身体とばらばらにしたんだっけ」
「…………ぅ、はい」
 えげつない、死人への冒涜とも捉えられそうな表現。もう生きていない彼には人権などはなかっから存在しないのが正論、か。
「可哀想に、彼。ところでさ、どうして彼が僕を殺そうとしたか知ってる?」
「……、知って、ます」
 もう瞳は閉じられて新しい光を見ようとはしない。暗い暗い闇の中に意識が沈みかけているのではないかという錯覚。
「でさぁ、」

「君も彼と同じ事をしたっていう自覚はあるの?」

 きついともわかっている、辛いとも残酷だともと。
「…………ぅ、う、うあぁあ……」
「わかってる、わかっているよ。悪いのは彼だ、君じゃないって肯定してほしいんでしょ?」
「…………、っ」
 息を飲む、音。
 泣き真似までは半分やっているのがわかったものの、これは無意識にやったのだろう。けど。
「駄目だよ。僕はそんなにお人好しじゃないからね、許してあげない」
「……そん、な」
 ここからは紛い物の本当。悲壮という仮面を剥いだら絶望という顔が現れた、といったところか。全く可哀想な男、仮面を張るのなら誰にも看破されずにやり続けるのがルールってものだろうに彼が十年間で手に入れたものは中途半端過ぎたのを顕著に物語っている。
「もっと楽な方法もあった筈なのに君は一番酷い方法でやってしまった。誰にも救えない愚か者だよ、君」

「でも。雲雀さん、」
「なに?」
「俺は骸を納得させられる答えは言えたんですか?」
「さぁ。僕が知った事じゃない」
 突っぱねるしか選択肢を見いだせなかった。
 嗚呼、不思議だ。結局誰が間違っていたかわからない。
 好きな人と結ばれる為だけに僕を殺そうとした彼と、僕を殺されるのを防ぐ為だけに彼を殺した君と。
 なにもかも拒絶し、受け付けなかった僕。
 誰か教えてくれ、誰が一番愚かしいのか。

(あぁ、)
「一番は、僕かもしれない」

 彼がいまだに動かぬままに座っていたので後にした執務室。
 その帰り、そんな考えをしている僕に対して小さな嘲りをこぼした。









2010/01/21
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