変装禁止

家に入った途端に馴染みのある煙草の匂いがして思わずにやけたが、すぐ不機嫌な顔を装う。

「もう、帰ってくるなら連絡くらい…!?」
「あぁ、すまない」
「ひっ…」

リビングで出迎えてくれたのは知らない男の人だった。明るい髪の色に細められた目、そして眼鏡…誰?匂いだけは赤井さんだ。でも赤井さんじゃない…。
すっかり腰を抜かして座り込んでしまった私に、彼は手を貸そうとしてくれるが怖すぎて無理だ。触れない。

「や、やだ…」
「名前?」
「やだ…赤井、赤井さんっ…」

必死に彼を呼ぶが、一向に来ない。もしかしてこの人が赤井さんに何かしたんだろうかと最悪の事態まで頭をよぎる。
早く赤井さんに会いたい、助けてほしいと考えれば考えるほど涙が溢れてきてその場で年甲斐もなく泣きじゃくってしまう。

「名前、落ち着け」
「やだぁ…、秀一さん、秀一さん…っ!」
「目を開けろ」
「ひ、ぇ……?」

さっきまで違う人の声だったものが、聞き慣れた愛しい人の声に代わる。
恐る恐る目を開けてみると、私がずっと助けを求めていた人がじっと見つめていた。

「っ…!」
「すまない、そんなに怖がるとは…」

床にはさっきの男の人の皮が落ちている。…変装道具?
つまり、さっきの男の人は秀一さんだった?
そう理解すると一気に顔の温度が上がって、もうやけくそになって秀一さんに思いっきりしがみついた。

「バカじゃないですかもうー!!!怖かった!!めちゃくちゃ!!うわあああん!!!」
「そんなに怖かったか?」
「知らない人が家にいたら怖いわ!!バカ!!ほんとにバカ!!!ん、っ…」
「…可愛いな、名前は…」

今のどの流れでキスに至ったのか分からないが、秀一さんは嬉しそうに微笑みながら軽いキスを何度も落としてくる。
久しぶりに家に来た恋人にこんな仕打ちされるなんて思ってもみなかったけど、嬉しそうだからいいか…と結局許してしまった。

───

「…怒ってるんですからね。今日の夕飯は米に塩ぶっかけて食べてください」
「……名前が作った日本食が食べたい…」
「ングゥッ仕方ない肉じゃがでいいですか」
「…!あぁ、頼む」
「(かわいい…)」
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