小説 | ナノ


▼ 女の子の日

“頼みがある”

30分ほど前に名前から送られてきたメール。
俺も名前も普段からメールでの連絡はしない方だ。
組織で何かあったか、それとも公安の方か。電話の方が手っ取り早いと思い電話をかけるが全く出る気配はない。
少し心配になりながらもとりあえず名前の住むマンションに着いた。念の為もう一度電話をかけてみるが出ない。
もう行くしかない、と部屋の前まで来てチャイムを押してみる。

「……零…?」
「…なんだその顔…」

しばらくすると、驚くほど顔を真っ青にした名前が出てきた。とてもじゃないが元気だとは言えない姿に、早くベッドに入るように促す。
女性の部屋に入るのはどうかと思ったが、まずは状況把握のためにお邪魔することにした。

「で?頼みって何だ」
「……あの、大変言い難いんだけど、えっと…」
「はっきり言え」
「…生理痛の薬、買ってきてもらえませんか…」
「……は?」

少し顔を赤らめながら頼んでくる彼女に聞き返すのもどうかと思ったが、つい声に出てしまっていた。
生理痛?つまりこいつは生理痛が酷くて、薬もなくて困ってたから俺に連絡を寄越したと。

「だから、そこら辺のドラッグストアで生理痛の薬買ってきてもらえませんかっ…!もう、痛くて動けないの…お願い……」
「…分かった。待ってろ」

なるほど、女性の“あの日”だったとは。名前も女なんだな、と変に納得しながらドラッグストアへと車を飛ばす。
なるべく急いでドラッグストアに入店するも、あいにく女性のそういう薬には疎い。なんて薬か聞けばよかった…失敗した、なんて思いながらそれらしきコーナーをぐるぐると回ってみる。分からん、種類があり過ぎだ。

「何かお探しですか?」
「え、あぁ、薬を…。あの、彼女がお腹が痛いらしくて」
「腹痛…ですか?」
「いえ、女性特有の…」

そう言うと、話しかけてきた店員はあぁ、と納得したようでいくつかの薬を紹介してくれた。

「症状は重い感じですか?」
「はい、痛くて動けないようで…」
「でしたら、こちらがおすすめです。合わなかったり、あんまり辛そうであれば病院に行ってくださいね」
「分かりました。ありがとうございます」

…いい店員で助かった。
すぐさま車に乗り込み、名前の家へと戻る。
急いで部屋に入ると、名前はベッドに横になりながら浅い呼吸を繰り返していた。相当辛そうだ。
すぐに水と薬を用意して名前を起こすと、薄く目を開いた。

「薬、買ってきたぞ」
「あ、ありがと…」

身体を支えながらゆっくり上体を起こしてやって、薬と水を手渡す。薬を飲んだところで水の入ったコップを受け取り、近くのテーブルへと置いた。

「……はぁ、ありがとう、零…。ごめんね、こんなこと頼んじゃって…」
「…全くだ。突然あんなメールもらった俺の身にもなってみろ」
「ごめんって…。電話も出れなくてごめんね。スマートフォン、キッチンに置きっぱなしだったんだけど、もう取りに行く体力もなくて…。助かったよ、ありがとう」

力なく微笑む彼女。いつもの元気な笑顔が見たい、なんて柄にもないことを考えてしまって自分で笑ってしまった。
突然笑い出した俺を不思議に思った名前が首を傾げる。

「薬飲んだんだからさっさと寝ろ。俺は仕事に戻る」
「そっか、仕事中だったもんね。ごめん、ありがとう。悪いんだけど、鍵…閉めてポストに入れてもらえると助かる…」
「あぁ、分かった」

名前が完全に寝入ったことを確認して、音を立てないようにキッチンへと向かう。
…らしくないな、と思いながら勝手に冷蔵庫を開けた。

−−

目を覚ますと、当然だけど零の姿はもうなかった。薬も効いたようで、動くのに支障はないくらいまでに回復している。
ベッドから降りて、零にお礼のメールを入れるためにキッチンへスマートフォンを取りに行ったとき、異変に気付いた。…なんだ、この美味しそうな匂いは。
まさか、とキッチンに置いてある鍋の蓋を開けると、そこには美味しそうな卵粥。
作った人なんて、1人しかいないだろう。

「…あー…もう…」

散々迷惑をかけたのに、こんなの作ってくれるとか。
段々と熱くなる頬を手で押さえながら、卵粥を温めようと火をつけた。

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