背中合わせ
とにかく暁の装束は通気性が悪い。たかが4月されど4月、暖かな陽気はどこへやら、この装束のせいで気温は+5℃ほどにも感じるぐらいだ。
そして原因は絶対このコートのせいだけじゃない。それは自信を持って言える。
暑さを感じる私の身体とは違って、こいつの身体は傀儡なもんだから暑さなんて全く感じない。本当ひどい話だ。
「そうは思いませんかサソリさん」
「思わねぇ」
涼もうとして窓際で外を眺めていたら、サソリはちょうど良い背もたれだなどとほざいて私の背に全体重をもってよっ掛かって来た。背中が激しく暑い上に下手に動けばゲーム真っ最中のサソリは私に必ず制裁を加えるだろう。
それが1番恐ろしいため、結局私は彼が満足するまで仕方なく待つことにした。
時々サソリが指を動かすのに合わせて、背中に振動が伝わって来る。あまり激しく指を動かしていないところ、どうやらいつもの格闘ゲームではなくRPG系のようだ。
「レベル上げしてんの?」
「ああ、オレのヴィレッタがもうすぐ進化する」
「ヴィ…ヴィレッタ?」
「オレがつけたコイツのニックネーム」
何のゲームかは分かったがサソリのネームセンスはよく分からなかった。そうなんだと適当に返事を返すと、後ろからパタンとゲーム機を閉じる音がした。
「休憩」
ずずず、とより深くサソリが寄り掛かって来た。頼むからいい加減どいてと言いたいが言えるはずもなく。
「おもいー」
「我慢しろ」
私は確か午後任務だった気がする。それまでにシャワーやら忍具確認やら色々したいことがあるのに、このままでは動けそうにもない。
よし、と機嫌を悪くさせること覚悟で立ち上がろうとした。けど。
「サソリ、いい加減…」
「背中合わせってさ」
ふいに、声がした。もちろん今この場にいるのは私とサソリだけなんだけれど。
「……なんか、いいな」
サソリにはあまり似合わない台詞で、私は思わず身体の動きを止めた。
忍は背後をとられてはならない。しかしその背後をこんなに無防備にさらし、しかももたれかけて来るサソリは、きっと私を信頼してくれているのだろう。
当たり前な事実だけど、それが、すごく嬉しくて。
「……あと10分だけだよ」
そうして結局許してしまった私は、サソリに甘い。我ながら自分にひどく呆れた。
「さんきゅ」
まあ、それでサソリが安心出来るっていうなら、お安い御用だけど。
背中合わせ
(でもやっぱり暑い)
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黒様、相互ありがとうございました!
甘さ控えめですがどうぞもらってやってください。笑
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