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▼ 炎が上がる

※ゼロの執行人ネタ


「本当に、困ってるんです…!炎上なんてしたことないんですよあの人は!!」
「まあまあ、落ち着いて…」
「落ち着いていられません!!」

目に涙を浮かべて私に訴えかける梓さん。どうやら安室さんがイケメンなせいで梓さんが炎上しているらしい。こんなに可愛らしい梓さんになんて顔させるんだ、と安室さんに怒りたいけどあとが怖くて言えるわけなかった。

「でも、安室さんだって悪気があったわけじゃ…」
「そりゃそうですよ…。悪気があってやってたらマスターに言いつけます…。…というか!被害者私だけじゃなくて…!」
「今日安室さんいるかなぁ?」
「えーいなかったらショックー」
「!!い、いらっしゃいませ!」

突然入り込んできた女子高生の集団はきょろきょろと店内を見ながら席へと着く。梓さんはびくびくと怯えながら注文を受けている。…あんなに怯えて、可哀想に…。

「…ねえ、あの人…」
「……そうだよね。絶対あの人だ…」

ひそひそと話す女子高生たちの視線は梓さんへ…ではなく、何故か私へと向けられている。え、私?
何故か梓さんもあちゃーって顔してこっちを見ている。
まさか、さっき言いかけていた被害者は梓さんだけじゃないって…。

「絶対そうだよ!安室さんの愛人!」

思わず飲んでいた珈琲を吹き出すところだった。愛人?私が?安室さんの?
すかさずスマートフォンを取り出して“喫茶ポアロ”と調べると、検索結果の3つ目に安室さんの愛人がどうのこうのみたいな記事が出てきた。…被害者って、私か…。
梓さんはおろおろしながら私の近くへ来て囁く。
「ご、ごめんなさい…炎上してるの、私だけじゃないんです…」
「そのようで…。何なんですか、愛人って…」
「それが、前に名前さんが安室さんの車に乗るところを見た人がいたみたいで…書き込んだみたいなんです」
「へぇ…」

もう返す言葉もない。車に乗る=愛人ってどういうことだ。
梓さんは流石にまずいと思ったのか、キッチンの方へ戻って急いで女子高生たちの注文したものを準備している。ケーキで気を引く作戦か。素晴らしい。
これで少しは大人しくなるだろう…とほっとしたのも束の間。

「いらっしゃいませ」
「きゃー安室さん!今日来てたの!?」
「はい。裏でケーキ作ってたんです」

余計に騒がしくなった店内にうんざりしながら梓さんが申し訳なさそうに持ってきてくれたケーキを頬張る。あれ、こんなケーキあったっけ?と首を傾げながら食べていると「お口に合いますか?」なんて素敵な笑顔を浮かべて安室さんが近付いてきた。もちろん、女子高生はこっちをじっと見ている。こわい。

「美味しいですけど…これ、もしかして新作のケーキですか?」
「まだ試作段階なんですけど、どうしても名前さんに食べてほしくて出してもらいました。名前さんが好きなベリー、たくさん使ってるんですよ」
「ワァ…ウレシイナァ…」

痛い。女子高生たちの視線が刺さっている。炎上待ったなし。この人、絶対に私のことからかっている。

「あのねぇ、安室さん…人のことからかうのも大概にして…」
「そんなことをした覚えはないんですけどね」

すっと近付けられた顔の近さに若干驚きながら安室さんの方をちらりと見る。

「だから、それがからかってるって…」
「…好きな女を甘やかしたくてやってたんだが、いけないことだったか?」
「へ!?」

誰にも聞こえないように耳元で囁かれた言葉。それは確かに安室透の言葉ではなくて。
私と安室さんの顔の近さに騒いでいる女子高生たちの声なんて私の耳に届きはしなかった。


「(あれってからかいじゃなくて、甘やかしだったのか…!)」
「(あぁ、また炎上する…!)」
「(面白いなぁ)」

顔を赤くする女と、顔を真っ青にする女と、笑顔の男。
喫茶ポアロは今日も平和である。

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