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*好きだから逆らえないのです。(昭鍾)

天命館










「と、いう訳で」
 司馬昭は、黒地にショッキングピンクでデカデカと文字が書いてある鞄を目の前に置いてきた。あぁ、女子生徒が登下校中に使用しているショップバックかと瞬時に理解するのと同時に、どうして私の目の前に置いてきたのか訳がわからなかった。ていうか、なんでそんなモンを持っているんだ、この人は。元姫殿にでも借りたのだろうか。
「なにがどう、そういう訳なのか理解出来ませんが」
「だって鍾会にできない事なんて、ないんだろ? だからほら、早くこれを着ろって」
 司馬昭殿はバッグの中から、ひらりと服を取り出したそれは、ごちゃごちゃと装飾のついた黒い服であった。文化祭の間に着ろという事なのだろうか。しかし、男としては決して着たくない洋服であった。なぜなら女物、しかもミニスカートなのである。
「私が元姫殿の服が着れると?」
「え、これ元姫のじゃなけど」
 元姫が俺に服を貸してくれる訳がないだろ、と言うものだからこちらとしては開いた口が塞がらなかった。元姫殿のものじゃなかったら、誰のものだというのだ。私の為に買ってきたといったら、盛大に笑ってやる。
「じゃあ、誰のだと言うんです」
「え? 父上のだけど、どうかしたか?」
「はぁ!? あなたの家族は、どうなっているんです」
 けろっとした顔で言ってくれたものだから、開いた口が塞がらなかった。記憶が正しければ高笑いが大変似合う、どことなく私とキャラが被っている人だった筈なのだが。(というか、他校の生徒会長と張り合う、大人げない理事長である)決して筋肉質とは言えないが、女装癖なんて無さそうな人なのに意外である。人は見た目では決まらないといった典型的な例なのだろうか。
「なぜだか知らないけど、毎年、何着か送られてくるんだよなぁ。んで毎年、怒りながら父上が燃やしてるんだけど、今年は譲ってもらった。父上と鍾会の背なんてほぼ一緒だから、着てみろって!」
 ぐい、ぐい、と取り出した服を私に押し付けてくる。基本的にはめんどくさがりだが、自分で決めた事は最後まで突き通す男である。断れる気がてんでしなかった。もう少し力が強かったら、追い払えるのにと悔しく思う。間合いを詰められる前ならば、走って逃げられたらかもしれないが、もう後の祭りである。
「……それで、私に利益があるんですか?」
 最後は着る羽目になるのだろうけども、少しは抗ってみようと問いかければ、困ったように頭を掻きながら、相変わらずやる気のない声をあげている。会長である司馬師殿を、補佐しなくてはならない立場にある筈なのだが、なんとも頼りないものである。
「まったくお前は……。ほら、後で兄上が撫でてくれるって」
「私を、あの堅物と同じ扱いをしないでください」
 後ろに尻尾のように伸びた髪の毛を指で弄りながら、彼は少しばかり芝居がかったため息を吐く。狗と違って、あなたの見る目だけは信頼していたというのに、それさえも疑わざるを得なかった。あなたの兄に誉められて、なにが嬉しいというのか。
「なぁ、お願いだから着てくれよ」
「へぇ、それで?」
「兄上にその格好で歌えって言われたんだよ」
 ほら、バンドの。と言われて、文化祭の出し物であるバンドを思い出す。部活にも参加せず、生徒会もさぼっていた司馬昭殿に呆れた司馬師殿が「仕事しないなら、客寄せをしろ」と課したペナルティで組んだボーカルとギターしかいない二人きりのバンドである。一度だけだがCDを出した位の実力者だし、客寄せにはもってこいなのはわかるが、ペアに私を選んだのが不思議である。別に嫌な訳じゃないけど。
「男が着てるのを見て楽しいですか?」
「俺より背が低いし、顔的にも似合いそうだけどなぁ」
「おだてたって着ませんよ」
「バンドの為に着ろなんて言わねぇよ。俺の為に着てくれ。な?」
「……そこまで言われたら仕方ありませんね。ほら、感謝してくださいよ!」
 顔がカッと熱くなるのがわかる。何を言ってしまったのだろう、と後悔していた最中に「ありがとうな、鍾会」なんて言いながら、わさわさ、と髪を撫でられるものだから恥ずかしくてたまらなかった。


【おまけ】

「他の人もなにか出し物をやるんですか? 旧式とか旧式とか」
「お前、トウ艾の事好きだな……(無意識なんだろうけど、いらいらする)」
「あの男には負けたくないですからね!」
「(なんだかなぁ)トウ艾なら、元姫がやる出し物に参加するらしいぜ」
「あぁ、某大人数アイドルグループのダンスでしたっけ……旧式が女子制服を着るんですか? 男子制服すらまともに着れないのに!」
「諸葛誕も夏侯覇も女子制服着て踊るし、鍾会だって着てくれるんだろ?」
「……ま、まぁ、そうですけど。」


旧式と元姫が(苦労人同士)仲いいと萌える。
鍾会がことあるごとにトウ艾と(一方的に)張り合ってると萌える。
それを見て、もやもやと嫉妬する司馬昭に萌える。


2011/09/24
msu
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