お似合い?

「梓さん、これお願いします」
「はーい!あ、安室さんそれ取ってください!」
「はい」

時刻は午後5時を回ったところ。喫茶ポアロは学校終わりの学生や仕事をするサラリーマンなどで賑わっていた。
店内に響いてるのは安室さんへ向けられた甘ったるい声と会社かどこかに電話する声、そして…

「名前さん、それでね!」
「この事件も僕たちが解決して!」
「うな重ないのかここ!」
「あー待って待って順番に話して!」

少年探偵団のみんなの声。偶然ポアロで会ったはいいが、ずっとこの調子で個々に話し始めて止まらない。横では哀ちゃんとコナンくんが呆れたようにため息をつく。

「…ねえねえ、名前さん!」
「ん?」
「安室さんと梓さんって、お付き合いしてるのかな!」
「ゴフッ」
「わぁ!大丈夫!?」

慌てておしぼりを渡してくれた歩美ちゃんにお礼を言ってから吹き出してしまった珈琲と口元を拭く。さすがは女の子、小学一年生といっても恋に敏感なのだ。…ただ、そればかりは話題にして欲しくなかったというか…私が気にしてたというか…。

「やめてあげなさい、彼女困ってるでしょう」
「えー、だって哀ちゃんは気にならないの?あんなに息ぴったりだし!」

確かに、料理の盛り付け、配膳、片付け、オーダー取り、2人で息を合わせてうまく店内を回している。どこからどう見ても、まぁ、お似合いだ。
でも、私はどうしてもそれを認めたくなかった。

「…うん、私もあの2人はお似合いだと思うよ」
「本当!?名前さんもそう思う?」

自分で言っておいて胸がちくりと痛む。安室さんは一応、私の彼氏だ。ちゃんと段階を踏んで、告白を受けてお付き合いをさせていただいている。でも私は、なぜあんな高スペックな彼が私なんかと付き合ってくれているのか疑問だった。身近には梓さんだって、もうちょっとすれば大人になる可愛らしい高校生だっている。その中でどうして私を選んでくれたのか。

「……気まぐれだったのかなぁ…」
「今何か言いました?」
「あ、ううん、何でもない」

しまった、声に出ていたか。不思議そうにこちらを見る光彦くんと元太くんにジュースのおかわりを勧めて少しだけ俯く。
だめだちょっと泣きそう。少し潤んだ目を乾かそうと一生懸命瞬きをしていると、下から安室さんが顔を覗かせてきた。

「わぁ!びっくりした…」
「驚かせてすみません、下を向いてたので気分でも悪いのかと…」
「あ、いえ…何でもないんです…」

でも、と言葉を続けようとする安室さんに梓さんが「オーダーお願いします!」と声をかける。

「…ほら、呼んでるじゃないですか。早く行ってあげてください」
「……わかりました」

ちょっとだけトーンが低くなった安室さんの返事。もしかして、怒らせてしまっただろうか。心配してくれたのに冷たく返事してしまったから呆れてしまったのか。考えれば考えるほど安室さんに嫌われる未来しか見えなくて、さらに俯く。

「名前さん、具合悪いの?」
「えっ具合悪いんですか?」
「やばいじゃんか!安室の兄ちゃーん!名前さんが具合悪いって!」
「えっあ、いや…!」

慌てて訂正しようとするがもう遅く、みんなの声を聞いた安室さんは傍へ寄ってきて私を立ち上がらせた。

「…送っていきますから、裏で待っててください」
「あの、本当に大丈夫なので…まだお仕事も…」
「梓さん、すみません。名前が体調悪いようなので送ってきます」
「えっ、大丈夫ですか!?」

もうここまで来てしまったら訂正も出来なくて、結局大人しくしていようと安室さんに裏の更衣室に連れていかれる。安室さんはなんだかんだ言って勘が鋭い人だから、私の体調不良の嘘なんてとっくに分かっているだろう。こんな嘘のせいで安室さんの仕事の邪魔までして、本当に情けなくてとうとう我慢していた涙が零れてしまった。

「…何泣いてるんですか」
「だって、安室さんに迷惑ばっかりかけて…情けなくてっ…」
「僕がいつ迷惑だなんて言いました?」

安室さんはそう言うと親指で優しく涙を拭いながら唇にキスを何度も落とす。

「まあ、名前があんな態度取ってた理由は分かるんですけど」
「えっ」
「梓さんに嫉妬してたんでしょ?」

バレてる。めちゃくちゃバレてる。知られていた上であんな態度をとってしまったことが恥ずかしくて、自然と顔が熱くなる。

「心配しなくても、僕は名前しか見てませんから安心してください」
「…本当ですか?」
「本当です」

優しく微笑んだ安室さんにつられて私まで笑顔になる。行きましょうか、と伸ばされた手を握って、安室さんと駐車場へと向かった。


──
「私と安室さんが?」
「うん、お付き合いしてるんじゃないの?」

歩美が聞くと、梓さんは呆れたようにないないと首を振った。

「安室さんね、休憩中とかほとんど名前さんの話しかしないの。ベタ惚れなんだから!」
「え!安室さんって名前さんが好きなの?」
「そう!また今度名前さんと来たとき、安室さんのこと観察するといいよ。安室さんってば、接客中にも名前さんのことじーっと見てるから!」

安室がいなくなったポアロで暴露大会が始まっていたことは、安室は知る由もなかった。
prev|next
[戻る]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -