混浴事件

組織絡みの大事故の事故処理に追われて三徹目の朝、一応女性としてお風呂に入っていない状態にとうとう耐えられなくなり、私は浴室へと駆け込んだ。

「あぁ〜…生き返る…」

久々の温かいお湯に若干感動しながら身体を洗って、頭を洗って、湯船に浸かった後、ふとアレがないことに気付く。

「…洗顔フォームがない…」

しまった、脱衣所に忘れてきたかと思い、浴室のドアを開けて床をビシャビシャにしながら自分の荷物を漁る。どういう訳かブラジャーに引っかかっていた洗顔フォームを発見して浴室へと戻ろうとしたその時、バン!と勢いよく脱衣所のドアが開かれた。

「「は…?」」

私と同様、この状況を理解していないボサボサ金髪頭の彼はそっと背後のドアを閉めて私と向き合ってきた。

「…使用中か?」
「見りゃ分かるでしょ何入ってきてんの!?」
「すまない…」

慌てて近くにあったタオルで身体を隠すがもう手遅れだろう。完全に全てを見られた。
零は謝ってはいるがふらふらして出ていく気配はない。
…まあ、私が登庁してきたときにはもう仕事してたし、何徹目かわかったもんじゃない。限界を超えてるのは確かだろう。一応着替えも持ってるみたいだからここは譲ってやることにした。

「…零、私もう出るから入っていいよ」
「あぁ…」
「ん!?待て待て脱ぐな!私が出てからっ…!」
「…脱がなきゃ風呂には入れないだろ…」
「だから私が出てから脱いで!?」

んん、と小さく返事をした零の手はうまく動かないのか、ボタンが外れていない。うっ…かわいいなんて思ってないぞ…!母性本能擽られるとかそんなこと…そんなこと…!

「…名前…外せない…」
「あああもう本当に!!!あんたって人は!!!外してやるからこっち来て!!」

とりあえずタオルを自分の身体に巻き付けてからボタンを一つ一つ外していく。最後のボタンを外したとき、綺麗に割れた腹筋が目に入り慌てて目を逸らす。

「ほら、あとは脱げるでしょ。じゃ、私は着替えて……なにしてんの?」
「名前もほら…」
「え、え!?っやだ…!」

いつの間にか下まで脱いでいた零にタオルを剥ぎ取られ、浴室へと押し込まれる。逃げようにも男性の力には勝てるはずもなく、諦めて洗顔フォームを掌に出して泡立てる。

「顔洗ったらすぐ出るからね!こっち見ないでよ!」
「………」
「ちょっと、聞いて…?わあああ!!バカ!!起きろ!!」

返事をしない零を不審に思いちらっと浴槽を見ると、なんとそこにはお湯に顔を半分以上沈ませて目を瞑る零の姿。慌てて起こすと零は薄く目を開いた。

「……なにをそんなに慌てて…」
「そりゃ慌てるわ!なに寝てんのよ!」
「ねむい…」
「ほんっっっとにもう……!!ほら上がって!!頭だけ洗ってあげるから!!」

いつもの降谷零はどこへ行ってしまったのか。大人しく上がってきた零をバスチェアに座らせてシャンプーを手に取る。流石に一回じゃ泡立たなくて、一度流してもう一度頭を洗ってやる。

「あー…きもちい…」
「流石に身体は自分で洗ってよね…」

気持ち良さそうに目を瞑る零を見て、思わず笑ってしまう。こんなに気が抜けた零を見るのは初めてかもしれない。トリプルフェイスなんて疲れるんだろうな…と考えていたところで、誰かがドアを叩いてきて一気に血の気が引く。

「降谷さん?大丈夫ですか?」

か…風見さんーーーーー!!!!
多分、靴箱にある零の靴を見て入ってきたんだろう。私の靴は端に置いておいたから気付かなかったか。
とにかくやばい、こんなところ見られたらなんて言われるか…!返事をしろ、と零の肩を叩くがすっかり眠りこけている。

「降谷さん?」
「っ…」

どうしよう、このままじゃ心配して入ってきちゃうかもしれない…!風見さんの影がドアに近付いてきて、出来る限り身体を隠してぎゅっと目を瞑る。

「何か用か」
「!?」
「あ…いいえ、随分お疲れの様でしたので…」
「もう少ししたら出る」
「分かりました」

パタン、と脱衣所のドアが閉まる音を確認してから零の肩を思いっきり叩いてやる。

「…痛いな、何するんだ突然」
「あんた起きてっ…!」
「頭洗うの上手いな、名前。前に行った美容院の潜入捜査のおかげか?」
「そんなこと今はどうでもいいの!いつから起きてたの!」
「俺は一度も寝てない。少し目を瞑っていただけだ」
「…っバカ!!」

もう一度肩を叩いてから急いで浴室から出る。…待てよ、一度も寝てないのに突然はっきり話せるようになるなんておかしい。まさか、最初から演技して…?
熱くなっていく顔を無視してタオルで思いっきり頭を拭いていく。どうして零がそんなことをしてきたのか、今の私にはいくら考えても答えは出てこなかった。

─数分後、着替えている最中に浴室から零が素っ裸で出てきてまた叱ることになるとは思いもしなかった。
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