▼ お互い様
「あーーーーーー…死ぬ…」
「…仕事してくださいよ」
「無理、足りない、零が足りない」
そう言って椅子の背もたれにぐでっと寄っかかる。
風見さんはこりゃダメだと言わんばかりにため息をついている。聞こえてるぞ。
私たちの立場上警察庁で会うなんてことは滅多になくて、組織の方でも任務がなければ会うことはない。つまり、会わない時はとことん会わないのだ。
まあ、普通の恋人同士みたいにイチャイチャしたいわけではないからいいんだけど。それでも限度というものがある。
会いたい。会って癒されたい。
「もうやめよう…公安…」
「なに馬鹿な事言ってるんですか」
「風見さんは平気なんですか!!零のあの整った顔をずっと見てないのに正気を保ってるだなんて、信じられませんよ!」
「先日お会いした時は疲れてましたけど元気そうでしたよ」
「おい待て風見なんつった今」
ゴロゴロゴロゴロとすごい勢いで椅子を移動させて風見さんに近寄るとすごい勢いで逃げられた。
「…零に会ったんですか」
「えぇ。調べてほしいことがあるって…え、え!?な、なんで泣くんですか!!」
「泣いてませんこれは悔し涙です」
「泣いてるじゃありませんか…」
さっとハンカチを目元に当てられて、癪だから思いっきり拭いてやった。きっとマスカラで真っ黒だろう。
ていうか、風見さんには連絡とってて私には何もなしか。そうかそうか。そうですか。
「……もうやだ…」
「苗字さ…っ!?」
「こんなことで泣くなんて……情けない…っ」
これ以上泣き顔を見られたくなくて俯く。仕事上で必要な連絡を取ってただけ、分かってはいるけどどうしても涙が止まらなかった。風見さんに嫉妬だなんて格好悪い、私。
「あの…苗字さん…」
「なんですか今話しかけないでください」
「いや…あの…」
「っだからちょっと黙って……?」
顔を上げてみると、風見さんの目線は私ではなく私の後ろに向けられていて。
まさかと思い、恐る恐る振り返る。
「ひぇっ……」
「……」
いた。彼はそこにいた。
とっても無表情で彼はそこに立っていた。
「…降谷さん…いつお戻りに…」
「5分ほど前だ。風見、席を外してくれ」
「はい…」
5分ほど前だって、全部聞かれてたじゃないか。いい歳して情けなく泣いてる姿も見られた。もうダメだこんなババア捨てられるんだ。
「名前」
「なんですかあなたまで仕事しろって言いに来たんですか」
「…名前」
「悪いけど仕事はちゃんとやってますしこれは涙じゃなくて汗です。降谷さんはお気になさらないで仕事に戻って……!」
「…お前だけが、そんな思いしてたわけじゃない」
ぎゅうっと力強く抱きしめられると同時に、ちゅ、と優しく耳元にキスをされる。
え、これ本当に零?零ってこんなことする?
「っあの、」
「帰るぞ」
「え?」
「上にはもう許可をとってある。会えなかった分、今日はとことん甘やかしてやるから」
だから泣くな、と今度は目元にキスをされれば自分でも分かるくらいに顔が真っ赤になっていく。
何か言ってやろうと口をもごもごさせるが、嬉しそうに笑う零を目の前にして私はまた俯いてしまった。